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初舞台の石原さとみ&田畑智子コンビで名作「奇跡の人」開幕


ヘレン・ケラーの少女時代を描いた名作「奇跡の人」。何度も再演を重ねるこの作品が青山劇場にて、10月4日(水)に開幕した。初舞台の石原さとみ×田畑智子という、キャスト一新のフレッシュなコンビで挑んだこのステージ、一体どんな形に仕上がっているのか観客の興味は尽きない。いざ幕が上がり、そこで見た舞台は、以前のバージョンとは全く別の手触りの作品に仕上がっていた!

1880年にアメリカ南部の裕福な家庭に生まれ、生後1年半で光と音を失ったヘレンは、“かわいそうな少女”という周囲の哀れみから、6歳半で家庭教師アニー・サリヴァンがやってくるまで、特に躾けられることもなく過ごしてきた。一方、アニーは幼くして母に先立たれ、唯一の身寄りであった弟すらも救貧院で亡くし、その後失明を経験。幼少期に悲しみの限りを尽くしたアニーは、のちに猛勉強の末、盲学校を優秀な成績で卒業する。

そんなアニーがケラー家にやってきたのは、20歳そこそこ。この役をアニーの年齢に近い田畑が演じているところに、この芝居の醍醐味がある。帰る場所もない、教師の経験も一切ない、初めて見る少女へレンと交われば交わるほど自信を失いかける。田畑が演じるアニーは、ヘレンに哀れみを感じる家族に食ってかかりながらも、明確な教授法を見出せないもどかしさや自分自身への自信のなさといった“心の揺れ”を、引きの演技で見事に見せている。1幕には若干見られた硬さも2幕以降は見られなくなり、アニーの心の闇を照らした内省的な芝居で、田畑は観客をグッと自分のほうへ引き寄せた。

一方、初舞台で難役といわれるヘレン・ケラーに挑んだ石原さとみは、ケラー家に君臨する暴君というよりも、黙っていれば本当にかわいいアメリカ南部の良家のお嬢さんといった佇まいがいい。好き嫌いがハッキリしていて、人形と犬と鍵に異常に興味を示す。“好きなものは私にちょうだい、嫌いなものは、ハイ、あなたにあげる”と言った感じで、視聴覚障害者でなくとも小さい女の子なら誰もがやる“女の子らしいイジワル”を見せたりする。また、アニーや家族との格闘シーンでは、やたらと暴れることなく、触った手の感触から一度頭の中で相手を反芻してから暴れる様から、相手の呼吸を良く捉えて演じていた。

芝居が進むにつれ、田畑のセリフの説得力がより増していく。言葉を外に向けて話したいのに、単語だけが体の中に鬱積するヘレンに向かって、アニーが泣きそうになりながら語りかけるこのセリフ。「たったひとつの言葉で、あなたの手に世界を載せてあげられるのに。……どうしたら教えられるの。言葉がものを表すってことを」 田畑アニーは、藁にもすがる気持ちでヘレンに言葉を懇願するように教えていく。やがて、石原ヘレンはあるハプニングを機に唯一の単語の意味を理解し、自分の力で言葉の世界の扉を開く。感動的な場面である。しかし石原×田畑の「奇跡の人」が新しいのは、ヘレンが言葉の意味を獲得すれば一件落着という空気を見せず、むしろそんな感動的な場面でさえこれから始まるヘレンの長い人生の闇や未来を予見させるような雰囲気を醸し出していることだった。

舞台が終了し、カーテンコールが始まった。アニー・サリヴァンの気持ちに寄り添って観ていた多くの観客は、一斉に拍手喝采という風ではなく、ヘレンとアニーのふたりの物語の余韻に浸りながら出演者に賛辞を贈った。なかでも石原さとみは、芝居の後に劇場で拍手を浴びるのは初めてだったせいか、驚きの表情をしながら、ほんの少しぎこちなくお辞儀をし、3時間以上の芝居を闘った田畑智子の手をぎゅっと握り締めていたのもほほえましかった。

石原さとみと田畑智子の、ふたりの「奇跡の人」はまだ始まったばかりだ。悩みながら苦しみながら前へ進んでいくこの芝居は、子供から大人まで見てほしいが、特に小さな子を持つ親に見てほしい。たまたま目と耳が不自由になった子が言葉を獲得していくという過程を見ながら、子育てに正解などというものがないことを、あなたはアニー・サリヴァンの視点に立って、もがき苦しみながら実感することができるのだから。

『奇跡の人』
10月4日(水)から22日(日)東京・青山劇場にて上演される。その後、愛知県勤労会館、大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!、広島郵便貯金ホール、北九州芸術劇場 大ホールで上演予定。

(10月6日更新)

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石原さとみ、田畑智子
撮影:田中亜紀
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