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the pillows・山中さわお

the pillows

結成23年を越え、日本のロック・シーンで独自の存在感を放ち、海外ツアーも精力的に展開するthe pillows。実に18枚目のオリジナル・アルバム『トライアル』が完成した。疾走感あふれるバンド・サウンド、聴き込むたびに発見のある細部に至るまでこだわりに溢れたアレンジ、そして人生の機微に心強く寄り添ってくれそうなリリック満載のナンバーを盛り込んだ本作を、フロントマン・山中さわお(vo・g)に語ってもらった。

アルバム『トライアル』はどんな作品になりましたか?

「最後の一滴じゃないかなっていうくらい“搾り出した感”があるアルバムかな。“もう作れないんじゃないか”っていう強迫観念が今までで一番あった。シリアスな強迫観念を自覚しつつ、そこからゆっくりと一曲一曲できてきて、途中からグイッと夢中になって、なんとか楽しい気分になっていったかな」

収録曲がアルバム・タイトルにもなるのは久しぶりの印象があります。

「久しぶりかもね。でも(15thアルバムの)『PIED PIPER』はそうだね。昔はずっとアルバムにタイトル曲があって途中からタイトル曲がないのもあるけど。(13thアルバム)『MY FOOT』までは結構タイトル曲があったけどね」

タイトルにも掲げた「トライアル」に込めた意味は?

「順番としては「持ち主のないギター」という曲が先にできてたんです。そちらは最後まで絶望的なまま終わる歌で、特に前向きな気持ちは一滴もないっていうか。でも音楽的クオリティとしていい曲ができたなとは思っていて。そこから結構時間をおいて「トライアル」のメロディができて、“最果ての星に紛れた”という歌詞はすぐ出たんです。何が紛れたかが出てこなくて、でもそのフレーズは使いたいんです、どうしても。で、あるとき「持ち主のないギター」のアンサー・ソングのような、連作のようにする方法を思いついて。「持ち主のないギター」の方では主人公の“僕”が街で誰かが捨てたであろうギターと出会うという場面がある。でももうひとつの世界でそのギターを捨てたのがまた“僕”で、それはある意味、“音楽に対する情熱”で、それをもう一度取り戻すっていう。“もう一度行くんだ”って自分に言い聞かせている曲かな。そのテーマが決まったら歌詞はスッと書けて。「トライアル」とは、“試練”。生きていくことは“試練”だ、っていう。人から見て楽しく見えようが、そういうことじゃないっていう。わからないんだなって思った。お金持ちとそうでない人とか、健康な人とそうでない人とか、年寄りと若者とか。なんとなく片っぽが幸せで、片っぽがそうではないようなイメージを持ちがちだし、自分もそうだった。でも自分がその“the pillowsはこうなりたい”っていうものになってしまって、その喜びと達成感は感じつつ、同時に困ったことっていうか...。安定感というのは、エネルギーに変えて音楽を作るのがとっても難しいぞっていうことにも気づいて。そうするとすごく望んでいた椅子に座ってみんなが羨ましがってもいいはずなのに、すごい退屈だと思ったし。欲しいものが何もないし。でもこの状況でこれからまだ生きていくということが、ちょっと想像と違ったなっていうのがありました。とにかく生まれてから死ぬまで何度か本人にとって必ず試練がやってくるという。それはミュージシャンとしては、今は潔癖に自分の作品を好きになるという意味においては“試練”なんだなって思った。それで「トライアル」。その響きが気に入って瞬間にこれがタイトルだなって。「トライアル」という曲自体が代表曲にするに相応しい曲だと思った。でも可哀相そうなことに、こうなると“今のthe pillowsはトライアル=試練”みたい。(メンバーの)シンちゃん(佐藤シンイチロウ・ds)、Peeちゃん(真鍋吉明・g)にもみんなそう言うんだけど、ふたりにしてみたら“知らねーよ”っていう(笑)」

「トライアル」というテーマが他の曲にどのように派生していったのですか?

