アカデミー賞特集 戦場のピアニスト
今年も第75回アカデミー受賞作品が発表となりました。第60回ゴールデン・グローブ賞作品賞を受賞した「シカゴ」「めぐりあう時間たち」が有力視されていた中、今回は見事監督賞と主演男優賞に輝いた「戦場のピアニスト」に注目! 実在の主人公の息子クリストファー・スピルマン氏に映画の誕生秘話や主人公である父親について語ってもらいました。


  インタビュー
オスカー主要部門ノミネート作「ピアニスト」にはこんな背景があった!
 時は第二次世界大戦中、ナチスドイツのユダヤ狩りが横行するポーランド、ゲットーを舞台に、容赦なき無差別殺人からの脱出を試みるユダヤ系ピアニストを描いた感動の名作「戦場のピアニスト」。昨年カンヌグランプリを受賞した同作品は、その後ヨーロッパの映画賞を独占し、今月末のアカデミー賞でも主要7部門でノミネートされている。今回はその映画の主人公ウワディスワフ・シュピルマンを父に持つ拓殖大学客員教授クリストファー(51)さんにインタビュー。気さくでユーモア溢れる教授に、家族だからこそ知っているさまざまな映画の背景や裏話、そしてオスカーについて語ってもらった。
Q この映画がベールを脱いだ昨年のカンヌ映画祭以降、世界中で映画賞を総舐めしている状態ですが、ご家族の歴史が世界的話題になっている心境は?

 僕はこの原作を12才の時に読んだのですが、あまりに辛い過去なので、父も我々には一切口にしなかった出来事なんです。でも、今は皆がそれを知っているんだから不思議ですね。まさか自分が世界的話題作の主人公の息子になるなんて夢にも思いませんでしたよ(笑)。まあそれは冗談として…。

 実はカンヌで最初に公開された時の反響はそうでもなかったんです。どちらかというと、批判的な意見も多かった。だから私も会場に駆け付けるほどでもないだろうと思い、別の予定をいれていたら突然受賞の電話を頂いたんです。ちょっと残念なことしちゃいましたね。

Q この映画を見ていくつかの発見があったそうですが?

 僕は小さい頃から母方家族は知っていたけれど、父方の家族には誰も会ったことがなかった。それが銀幕にああやって祖父母が蘇った時には、すごく感動しました。ポランスキー監督に「あなたは私に祖父母のイメージを与えてくれたんですね」って感謝しましたよ。

Q この映画の英雄は父ではないとおっしゃっていましたが。

 そうですね。では誰か?それは父を必死に助けた多くのポーランド人やドイツ人ではないでしょうか。彼らがリスクを省みずに、どれだけの善意を注いだのか?それがあの映画のポイントだと思います。彼らは父だけでなく、多くのユダヤ人とポーランド人を救ってきたわけで、それらの話が現在発売中の原作に追加で掲載されています。だからそれを読んで、またこの作品を見てみると、深みが出てきますよ。

Q でも50年以上も前の原作がなぜ今になって脚光を?

 父は終戦直後すぐに原作を執筆して、悪夢をその本に封印した。その当時、初版はベストセラーになったけれど、政治的理由で増刷はなかった。それもこの話のキーとなるドイツ人が、「善良なドイツ人」的な表現はダメということで、オーストリア人ということにされたりもしたんですよ。当時はそんな状態だったし、父もピアノに打込むことで忘れようとしてきたから、その間に映画の話があっても応じる訳もなかったんです。

 でも父がピアノの第一線を退いた90年代から彼の中で変化が生じた。忘れ去る力が体力的にも精神的にも衰えて、苦しみを押え切れなくなっていたんです。それで僕の弟に説得されて、98年にドイツで復刊した。それからヨーロッパ中で次々にベストセラーになった頃、ポランスキーから話があった。父はポランスキーが同じ戦争体験者だったこともあって、彼に託したんです。

Q 時代で言えば、同国の巨匠ワイダ監督などからもオファーはなかった?

 偶然ですが、母はワイダの高校の後輩だったんです。彼の初舞台作品には、なんと母が出演しています。父と知合う前から原作を読んでいた母ですら、家庭では語らない状態だったので、ワイダも持ちかけようがなかったんですかね。

Q お父さんはポーランドではどのくらい有名でした?

 50年代から70年代にかけてのポーランドで、彼を知らない人はいないくらい有名でした。彼はクラシックだけでなく、ポーランドの歌謡曲のようなものもたくさん手掛けてきた。4/9からそれを現代風にアレンジしたポップスCDがユニバーサルから発売されるので、是非聴いてもらいたいですね。


Q 最後に、オスカー7部門ノミネートですが、その期待を語ってもらえますか?

 英国のアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞したので、勢いはあると思います。でも元来オスカーはカンヌ受賞作には冷たいですからね。配給会社もあまり大きくないですし…。監督もアメリカを追われた人なうえに、ハリウッド作品でもないわけだから、通常なら無視されてもおかしくないとは思います。 僕的には主要7部門でノミネートされただけでも立派だと思ってます。だからもし受賞を逃しても、是非見るべき歴史的映画ですね。これは。


▲Copyright the Szpilman Family Courtesy of the Szpilman Family
原作「戦場のピアニスト」
▲原作「戦場のピアニスト」春秋社
W.シュピルマン[著]佐藤泰一[訳]
/288頁/1500円
CD SINGS THE MUSIC OF
▲CD SINGS THE MUSIC OF THE PIANIST WLADYSLAW SZPILMAN
/WENDY LANDS 米国版 UNIVERSAL
サントラ「戦場のピアニスト」
▲サントラ「戦場のピアニスト」
ピアノ:ヤーヌシュ・オレイニチャク
指揮: タデウシュ・ストゥルガラ 管弦楽 ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
発売: ソニーレコード(SICP299)
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