Myway Club 連載記事


ヨットで世界を旅する(最終回)
第5回「誰にでも実現可能な現代のヨットクルージングライフ」
Robert Sendoh (ロバート・センドウ)


操船中の筆者











今週は、今までセーリングスクールを運営してきた間に寄せられたよくある質問についてのお話しです。このホームページをご覧の方々の中にも「まったくのヨット初心者である私が、コースを受講することはできるのでしょうか」との懸念や疑問を抱かれている方も多いと思います。

 これまで、現代のヨットクルージング事情についてお話してきましたが、最終回の今回は具体的な数字などを挙げて、欧米の人たちがどのようにしてこのライフスタイルを実現しているかをご紹介します。
 紹介にあたっては、欧米でも最も多いケース、すなわちリタイアの後、夫婦二人でクルージングライフスタイルをはじめるというパターンに沿ってお話させていただきます。また、欧米の例ではありますが、日本人がそれを実現する方法をお伝えします

≪ライフパターン≫

 北米における典型的な人生パターンは以下の通りとなります。
(1) 子供の頃、親戚、親の友人・知人、ともかく誰かがクルージングヨットを持っていて、それに乗せてもらった経験がある。
(2) 郊外の一軒家には大きなガレージがあって、車をはじめとした色々な機械類を修理する道 具がたくさん詰まっている。子供は親と一緒にガレージで機械いじりを始め、車のメカなどにやたら詳しくなる。
(3) 学校を卒業して社会人となり、働き始めた。自分自身は忙しいが、やはり友人・知人の誰かに誘われてバケーションでヨットクルージングを経験。自分自身でやりたいが、経済的にも時間の上でもちょっと難しい(勿論、ヨットを趣味として始める人もいます、ここではごく普通のパターンを紹介しています)。住まいはダウンタウンのしゃれたアパートメント(日本流にはマンション)。
(4) 結婚、当初は共働き、ダウンタウンのヤッピーが住む場所でシティーライフを楽しむ。ヨットを楽しむ暇は無し。子供が生まれたところで郊外の一軒家に移り住む、住宅ローンと子供の養育でヨットライフを楽しむ余裕は無し。
(5) 大きくなった子供が巣立ち、再び夫婦二人の生活が始まる、同時にリタイアが見えてくる。もう大きな家はいらないので、便利なダウンタウンのアパートメントに移り住む。
(6) リタイアが見え出してきたときに、リタイア後のライフスタイルとしてヨットクルージングを選択、プランを立て始めると同時にセーリングスクールへ通うなどして勉強を始める。
(7) リタイアの数年前、中古のヨットを購入、自分で少しずつ手直しをしたり、練習をする。
(8) 待ちに待ったリタイア、それまで住んでいたアパートは売却もしくはレンタル、夫婦でロングクルーズに出かけるか、クルージングに適した場所に小さなアパートを借り、そこをベースとしてクルージングライフを始める。

≪船のコスト≫

 ここでは中古の30〜35フィート、沿岸クルーズを夫婦で行うのにちょうど良いサイズで、クオリティーとしては必要十分なレベルを想定します。
(1) 船と主な装備を購入:400〜600万円あれば十分です。もちろんお金をかけようと思えばいくらでもかけることはできますが、これくらいの予算があればクルージングを楽しむのに十分です。
(2) 船の維持費:例えばカナダ・バンクーバーの一番便利なダウンタウンエリアのマリーナで年間のバース料が40万円くらい、これに年に一度船を陸に上げて整備する費用(自分でやるという前提)が25万円、プラス消耗品として30万円程度、合計は95万円になります。

≪クルーズコスト≫

 クルージングを行う場所によって異なりますが、ここでは多分日本人に一番向いている(気候や自然・社会環境)バンクーバー周辺を例に、1週間あたりのコストを挙げます。
(1) 食費(2人):船に全ての食材を搭載しますから、これは食材費のみ。1日一人あたり1,000円あれば十分です。従って1週間2人で14,000円。週に2度マリーナなどのレストランで食事をすると15,000円をプラス、ビールやワイン(ワイン3本、ビール12本)4000円、合計33,000円。1ヵ月で132,000円。
(2) 燃料費:このクラスのヨットに搭載されているのはせいぜい20馬力のディーゼルエンジンです。しかも基本的には帆走ですから、かなり忙しく1週間クルーズしても4,000円もあれば十分です。これがパワーボートとの大きな違い。パワーボートは大きなエンジンでスピードを出して走りますから車に比べても燃費はとても悪く、このサイズのパワーボートならばドラム缶一本くらいのガソリンはすぐに使い果たします。
(3) 停泊料金:行く先のマリーナに停泊したとして、35フィートクラスで一晩約3,000円、週に2泊したとして6,000円。バンクーバー周辺であれば週に多くても2泊以上はしないと思います。というのはアンカレジ(小さな入り江)に錨を降ろして停泊(無料)したほうがプライバシーが守れますし、なんといってもそのほうがずっと気分が良いのです。マリーナに行くのは洗濯や買い物、シャワーを浴びたいなどの必要のあるときだけ。
(4) 合計:1週間で43,000円(1ヵ月で172,000円)、この費用で素晴らしい大自然の中を自由にクルーズできるのです。