「作った順番で言うと「トライアル」は結構後半で、「トライアル」よりも後に作ったのは「ポラリスの輝き 拾わなかった夢現」と「Ready Steady Go!」だけじゃないかな。「Ready Steady Go!」も、ある種、連作みたいになった。特にオープニングとエンディングのちょっと芝居じみた感じのところは。「持ち主のないギター」から3曲続いたような感じ」

「Ready Seady Go!」はすごくライブ映えする曲ですね。(the pillowsファンの愛称である)BUSTERSに直接呼びかける歌詞が印象的でした。

「英詞だからできたのかな。フィルター一枚通して伝えるのがいい」

先にアニメ番組の主題歌としてリリースされた33rdシングル「Comic Sonic」、そして同じく34thシングル「エネルギア」と、歌詞としては若い目線のように感じました。「エネルギア」はラブソングでありながらそれ以外のことに置き替えてもグッとくる歌詞がよかったです。

「実は「エネルギア」は「Comic Sonic」のカップリングのつもりで作ったんだよね。「Comic Sonic」は作家としてリクエストに応えたいと思って、アニメ「SKET DANCE」の高校生の主人公に合うように、自分の青春時代を振り返ってパンクロックとか聴いて訳わかんないくらい興奮してたあの頃を思い出して作ったんです。そのカップリングが必要だということで、青春にはもうひとつ“ラブソング”がいいよね?ってことで作ったんですね。家で一人でやってると地味な曲だと思ってたのに、バンドでセッションしてアレンジすると、どんどん想像よりも成長して愛着が湧いて、これ思ったよりいいなと思ってたら、真鍋くんが“これカップリングではちょっともったいない”って。the pillowsのカップリングってどうしても脇役の曲で、ライブで演ってもリアクションが薄い曲になっていく運命にあるので、“アルバムに入れようよ”というところから“シングルにいいんじゃない”ってなってきて」

曲によってさわおさんの歌い方にも幅広いバリエーションを感じました。

「ざっくり言うとここ10年くらいは、声を張った方がロック感を(自分が)感じやすかった。元々そういう声を出せないのを頑張って練習して出せるようになったから、歪んだ声を出せると心地好くなってきて。わりとそっちに重きを置いていたのかな。でも本来の自分の声帯はもっと柔らかいもので。だからすごく良く例えると、カート・コバーンとモリッシーがいたらモリッシーの方が向いてるというか。どっちも良いからおこがましいけど、モリッシーなのに憧れてカート・コバーンみたいに歌おうとしている、リアム・ギャラガーみたいに歌おうとしてる、みたいな感じで。日本風に言うと、ほんとは(スピッツの草野)マサムネくんなんだけど、(The Birthdayの)チバくんみたいな(笑)。どっちも良いから申し訳ないんだけど。そういう感じだったかな。でもやっぱりモリッシーもマサムネくんも素晴らしいじゃない。自分もそっちの声で、誰かに憧れたからではなくて、自分の元々持ってる声で、それを最大限に伝わる方法で残そうと思って歌った。特に「ポラリスの輝き 拾わなかった夢現」は」

オープニング曲「Revival」の疾走感は格別ですね。

「珍しく「Revival」は“今日一曲目を作りたい!”って決めて作ったんです。イメージは自分の曲で言うと(11thアルバム)「ペナルティーライフ」一曲目の「Dead Stock Paradise」みたいな。僕の得意なメランコリックなメロディが排除された、もっとクールな感じのものでいきたい。そして前作『HORN AGAIN』の一曲目「Limp tomorrow」がミディアムだったので、のっけからハイテンションでいくようにしたい。今日それを作るって決めてソファでギターを持ったら、リフがすぐ浮かんで、すぐメロディも乗って。珍しくサーッとできた曲です」

アルバムとしての起承転結、アンサー・ソングなどバランスもよい作品に仕上がった感じですね。

「うん、うまくいった。“今回、コンセプト・アルバムを作ろう”みたいな意識はないんだけど、でも結局そうなったということだよね。自分にしては珍しく短期間に作った。そうすると感情の変化が少ない中で作ったので、なんとなく世界観も近いものになったと思うし。それがうまく転んだんじゃないかな」

