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当代随一の人気と実力を誇る落語家・立川志の輔。中でも、東京・渋谷のPARCO劇場を温かい熱気と幸福感で満たし、今や新春の風物詩とも言えるのが、1月の『志の輔らくご in PARCO』だ。この2月には、2006年から2012年までに上演された11演目を収録したDVD&ブルーレイBOXも発売となり、より多くの人が落語を聞く機会に恵まれることに。常に観客の裾野を広げてきた志の輔が語る、落語への思いとは?

――1996年にPARCO劇場で落語をはじめてから、今年で実に18年目になりますね。

「そうなりますね。最初の9年は一年の終わりごろに公演をして、2006年から年初に一ヶ月の公演をやるようになって8年目。こんなに続くなんて全然思ってませんでしたよ。今でこそ『PARCOプロデュース』なんて言ってもらってるけど、最初は劇場が空いている日を3日間借りただけでしたから。なぜこの劇場を選んだのかというと、私が富山から東京へ出てきて、最初に演劇というものを見たのが西武劇場、今のPARCO劇場だったんです。その時上演していたのは、山口果林・仲代達矢主演の安部公房作『友達』。東京のど真ん中の渋谷で、右も左もわからない田舎者は“ああ、こんな良いものを毎晩上演しているのが東京なのか”と、えらく感激してね」

――思い入れのある劇場だったのですね。その劇場で落語を上演するにあたり、今までの落語会とは違うことをされたいという思いはおありでしたか?

「PARCO劇場といえば演劇のメッカ。ここにしかない“気”のようなものがあるので、普通の落語会をやっても似合わないというのが、肌でわかったんです。 不思議な劇場だなあと思って。

始めた当時、客席がひな壇状になったホールでの落語自体、珍しかったんです。落語は従来、(舞台の)下のほうに向かって話すものですから。それに、落語の会場にしては大きかった。たくさんのお客さまに来ていただきたいと思って決めたことなんだけれども、一ヶ月公演で1万人の方がお聞きになるわけですよ。しかも、ふたを開けてみたら、アンケートの年齢欄に“10歳”と書いてあったりする。同じ苗字の80代の人もいるから、恐らくおじいちゃんと孫が一緒に来ているんだろうと。世代が違うおじいちゃんと孫が同じところで笑うものを作るのは大変なことなんですが、1万人集める覚悟をした以上、誰が来ても楽しめるものを作らなきゃいけません。もともと古典落語はどこか男の愉しみというところがあって、だからこそ遊郭や遊女や博打の話があったりするわけなんだけれども、性別も年齢も関係なく楽しめるようにしたいと思ってね。それで、わかりやすい話と中くらいの話と古典落語の3本立てにして、とりあえず1本くらいは面白かったと思っていただけるんじゃないかと。今でも、これでいいのかなあと迷っています。ひとりで一ヶ月、同じ落語をやるなんて、快挙と馬鹿の境目がよくわかりません(笑)。ほかの落語家さんがやってないから私がやっているっていうのが正直なところかな。

ともあれ『PARCOプロデュース』と銘打つようになるころには、演劇界の一流のスタッフが集まってくれて、演劇的な新作落語も幾つか作ることができました。“劇場の主”みたいな存在に、天井や楽屋から“もうちょっとこうしたほうがこの劇場に合うよ”と言われてここまで来た気もしますね」

『志の輔らくご in PARCO』より 「ガラガラ」(2011)

――今や、常に超満員の『志の輔らくご in PARCO』ですが、人気の最大の理由は何だとお考えでしょうか。

「例えば、演劇だと何十人もの役者で演じられるのに対し、落語だと出ているのはひとりだけ。お客さまは自分の頭の中で、あれこれ想像しなければいけないわけですね。そこが演劇とは鑑賞のしかたが違うところなんです。私ひとりで何人分かの役者の仕事をやって、あとはお客さまに“お願いします”って頼っている状態。観に来たお客さまは、自分でお金払って、自分で仕事して帰っていくわけで、申し訳ないくらい(笑)。だけど観終わったあと、落語特有の脳の疲れ方があるんですよ。私の仕事は、それが快感になるように材料を作ること。PARCO劇場にいらした皆さんは、私がどうこうではなく、落語というものを究極のエンターテインメントだと感じていただけているんじゃないかと思う。ひとりしかいないのに“なんだかものすごいものを観た気がする”くらいの快感を、お客さまの頭の中に残すことができたら至上の喜びです。それはもう何ものにも代え難い瞬間で、DVDで再現するのは多分無理なんですよ。それなのに発売するという(笑)」

――(笑)でも、DVDを待ち望んでいたファンは多いと思います。

「一ヶ月公演を8年というのは振り返ってもすごいことですからねえ。ひとつ、まとまったものができたのは嬉しいです。DVDのいいところは、病室でも見られることなんですよ。ある有名ミュージシャンが入院なさっている時、私の落語の録音を聞いて病室で喜んでくれたそうです。落語をCDやDVDで聞いて笑って楽になったという話を聞くと、やっぱり必要なものなんだろうなと思う。忌憚のないことを言えば、ライブに来ていただいたほうが有難いというか、それくらいライブは素晴らしいものなんだけれど、物理的に来られない方や、あるいは記録としてお持ちになりたい方もあるわけだし。例えば何かの拍子にDVDを観た子どもの人生が変わるかもしれないし。映像なら気軽に観れますからね。

あと、落語の映像は繰り返し見ても飽きないんですよ。映画は1回見て筋がわかったら、機会がなければもう見なかったりすることも多いでしょ? でも落語は“ここでこう言うぞ”と分かっているのに、その瞬間のために何度も何度も聞く方がたくさんいらっしゃる。不思議なもんですよ。私の話にでてくる登場人物は、作品が違っても底辺はよく似ていてね。要は私が好きな人たち。“タカシ”という名前がよく出てくるんですが、繰り返し聞いていただくうちに、自分の友達なんじゃないかっていう気持ちになってくれたらいいですね」

『志の輔らくご in PARCO』より 「タイムトラブル」(2012)

――新作落語を作られる時、どのように人物設定や物語を思いつかれるのでしょうか?

