――その経験って、今回届けてくれた『光る音』にも現れている気がします。Polarisと言えば、揺らぐ、浮遊感にあふれつつも多幸感も含んだサウンドイメージがありましたが、そこを踏襲しつつも、これまで以上に一音一音が力強くなっていて、魂の音とでもいうような、生命力を感じるというか。
大谷「この6年間、頑張って生きてきたっていう感じかな。そういう足跡がね」
柏原「(笑)」
大谷「さっき、バンドをやり直してるような感じって話したけど、ふたりでやっているからPolarisではあるんだけど、当然ながら新しいものなんですよね」
柏原「2008年くらいから、日本の世の中って劇的に変わっちゃったじゃない? その中で、音を出しているほうもそうだし音楽を好きで聴いている人たちも、日々の生活の中でそうすることが難しくなっていると思うんですよ。収入も落ちたりしてね。ベルリンのさっきの話からすると、日本で音楽やっている人ってものすごく浮遊なわけですよ。例えば、日本で夏に海辺のカフェでライブをやったりすると、音を出してるだけで苦情がきたりするわけですよ。その後ろをトラックが通ったりしているのに、音楽をやってるのに“うるさい、音を半分にしろ”とか言われて。何とも言えないよね。そういう中で、6年ぶりにPolarisとして音を出せるっていうのはさ、ある意味奇跡的なことでもあるよね」
柏原譲(b)
大谷「俺もね、そう思う。Polarisを別に辞めたつもりはなかったんですけど、だからいつかいいタイミングでやれたらと思いつつも、もしかしたら15年後くらいかもしれないなとか。だから、このタイミングでまた始められたのって奇跡的なことだと思う」
柏原「音を出せるっていうのは、やっぱりそれは幸せなことだよね。その出来事に対して、“よかった”というか、そういう目で見てくださった方から、そういう感想をいただけるのかもしれないね」
――Polarisの代表曲でもある『光と影』に代表されるような相反する世界は、Polarisがずっと鳴らしてきた音でもあったわけですよね。今回も、“闇”というものを受け止めつつも希望の音を鳴らせているというか、そういう強さを感じました。
大谷「そこを受け入れざるを得ないというか。人によって感じ方は違うかもしれないけど、とにかく現実があるので。音楽をやるっていうのは、その中でその先を見たいからやっているっていう部分はあるので。以前だったら、こういう歌詞は書かなかったかもしれない。逆に言ったら、現実は少し伏せていたかもしれない」
――確かに、これまでは闇的なものを少し匂わせながらも、今回ほどは歌っていなかったかもしれないですね。
大谷「そうなんですよね。今までは歌いづらかったんですよね。そういう時代だったのかもしれないですけどね。本音から少し自分をずらしている感じというか。自分自身の変化、年齢的なものもあるかもしれないし。そこまで歌う必要を感じていなかったのかもしれないし」
――『光る音』が誕生したのは、どういうきっかけだったんですか?
大谷「今年に入って、いろいろ曲を作っていて。そんな中で最初、Polarisでやるんだったらどんな曲がいいかなって始めちゃったんですよ。でもイメージしようと思っても、6年経っているからイメージできなくて。思い出せないなっていうことに気が付くのに、2ヵ月くらいかかったんですよ(笑)。それは無理だしあんまり意味がないと思って、じゃあ今の気持ちで素直に作ったほうがいいかなって思って。一番最近に作った曲が『光る音』なんです。メロディと詞と先に出来ていて、いろいろアレンジしてみたんだけど、どうもしっくりこなくて。自然に、Polarisとか意識しないでやったら、実はこうなったんです」
大谷友介(vo&g)
――4曲目に『光る音』(Berlin Demo Version)が収録されていますけど、これはそのときの原型ですか?
大谷「そうですね。原型ですね。久々だったので、気合で(笑)。自分の中でも、ある部分まで見てみたかったです。バンドなので、あるところは余地を残したかったんですけど。最近は、作りこんでいて。自分の作る曲は雰囲気が似ていたりするんですけど、色合いとかを譲さんに伝えたいなっていうのがあるんで。弾き語りよりもそうやって作りこんだものの方がイメージが伝わるんじゃないかって思って」
――このデモ・バージョンが出来た時に、Polarisでやるべき曲と決意が固まったのですね。
大谷「これなら、始められるかなって思った曲です」
――譲さんは、初めてデモを聴いた時、どんな思いでしたか?
柏原「いい曲だねって思って。聴いてから、すぐにメールを書いて送って」
――Polarisで鳴らすべき曲だと思ったのですか?
柏原「あんまり、そういうことは考えなくて。シンプルにベースを弾きたい曲だなって思って」
――譲さんがベースを弾きたいと思ったら、もうPolarisになりますもんね。
大谷「ふたりで音を出そうと思えばPolarisだっていう」
柏原「それくらいシンプルな思いですね。この曲は、僕じゃないかなって思ったら、それはPolarisの曲じゃないんだろうね」
――それから、東京でのレコーディングが始まったのですね。先程の話にも出ましたが、ドラム&コーラスで茂木欣一さん、HAKASE-SUNさんがキーボードで参加されていますね。
柏原「久々なんで、できるだけ信頼できる人がいいなと思って。本当はね、『ベルリンの見たこともないようなドラマーいない?』みたいな話も出たんだけど」
大谷「それは久々なのに敷居が高すぎるし(笑)」
柏原「6年ぶりなので、不安要素は少なくして(笑)」
大谷「自分もよく知っている人だったので、おふたりにお願いしました」
――Polarisをよく理解してくれているおふたりという感じもあったのですか?
柏原「とにかく、僕と大谷くんを良くわかっているってことですかね。欣ちゃんは、僕が一番信頼している良いドラマーだと思っているしね。最初は、他にいろいろ一緒にやってるからどうかな?って、欣ちゃんは考えてたけどね」
大谷「逆にそうやって、欣ちゃんが言うのもわかるし、そうやって考えてくれてありがたいよね」
――12月にはワンマンライブも予定されています。かなり期待しています!
大谷「どうなるんでしょうね?」
柏原「6年前のあの伝説のライブを越えられますかね(笑)?」
――Polarisのライブと言えば、早稲田祭で大隅講堂の壁が落ちるという事件もありました。
柏原「あれは、ヤバかったよね(笑)。俺がベースを弾いているときにドドッとね(笑)」
大谷「今回も、まだ編成も決まってないし音も合わせてないし、何が起こるかわからないですけど(笑)、それも含めて楽しみにしていてほしいですね」
Text●ぴあ Photo●中川有紀子
2000年、大谷友介[オオヤユウスケ](vo&g)、柏原譲(b)らによって結成。2001年11月にミニ・アルバム『Polaris』でデビュー。浮遊するメロディとダイナミズム感にあふれたリズムが織り成すサウンド、日常の喜怒哀楽を写実的に描き出す世界観で唯一無二のポップスを生み出す。 これまでに4枚のアルバムをリリース。2006年、4thアルバム『空間』を発表し、同作を携えたツアー“WALKING MUSIC TOUR 2006”以降、大谷、柏原ともそれぞれのソロ活動に専念。大谷は2010年には活動の拠点をベルリンに移し、ソロ・プロジェクト“SPENCER”を始動。また他アーティストのプロデュース、映画音楽の制作、CM音楽と活動の幅を広げる。柏原も他アーティストのプロデュース、FISHMANS、OTOUTA、So many tearsと多岐にわたって活躍する。現在は、ニュー・アルバム制作中。
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