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連載第52
回 【今週のキーワード】選手の個性
ルーニー(マンチェスターU/イングランド代表)に代表されるように、いま、ヨーロッパで活躍している10代選手はまったくひ弱さを感じない。それはたぶん、クラブで一貫した指導を受けて、つねにレベルの高い場所でトレーニングしてきたからだろうな。日本でも、そのような境遇でプロデビューを果たしている選手はいる。東京Vの森本はそうだよね。もし彼が普通の学生で、学校教育のなかだけでサッカーをしていたら、中学生でプロデビューはできなかったはずだ。
よく子どもに「身体が強いだけでは駄目。技術をつけなきゃいけない」とか、その逆を言うことがあるよね。でも、小学校のなかでフィジカルが強くて通用している選手に「それだけじゃ駄目だよ」と言ったって、本人には分からない。身体の強さだけじゃ渡り合えないようなレベルに遭遇したとき初めて、自分の足りない部分を認識する。人間って、何かの壁にぶつからないと理解できないものなんだ。それは子どもも大人も一緒だよね。
その意味では、クラブチームのような一貫指導であれば様々なステージを選手に与えられるのではないかな。身体が大きければ、上のカテゴリーでプレーさせればいい。そうすれば、自分のいまの実力がはっきりと分かる。このままじゃいけないんだとね。
話は変わるけど、C・ロナウド(マンチェスターU/ポルトガル代表)も10代の選手。彼は生粋のドリブラーだ。彼の場合はポルトガルの強みと弱さを同時に醸し出している選手なのではないかな。ポルトガルはストライカーが育たずに、ドリブラーやゲームメーカーを多く輩出している。それはポルトガルがあのようなプレーヤーを好むからなんだ。躾をしないことで個性的な選手が生まれるけど、国が持っている価値観で選手の個性が均一化してしまう傾向はある。
いまの日本は、日本人の良さである協調性などを前面に押し出した効果が表れているような気がする。様々なポジションをこなせるユーティリティプレーヤーが多いのもその影響だろう。しかしその反面、弊害も出ている。C・ロナウドの話じゃないが、日本人のメンタリティ、価値観がプレーに反映されていると思う。すべてをソツなくこなせる選手が多くなっている。その代わり、何かが突出した、スペシャルな能力を持つ選手が少ない。
具体的な例を挙げると、いま、日本では左利きの選手が少ないでしょ。若年層のカテゴリーを見ても、左利きの子って本当に少ないんだよ。日本の文化なんだろうね。鉛筆や箸を持つのは右利きが主流。ヨーロッパでもその傾向はあるんだろうけど、日本は顕著なのかな。それが弊害なのか利点なのか、すぐに結論を下すことはできないけど、日本の左サイドが欠乏気味な原因はそこにもあるんじゃないかな。指導の問題なのか、その国の慣習なのかは分からないけどね。
オフト(前浦和監督)が面白いことを言っていた。左利きには利点があると。世の中は大体において右利き仕様になっているから、左利きの人間は子どものころから様々な障害に直面している。したがって、いつも困難に立ち向かわなければならなくて、それをいかに克服しようかといつも思案している。だから、つねに考える力を自然に身に付けられるのだと。そこが左利きと右利きの違いだと言っていた。面白いなと思ったよ。考える力って、サッカーだけに限らないけど重要でしょ。
サッカーというスポーツは個性を発揮しやすいんだけど、いまは問題点に直面している。様々な個性を生み出せない問題は日本だけじゃなく、前述のポルトガルの例を見ても分かるようにヨーロッパにもある。ヨーロッパのビッグクラブも、個性豊かなタレントを他国から獲得している事情がある。個性が地域によって均一化している問題は、世界的な規模で考えなければいけない課題点だろうね。