TOP > 今週のこの人 > plenty

――確かにplentyの持ち味は、ともすれば日記になってしまいそうな日常的なテーマでも、「ここまで考察するか」というくらい深めるところですからね。きっと、どんなにありふれた題材でも、面白い曲になると思う。この曲はサウンドも新境地ですね。

「ドラムが打ち込みなんです。最初はもっとフォークだったり、カントリーのテイストがある曲だったんですけど、あえてバラバラに分解して、変な曲にしようと。レコーディングでも“どうしよう、展開が覚えられない”という感じで大変でしたね(笑)。まだライブでやったことがないので、そのあたりも考えないと」

江沼郁弥(vo&g)

江沼郁弥(vo&g)

――スケール感がある曲なので、ライブでどうなるか楽しみです。一方、3曲目の「ひとつ、さよなら」は切ない楽曲。普通に捉えると、別れの曲でしょうか。

「実は、書いているときは“別れ”というテーマには焦点があっていなかったんです。自分の存在や、誰かの存在を歌おうと思って書き始めたら、“不在”を歌うことがしっくりきたというか。結果的には別れの歌と捉えてもらっていいと思うんですけど、最初の発想は“誰かがそばにいること”を歌おうと考えていたんです。それと、この曲については、“におい”をパッケージしたいと思いました。夏祭りが終わったあとのあの感じを、なんとか表現したくて。歌入れのときは、“悲しい”という気持ちは込めていなくて、あの“におい”を感じながら歌いました」

――“夏祭りの終わり”というのは、“かつてあったものがなくなった”ことを象徴している?

「そうですね。夏祭りの終わりって、独特の雰囲気があるじゃないですか。直接的に“さびしい”という感じではなくて、何かフワッと包まれるというか……。自分でも、客観的に聴くと悲しいラブソングのようになってはいると思うんですけど、そういう部分を感じてもらえたらうれしいです」

――具体的なエピソードを元にしているようにも聴こえるので、哲学的なところから生まれた曲だというのは面白いですね。歌詞についても、かなり考えたのでは?

「言葉をはめていって“何か違うな”というのは、けっこう繰り返しましたね。<残されたのは君の香り 蜜のような>というフレーズの<蜜のような>という言葉は、今までに使ったことがなかったので、最初は“らしくないな”なんて思っていたんですけど、それを乗り越えて、いい歌詞になったと思います」

――江沼さんの作詞は、自分との対話から始まるのか、それとも世の中で起きていることに対する感情からくるのか、どちらなのでしょうか?

「どちらもあると思います。でも、最近は外からの刺激が関係する書き方が増えているかもしれませんね。例えば、アルバムに収録した『あいという』という曲。これ、最初はボロボロのギャルの歌だったんです。友だちと朝まで飲んだあと、始発の電車で帰るときに、ガラガラの車内にギャルが乗ってきて。見るからに、朝まで飲んで踊り明かしてきた感じで、ヒールの高い靴の側面に体重をかけるようにして歩いていたんです。まつ毛なんか、“あれ? そんなところに毛があるっけ?”というところから生えていて(笑)。そうやって観察していると、その子が自分の前に座って、イヤホンで音楽を聴き始めた。ものすごい大音量だったので漏れて聴こえてきたんですけど、それが<愛してる>とか、<好きだよ>とか、<でも会えない>という内容の流行りのJ-POPだったんです。その光景に、雷に打たれたような衝撃を受けたんですよね」

――というのは?

「きっと、さっきまでは思いっきりはしゃいで、楽しく飲んで踊っていたのに、今は“さみしさ”を強調した曲を聴いている。本人は単に流行っているからとか、好きだからという理由で聴いているのかもしれないけれど、“人って何なんだろう”って考えさせられて。そうして歌詞を書き始めるんです。外からの刺激を吸収して、自分を通して掘り下げていくというか。今書いている歌詞もそうなんですよ。自分が住んでいる家のベランダの前に、3階建てのマンションと同じ高さの大きな木があったんです。その木が、朝起きたらガッツリ切られていた。切られる一週間前は、枝がベランダに入ってきていて、その枝をはうイモムシを見て、“虫はあんまり好きじゃないけど、けっこうかわいいかも”なんて思ったりしていたんですよね。そうしたら、いきなり木がなくなって。たぶん、あのイモムシは蝶になっていない……そんなことを考えて、“永遠ってなんだろう”というテーマで書き始めています」

――すぐに答えを出してしまう人も多い中で、そのときどきで考え抜いて書くことが、plentyの刺激的な歌詞につながっているのかもしれないですね。「オレは簡単に結論を出さないぞ」という思いがあったり?

「なにごとも変化していくし、常に“言い切れないな”とは思っています。不安定な世の中だと、ついつい“絶対”を求めてしまうけれど、きっとそんなものはない。いろんなものが便利になっても、人間はアナログな存在で、人と人とのかかわりの構造や中身は、変わっていないですよね。だから、生きていくこと、人とかかわることは、不安定で、面倒くさいものに決まっているんじゃないかなって。そういうものだから、考え続けて、歌詞を書き続けるしかない。もっと早く書けたらいいと思うけど、これからも時間がかかっちゃうでしょうね(笑)」

江沼郁弥(vo&g)

――今回のシングルは、どの曲もこれまでのplentyを乗り越えながら作っていった部分があると思いますが、バンドにとってステップになる1枚と考えていいですか?

「そうですね。自分としても“今までも存在はしていたけど、開けていなかった引き出しを開けた”という感じがあって。変化したというよりも、やれることが増えたというか。まだ開けていない引き出しもたくさんあるので、そこにも挑戦してみたいという思いがあります」

――さて、夏以降はフェスがあり、ツアーもありと、バンド活動はハードになっていくと思いますが、いまは楽曲制作がメインということですね。

「常にと言えば常になんですけど、アルバムを見据えて作っています。曲はいつもあるんですけど、歌詞を書くのに時間がかかるんですよね。出てくるときと出てこないときがあるし、書いているうちに自分の気持ちが変わってしまうこともある。今も時間はかかってるんですが、いい曲ができているので期待していてください」

Text●神谷弘一(blueprint) Photo●吉田圭子

PROFILE

歌詞、曲、存在、それぞれが独特。そしてどこまでも確信的であり革新のロックバンド。メンバーは、江沼郁弥(vo&g)、新田紀彰(b)。’09年 にdemo音源「後悔」を1000枚を配布。同年10月に1st ミニアルバム『拝啓。皆さま』リリース。’12年2月には初のフルアルバム『plenty』をリリース。9月21日(金)からは「plenty 2012年 秋 ワンマンツアー」を開催する。
オフィシャルホームページ


TICKET

「plenty 2012年 秋 ワンマンツアー」

⇒9月21日 (金) 金沢 AZ
⇒9月22日 (土) 新潟 LOTS
⇒9月28日 (金) 浜松 Live House 窓枠
⇒9月30日 (日) 仙台 Rensa
⇒10月7日 (日) 広島 CLUB QUATTRO
⇒10月8日 (月・祝) 福岡 DRUM LOGOS
⇒10月13日 (土) 名古屋 Zepp Nagoya
⇒10月14日 (日) 大阪 Zepp Namba
⇒10月21日 (日) 東京 Zepp DiverCity

公演・チケット情報



RELEASE

3rd EP
『傾いた空/能天気日和/ひとつ、さよなら』
発売中
1000円
Headphone music label
XQFQ-1207
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2012.08.07更新

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