メイキング

  驚異のCG映像の迫力

製作費1億3000万ドル! かつてないスケールのCGスペクタクル



本物の巨大セットと最新鋭CG技術により、古代ローマ帝国の街並みや
巨大コロシアムを空前のスケールで映像化!


  『グラディエーター』の誕生


巨大コロシアムに立つローマ剣闘士。彼は皇帝を見上げ決断を待つ。生死を決める皇帝の親指が指し伸ばされ、最高権力者は冷酷な表情で剣闘士に敗者を殺すよう指示している。 これは、19世紀の画家ジャン=レオン・ジェロームによる"Pollice Verso"(指し降ろされた親指)に描かれた情景である。そしてこの絵画こそが、リドリー・スコットの想像力に火を付けたのだ。製作総指揮のウォルター・パークスと製作のダグラス・ウィックに、この絵を見せられたスコット監督は述懐して言う。「ローマ帝国が栄光と邪悪さに包まれていた事を物語る、その絵を目にした瞬間、私はこの時代の虜になったよ」

2人の製作者は"グラディエーター"と題された脚本をその時持っていた。ウィックは言う。「2年前、デビッド・フランゾーニから古代ローマを舞台にした映画を作りたいと打診された。そこで我々はリサーチし、闘技場を中心としたあの時代の文化のあらゆる資料を集めた。闘技場は古代ローマ社会の中枢で、建築・鉄加工・排水法の画期的な発展をもたらした。研究すればするほど我々は、闘技場がストーリーの中で、素晴らしい舞台となると確信した」。パークスは付け加えた。「そうしたアイデアから手をつけた我々は、次に観客を感情的な旅へと誘うヒーローを創造し、さらに物理的膨大さとスペクタクルを把握し、しかもこの映画の真髄である登場人物と物語を壮大な舞台に負けず描ける監督を探した。そして当初から我々がリストのトップにあげたのはリドリー・スコットだった」

スコットは語る。「古来からエンターテイメントは、時の指導者が虐待する民衆の気をそらす道具として使われてきた。剣闘試合は彼らに気晴らしを与えたんだ」


  アエリウス・マキシマス=ラッセル・クロウ


マキシマス役のキャスティングが成功の鍵を握った。ウィックは語る。「マキシマスはこの映画の魂だ。偉大な戦士の獰猛さをリアルに表現でき、同時に強い信念と個性を備えた人間を演じられる俳優が必要だった。ラッセル・クロウは、過去全ての役で、激しさや威厳、断固とした説得力を遺憾なく発揮してきた。だから皆最初に彼の名をあげたんだ」ラッセルにとっては、長年尊敬してきた監督と組み、一つの映画ジャンルを蘇らせるチャンスとなった。「この題材の映画は実に久しぶりだ。ローマ帝国が築いた時代は実に素晴らしいが、それは凄まじい蛮行の上に成り立つ事が今日まで人を魅了し続けるのだと思う。そしてこの映画は、現代最高のビジュアル・アーティストであるリドリー・スコットと仕事ができ、しかも最高の人物を演じられる素晴らしいチャンスを私に与えてくれた」


  剣闘士の役作りと接近戦の撮影


剣闘士役のラッセルとジャイモン・ハンスゥは、役作りのため元ボディビル・チャンピオンのラルフ・モーラー(彼は、筋肉隆々の剣闘士ヘイゲン役で出演)につきトレーニングを受け、そしてスタント・コーディネーターのフィル・ニールソン率いるスタントマンたちと共に、剣闘試合を演じた。「アクションの経験は以前にもあるが、今回のは容赦なかった」とラッセル。この映画の戦闘シーンは、剣による接近戦が主要要素だ。無数の剣シーンの振り付けは、ファイト・シーンの巨匠ニコラス・パウエル(『ブレイブハート』)だ。全員の安全のため綿密に振り付けられ、稽古は長時間行なわれた。彼は、俳優・スタントマン・冒頭の戦闘シーンのエキストラ1000人を訓練したが、最優先されたのはラッセル・クロウだ。そのため、撮影の4週間前にオーストラリアへ行き、ラッセルを1対1で指導した。パウエルは語る。「監督はスクリーンで効果的に映る剣の接近戦を撮りたがった。しかし、基本的に金属製の武器の使用は固有の危険性がある。完璧に振り付けし、俳優たちを常に集中させておくことが肝心だ。彼らに"何度も稽古したから大丈夫だ"と一瞬でも思わせてはならない。間違った位置にいるだけで誰かがケガをするんだからね」