サウンド、アレンジ面で細かい仕掛け、こだわりも感じたのですが。

「(アレンジするとき)メンバーに指示は完全にします。だけど僕はわりと瞬発力で、あんまり練る方じゃないので、フレーズはパッと聴いてパッと思ったものがいつも良くて、第二案、第三案はそうでもない。どっちかっていうとそういう感じなんです。パッと聴いて、“ここにこういうものが欲しいんだ”っていうものを詰め込んでる。でもアレンジを細かく仕掛けるということをすごく意識しました。自分のレコーディング用のメモがあるんですね。例えばパッとデモを録って家に帰って聴いて、ここをこうしようってメモってるんです。ケータイなんですけど、そこの上に絵文字で目立つように“アレンジ仕掛ける!”って自分に命令してた(笑)。その意識を忘れるなって一番上に自分で書いてたからすごいその意識はあったと思う」

このアルバムを携えた「TRIAL TOUR」は、どんなツアーにしたいと思ってますか?

「基本はまったくいつも通りノー・プランですけど、音楽はただいつも通りステージ出ればいいって感じで。ただ最後の曲を「Revival」にすると思うんですよ、きっと。そこでね、銀テープがシュパーンってすごいゆっくりヒラヒラしてくる、キラキラしたヤツをやりたいなと思ってて。それだけを楽しみにしてます(笑)。ライブハウスでやったらPAさんの顔面を直撃するから広いところで(笑)。あれ一回どれくらいするのかな? 20万円くらい? 安いね、なんて(笑)」

最後に2012年、他にやりたいことはありますか?

「ないですね(笑)。まったくない。もうギリギリです。ほんとにギリギリ。わかってることはTHE PREDATORS(山中さわおの別バンド。メンバーはJIRO(b/GLAY)、高橋宏貴(ds/Scars Borough))をやるよっていうことかな? もうデモ・レコーディング始めてて。いいんだわ。今回、JIROくんもいい曲書いてきてます」

Text●浅野保志

PROFILE

やまなかさわお・1989年に結成されたthe pillowsのリーダーでボーカル&ギター担当。メンバーは山中のほかに、真鍋吉明(ギター)、佐藤シンイチロウ(ドラムス)。ソリッド&メロウな楽曲とパワフルなパフォーマンスで幅広い世代から支持され、その音楽に対する真摯な姿勢から、多くのミュージシャンからもリスペクトされている。3月30日(金)より全国ツアー「TRIAL TOUR」がスタート。
オフィシャルサイト


TICKET

▼3月30日(金) 水戸ライトハウス
▼4月1日(日) 高崎 club FLEEZ
▼4月6日(金) CLUB QUATTRO
▼4月10日(火) Live House 浜松 窓枠
▼4月12日(木) DIME
▼4月14日(土) 松山サロンキティ
▼4月16日(月) BIGCAT
▼4月18日(水) 長野CLUB JUNK BOX
▼4月20日(金) NIIGATA LOTS
▼4月22日(日) SHIBUYA-AX
▼4月25日(水) HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2
and more!!

公演・チケット情報



RELEASE

ALBUM
『トライアル』
1月18日(水)発売 avex trax
【初回限定生産盤】DVD付 3300円
【通常盤】3000円
初回特典(封入)
■ステッカー■全国ツアー先行応募券■3作連動特典専用応募券封入
【初回限定生産盤 DVDのみ】トライアル[Music Video]
※3作連動特典→12/7発売『エネルギヤ』、1/18発売『トライアル』、『WE ARE FRIENDS』
の3作購入者の中から抽選で「the pillowsオリジナルトートバック」「the pillowsオリジナルTシャツ」をプレゼント。
◆応募締切:2012年1月31日(火)当日消印有効
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DVD
『WE ARE FRIENDS』
1月18日(水)発売 avex trax 3800円
※2011年9月に行われたthe pillows4度目のアメリカツアー「NAP UTATANE TOUR SEPTEMBER」の模様を収録。 特典映像には、2010年5月に行われた「California POMONA」での映像を収録。
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2012.01.17更新

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