「昔、スタッフの女の子が使い捨てカメラで私を一生懸命に撮ってるから、“どうしたの?”と聞くと、“フィルムが余っているから現像に出すために撮ってるんです”って言うんです。“いや、現像代のほうが勿体ないから必要なものだけ撮ればいいんじゃないの?”と言ったんですけど、そうか、女の子は“フィルムのほうが勿体ない”という発想なんだ、と。そこから、物の価値をめぐって夫婦が食い違った会話をする『はんどたおる』という作品を作りました。

また、ある時には、地方の会館の人に“志の輔さんにうちの会館で落語をやっていただくのが夢です”と頼まれて、引き受けて当日訪ねたら、今日はその人は休みだと言われて。“ええっ、夢だというから来たのに”と思ってね。でも考えてみれば、頼む時は一生懸命なんだけど、決まったらもういいやという気持ちになることって誰にでもあるわけだし、その辺りを突いていくと面白い落語ができるかなと思ったのが、『歓喜の歌』が生まれるきっかけです。あと、ドラッグストアーでシャンプー1本選ぶにしても、これだけ数があるとどれを選んだらいいかわからないなぁと思ったことから『買い物ぶぎ』という作品ができました。

つまり、なぜ新作を作るのかというと、古典にない要素を表現したいから。古典落語は、飢えと寒さと貧乏の世界。冬に着るものがないから浴衣を重ね合わせて着るとか、食べ物がないからなんとか安くあげようとか、酒が一杯飲めるなら無理をしてでも付き合うとか、そういうことが普通の感覚としてあったんですよ。ところが今はモノが余っちゃって、選ぶのにも苦労するし、新入社員に“酒をご馳走してやるから付き合え”と言っても“ダイエットしているから結構です”とか言われちゃうでしょ(笑)。モノに困っていない現代の人間を描こうとした時、新作が生まれるんですよ」

『志の輔らくご in PARCO』より 「質屋暦」(2013)

Text●高橋彩子 Photo●吉田タカユキ(SOLTEC):立川志の輔

PROFILE

たてかわ・しのすけ
1954年生まれ、富山県新湊市(現:射水市)出身。明治大学在学中は落語研究会に所属。劇団、広告代理店勤務を経て、83年、立川談志門下に入門。90年、立川流真打に昇進する。古典落語から現代的な諸相を取り入れた新作落語まで幅広い芸域と、劇的にして温かみのある語り口で、落語初心者から落語通まで、老若男女を問わず多くのファンを獲得している。NHK「ためしてガッテン」などで、お茶の間でも人気を集める。


TICKET

立川志の輔・出演情報

「三枝改メ 六代桂文枝 襲名披露公演」
2月25日(月) 岐阜・長良川国際会議場 メインホール
「横浜にぎわい座三月興行 〜志の輔noにぎわい〜」
3月14日(木) 神奈川・横浜にぎわい座 芸能ホール
「朝日名人会 第127回」
3月16日(土) 東京・有楽町朝日ホール
「立川志の輔独演会」
3月21日(木) 大阪・堺市民会館 大ホール
「八天改メ 七代目月亭文都襲名披露公演」
3月30日(土) 東京・国立演芸場
「立川志の輔 独演会」
4月5日(金) 熊本県立劇場 演劇ホール
「春の金沢 志の輔独演会」
4月11日(木) 石川県立音楽堂 邦楽ホール
「立川志の輔 独演会」
4月26日(金) 東京・銀座ブロッサム(中央会館)
「高座開き 立川志の輔独演会」
5月3日(金・祝) 愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

公演・チケット情報



RELEASE

志の輔らくご in PARCO 2006-2012[DVD/ブルーレイ BOX]

2月15日(金)発売
PARCO STAGE SHOP

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2013.02.05更新

今週のこの人 ラインアップ

  • 山田和樹
    小澤征爾も実力を認める注目の指揮者。クラシック音楽界が熱い視線を注ぐホープの“今”に迫る!
  • さまぁ〜ず
    2年ぶり、9回目の 『さまぁ〜ずライブ』開催。 稀代のコント芸人が、ライブにこだわり続けるそのワケは?
  • 遠藤保仁(ガンバ大阪)
    10年連続Jリーグベストイレブンにも、代表最多出場記録にも歩みを止めない。稀代のMFの飽くなき向上心に迫る
  • 堀北真希
    あくまでも、自然体。 2度目の舞台に挑戦する“国民的女優”の素顔
  • 藤原竜也
    舞台で演じ続けてきた実体験を、 「人生の蓄積」と呼んで胸に刻む。若き天才の次なる挑戦とは…。

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