Myway Club 連載記事


ヨットで世界を旅する
第5回「ヨット受講の疑問と懸念にお答えします」
Robert Sendoh (ロバート・センドウ)


操船中の筆者








今週は、今までセーリングスクールを運営してきた間に寄せられたよくある質問についてのお話しです。このホームページをご覧の方々の中にも「まったくのヨット初心者である私が、コースを受講することはできるのでしょうか」との懸念や疑問を抱かれている方も多いと思います。

 まず、結論から言えば「全くの初心者でも問題なく受講できます」ということです。ISPAをはじめとして、欧米のヨットサーテフィケート団体は長い年月をかけて、合理的なトレーニングシステムを開発してきました。トレーニングの内容はもちろん、実際に教えるインストラクターの養成システムも同時に進歩を遂げ、初心者でも気楽に受講できる総合システムとなり、年齢や性別は全く問題となりません。
 日本にはウィンドバレー・セーリング・スクールが初めてこのシステム(ISPA)を紹介し、今まで大勢のセーラーを育成してきました。しかし、それでもちょっと心配という方のために、以下に具体的な説明をしてみましょう。

■成人男性

 ふつうの男性の場合は、特に心配することはないでしょう。特に説明を要することはありません。「毎日シャワー浴びないと駄目」とか、「毎日一度は○○のコーヒーを飲まなきゃ」、はたまた「寝る前に化粧を落とす必要あり(最近男性化粧品があるようですね!)」とか、そんなヤワなオトコは例外です。

■女性

・力が必要か
 ヨットクルージングで一番力を必要とするのはシートワーク(セールについているロープを引っ張る)ですが、これも手で引けなくなったらウインチを使いますから女性の力で十分可能です。あとはアンカーを揚げるとき、この場合にも他のクルーとの共同作業ですのでゆっくり休みながら行えば大丈夫です。
 こちらのアンカレジでよくお目にかかる風景ですが、のんびりと隣の船の人とおしゃべりしながら、休み、休み、30分以上かけてウインチでアンカーを揚げている奥さんもいます。旦那はあきらめ顔で「ハニー、まだかね」。クルージングはこれでイイのです。
・マリンヘッド(トイレのことです)
 船のトイレを使用するとき、他のクルーが気になるときにはキャビンの音楽の音を上げるとか、水を出しながら用を足すとか、ちょっと工夫することにより周りを気にせずにトイレを使えます。それでも気になるのならばいい方法が一つ、「Privacy Please」と宣言、男性全員をキャビンからデッキに追い出します。これも立派なシーマンシップ!
・シャワー
 湿気がとても少ないカナダでのクルージングでは、男性の毎日のシャワーは認めませんが(私のポリシーです)、女性の場合には認めます。麗しきロングヘアーを風になびかせてラットを持っているのは素晴らしい風景ですからね。
 日本の夏、日本の海しか知らない人には想像が難しいと思いますが、実は日本の夏の海は世界有数の湿度の高いエリアです。したがって、日本でもし夏にクルージングするのなら毎日のシャワーは必須ですが、日本以外の多くのクルージングエリアではそんなことはないのです。特にカナダ西海岸はその意味では最高の場所です。
※実は船には温水の出るシャワーがついているものがたくさんあるのですが、水の無駄使いをできるだけ避けるのがヨット乗りの心得なので自分のスクールではこのようにしています。南太平洋などでコースを行うときには船のシャワーを使います。

■運動神経

 よくあるのが「私は運動オンチ、スポーツなんてしたことない」という心配。ヨットには二つの側面があります。一つはスポーツとしてのヨット。これには確かに筋力と運動神経、反射神経が必要となります。
 もう一つの側面が「ライフスタイル」としてのヨット。クルージングはこちらの方です。ゆっくり、楽しく、そして安全が一番大事なことです。スポーツに必要とされるような運動神経とか筋力は(あった方がいいのはもちろんですが)特に必要ありません、むしろ絶対に必要なのは、「クルージングを楽しむための心のゆとり」です。

■英語

 海外でクルージングしようとするとある程度の英語力は確かに必要となります。ただし、ほとんどの日本人は文章の理解力を既に持っていますから、あとはほんの少しの勇気、英語を使うということになれることです。一般的に日本人は、英語を話せないということに必要以上にナーバスになりがちですが、他の非英語圏の人々は本当にカタコトの英語でも堂々と使ってコミュニケーションを何とか行っています。
 私の主催している一連のコースでは、ナビゲーションをはじめとしてクルージングに出かける準備の仕方をしっかりと学びます。事前準備さえ十分に行えば、現在の日本人の普通の英語力と少しの勇気、慣れがあれば十分。一番良いのは英語とクルージングを両方一緒に学ぶことで、これはとても効果があります。

■年齢的に心配

 シーマンシップの習得は楽しく行う老化防止!シーマンシップは知識と技術をバランスよく身につけなければなりませんので、かなり頭も使うことになります。しかも机上の知識と異なり、実際に役に立ち、使わなければならない知識ですから勉強も楽しく行うことができます。

■子供

 「家族みんなで一つの目標に向けて共同作業」、近頃ではこんな風景がめっきり少なくなりました。ファミリークルーズはそんな風景を取り戻すのに最適な方法の一つです。お母さんがラットを握り、子供達はそれぞれクルーワーク、お父さんはキャビンでナビゲーション、みんなで船を動かす。北米ではよく見る風景です。

■トレーニング

 大体10歳以上ならば、コンピテントクルーレベルのトレーニング(一部を除く)を受けることができます。ロープワーク、安全備品の使い方、セールをたたむ、クルーとして十分に役立つことができます。
 現代生活ではともすると手を使って作業する習慣が失われがちです。シーマンシップトレーニングは子供の持っている可能性を大きく広げること疑いなし。ヨット先進国の上流家庭の子供達は今でも小さい頃にヨットに乗る習慣が続いています。社会に出て大人になったときの社会人としてのたしなみの一つとでもいえましょう。

以上、だいたいカバーしていると思いますが、よくある質問と回答でした。


Robert Sendoh
(ロバート・センドウ)


プロフィール
バンクーバー在住の日系カナディアン。40歳を過ぎてからカナダに移民。移民後にヨットを習い始め、カナダヨット協会のインストラクターを経験の後、カナダを本拠地とする世界的なヨットトレーニング団体、ISPA ( International Sail & Power Association)の設立に参加。現在は同団体のInternational Director / Vice President。日本の活動母体であるISPA Japan (NPO団体)の副理事長。日本に本格的なクルージング文化を紹介することを目的として活動中で、今までに数多くの日本人クルージングインストラクターを養成するとともに、バンクーバーを主たるベースとしてWindValley Sailing Schoolを運営。

[STEP UP ぴあ MyWay TOPへ]