  4ヶ国で行われた撮影


3シーズンに渡り4ケ国で行われた撮影は、ロンドン、マルタ、モロッコ、そして主要撮影隊という4つの別々の撮影隊が手配され、それは4本の異なる映画を作るのと同じ位に製作者に高いハードルを与えた。中でも最も困難な撮影となったのは、砦の島マルタでのロケだ。6000年前のフェニキア人以前の廃墟があるマルタに、撮影隊は紀元180年の文明の中心地であるローマとコロシアムをこの地に再建した。

プロダクション・デザイナーのアーサー・マックスは、ローマ帝国の再建という途方もない大事業に取り組むため、真っ先にリサーチを始めた。「私は運良く、ローマで建築の訓練を積んだ経験があり、街の作りや雰囲気を知っていたので、最大の挑戦は、帝国のスケール、広大さをいかに創り上げるかだった」。マックスは監督を伴い、17世紀のスペインの砦フォート・リカソリを訪れ、その地を選んだ。19週間かけて、100人以上のイギリス人技術者と200人のマルタ人熟練工が働き、ローマ帝国の心臓部を再建した。しかし作業は、過去30年で最悪のマルタの冬と報道された激しい風と嵐に絶え間無く邪魔された。


  再現された巨大コロシアム


セット建造の最重要課題は、オリジナルを忠実に再現したコロシアムだ。時間と場所の広さの限界があるため、巨大な3層の建築を原寸大で再建するのは不可能で、第1層目だけを実物の円周の3分の1、高さ18mの規模で造った。コロシアムの内部には、技術的に未完成だったエレベーターや闘技場の玄関などの装備を施した。その他の部分は、ロンドンで視覚効果スーパーバイザーのジョン・ネルソンが最新鋭のCGIを駆使し創り上げた。模型をコンピュータにプログラムし、第1層目に2層、3層と彫像を加えた。またCGIは、闘技場の観客を太陽から守るため当時使われた精巧なカンバス地の天幕も付け加えた。 CGIの威力は驚異的だったが、コロシアムのセット内に設置された本物の照明効果には及ばなかった。1日の異なる時間の光と影を創り出すため、撮影のジョン・マシソンは化繊生地で150mにも及ぶ天幕を作り、ファイバーグラスのメッシュで補強した。高さ21mのや鋼鉄の塔14本に支えられた天幕は、ケーブルや滑車のシステムで自在に広げられた。この地には他に皇帝の宮殿、公会場、元老院議員控えの間、ローマの市場、グラックスの屋敷など様々なセットが造られた。これらのセットに奥行きを与えたり、古代ローマの遠景を見せるため、ここでもCGが使われた。そして最後のロケ地は、北イタリアの青々と繁るブドウ園だった。ここは、マキシマスが帰ることを夢見た故郷として撮影された。


  リドリー・スコット監督は語る


本作の最も顕著な特徴はその迫真性だったが、スコット監督は『グラディエーター』を歴史の本から引き抜いた、ただの1ページには見せたくなかった。「ローマ帝国について様々な文献があるが、そのどれが正確なのかといった疑問がある。だから私は、一番重要なのは"あの時代の精神に忠実であること"だけで、事実に固執する必要はないと感じた。私たちが作っていたのはフィクションで、考古学を研究しているわけではないんだからね」

このプロジェクトにほれ込んだスコットだが、それは同時に、今の時代に受け入れられるか分からないジャンルへの挑戦だった。「しかし21世紀夜明けの今、過去2000年間において、最も重要な時代を再び訪れるには、絶好のタイミングだと思う」と付け加えた。