 以上をまとめると、船を購入するのに400〜600万円、マリーナに7ヵ月泊めておくとして年間維持費が80万円、年のうち5ヵ月間クルーズするとしてその費用が86万円となります。最初に述べた通り、お金をかけようと思えばもちろんいくらでもかけられますが、これは物質的な贅沢はせずに、大自然の中のヨットクルージングという贅沢をするということでのコストです。また、カナダにはこの費用よりもはるかに安価にクルージングを楽しんでいる人もたくさんいます。

≪日本人へのお勧めパターン≫

 まず絶対に必要なものがあります。
(1) 貴方の心:ヨットクルージングライフスタイルを楽しみたいという心、そしてのんびりと時間を過ごすことのできる、ゆとりある心。
(2) シーマンシップ:クルージングを実現するための知識と技術。少しばかりの実践英会話能力。

【どこでどのようにして楽しむか】
 残念ながら、日本はいろいろな理由でヨットクルージングに向いているとはいえません、外洋に直接面した荒れる海、台風、人口が多いので良好な停泊地が無い、夏は暑くて湿度が高いのでヨットに泊まるのは極めて不快、などなど。
 そこでカナダ・バンクーバー周辺をお勧めします、理由は以下の通りです。
(1) 自然環境や社会環境が素晴らしい:美しい自然が残されているだけではなく、海がとても穏やか、夏のクルージングシーズンの気候が快適そのもの(北海道の夏と考えていただければよいでしょう)。クルージング先進国だけあって、クルージングを楽しむための社会インフラがとてもよく整備されています。
(2) ボートに乗っていて気持ちが良い:ヨットに限らず、パワーボートや漁船を含めてとてもマナーが良く、治安の面でも全く問題無し。
(3) 日本から近い:成田から8時間、毎日数便の直行便が出ています。
(4) 魚介類が美味しい:豊かな北の海、魚介類が豊富です。シーズンには蟹や牡蠣が取り放題といっていいほどたくさんあります、魚を食べる日本人にはぴったり。

【具体的なお勧めプラン(ヨット未経験の人)】
(1) 学ぶ:まず、シーマンシップを身に着けましょう、カナダのウインドバレーセーリングスクール(お申し込みはABCカルチャーセンターまで)は日本人による日本人のための唯一の本格的セーリングスクールです、1週間のコースから1年間のコースまで、スケジュールにあわせて貴方のペースで学ぶことができます。
(2) 船を購入:カナダで購入、バンクーバーを拠点とすることをお勧めします。カナダは6ヵ月間連続滞在が可能です(アメリカは2ヵ月)、日本人でも船を購入して登録することには全く問題ありません。
(3) クルーズを楽しむ:気候のよいシーズン、例えば5月にバンクーバーに来て、10月まで滞在、BC州沿岸をあちこちクルージング、とても数年では周りきれません。バンクーバーに来たときには最初の数日〜数週間だけアパートメントホテルに滞在、クルーズの準備をします。準備ができたら出航、あとは船が自宅となりますから上記のクルーズ費用だけで済みます。
(4) オフシーズン:オフシーズンは日本に帰国、その間、船はケアテーカーが定期的にチェックします(費用は月に200ドルもあれば十分)。

これが、バンクーバーでのヨットクルージングライフです。みなさんも始めてみませんか。
もし海が好き、アウトドアが好きな人ならば絶対にお勧めです。
貴方にできない理由は? あるとしたら貴方自身の心の持ち方だけです。

これまでお読みいただきありがとうございました。質問がありましたらどうぞお寄せ下さい。



Robert Sendoh
(ロバート・センドウ)


プロフィール
バンクーバー在住の日系カナディアン。40歳を過ぎてからカナダに移民。移民後にヨットを習い始め、カナダヨット協会のインストラクターを経験の後、カナダを本拠地とする世界的なヨットトレーニング団体、ISPA ( International Sail & Power Association)の設立に参加。現在は同団体のInternational Director / Vice President。日本の活動母体であるISPA Japan (NPO団体)の副理事長。日本に本格的なクルージング文化を紹介することを目的として活動中で、今までに数多くの日本人クルージングインストラクターを養成するとともに、バンクーバーを主たるベースとしてWindValley Sailing Schoolを運営。

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