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二階堂瞳子

――なるほど。じゃあ次に5月の公演についてですが、今回は「演劇をやる」と謳ってますよね。しかもシェイクスピアがモチーフになっている。最近はおはぎライブに特化した公演が続いていたのが、ここにきて演劇をやろうと思ったのは何故ですか?

「まず、おはぎライブが続いていたのは、観客の評価や視聴率の高さもあるけど、あのスピード感じゃないと私が生きている心地がしなくなってきたのが大きいですね。ぬるい演劇をやるよりも、瞬間的な狂騒と厳格な秩序で構成されているおはぎライブのほうが、全然かっこいいだろうと」

――演劇を観に行っても、長く感じちゃう、遅く感じちゃうって言ってましたもんね。

「そうだったんです。でも、昨年の『フェスティバル/トーキョー』の時に、おはぎライブの物語性についてプログラム・ディレクターの相馬千秋さんに問われたんですよね。もちろん、おはぎライブに物語性がないわけじゃ全然ないんですよ。台詞が聞こえなくても、ダンスや雄叫びの中から物語が見えてくることもあるだろうし。ただ、今回は物語性というところにより真っ向から挑戦してみようと思って。あと、おはぎライブをやっていても、実は楽日には繰り返し作業に飽きている自分がいて……」

――あ、おはぎライブですらルーティーンに感じる瞬間がある?

「そう。あれだけ命をかけてやっていたおはぎライブなのに、なんで今つまんねーと思ってるんだ?私!って。こんな狂騒的な空間にいるのに、客観的にステージを傍観視している自分がいることに気付いてしまって……。だったら違うことやってみようっていうことで、今回、テキストのある演劇をやろうと。役とテキストの縛りがあるのはストレスがたまるし、苦労しているんですけど、確実に自分のステップアップになってると実感してますね。言ってしまえばおはぎライブというのはすでに勝てる武器になっていると思うんです。でも、今回はそこにあえて物語性を足して、演劇として進化しようとしているおはぎライブ。つまり非常に実験的な位置づけとなる公演だと思っています」

――しかし何故シェイクスピアだったんですか?

「もともと『ロミジュリ』に関しては前からちょっと興味があったんですが、シェイクスピアって愛とか運命とかクサいことずっと言ってるなーっていうイメージしかなかったんです。でも言ってみればそこの中に含まれてる熱量という意味ではバナナ学園が欲しているものは同じだと思えるので、それをバナナ学園の文化圏に染め上げてしまおうと。もう、『ロミジュリ』もシェイクスピアのもんじゃねーから !私のもんだから!!って(笑)」

――今回、ドラマトゥルクとして青年団の野村政之さんが参加されてますが、彼はどういう役割を?

「そもそも私が劇作をしないので、台本のベースを構築する作業をお願いしたんですよ。ただ、そのテキストを私がガンガンいじって脚色しまくってて、切ったり貼ったりを繰り返してますね」

――編集している?

「もう、編集しまくってて、登場人物も増えたり減ったり。キャラも変わりまくってます。もはやこの登場人物って誰なの?っていうくらい(笑)」

――二次創作じゃないですか!

「もう、古典戯曲の同人誌作ってるみたいなものですよ(笑)。シェイクスピア以外にも、チェーホフとかベケットの登場人物も混ぜてますしね。あと、これはあまりつっこまれたくないんですけど(笑)、番外編でスーパーマリオブラザーズがでてきます。まあとにかく、シェイクスピアからイメージされるもの大集合!みたいな感じですね。しかも騒音!うっせー!っていう演劇になります(笑)」

――シェイクスピア使ってMAD動画作る感覚ですよね。

「そうですよね。シェイクスピア組曲、シェイクスピア流星群、みたいな!」

――おはぎライブでは恒例の、パフォーマーと観客の接触は今回もあるんですか?

「あります、ありますよ」

――観客との接触といえば、最後にお客さんをステージにあげるお馴染みのパフォーマンスがありますが、そもそも、あれは何故始まったんですか?

「あれは、お客さんにとってはコンプレックスの昇華になると思うんですよ。だから、皆さんには客席から逃げないぞっていう強い意志を持って頂いて……」

――あ、そうなんですか。簡単に巻き込まれてステージにあがっちゃうよりも、あくまでも観客という立場を死守して欲しい?

「そのほうがお互いよくないですか? 恥ずかしいけどぎりぎりであがっちゃう、くらいのほうが気持ちいいと思うんですよね。コンプレックスが弱いうちは感動もないと思うから。お客さんはステージに強制的にあげられることで、泣きたいとか笑いたいとか色んな感情が湧き起こると思うんですけど、その感情も全部受け止めて、演出の一部に組み込みたい」

――劇場って客席と舞台が断絶されていて、観る側って無力な存在じゃないですか。だからこそ、その距離がギリギリで崩れた時にすごいカタルシスがあるんでしょうね。

「そうそう、カタルシス! 言葉が出てこなかったけど、それです!(笑)」

――あと、以前から疑問だったんですけど、ライブハウスではなく劇場で公演を続けてきたのは何故ですか?

「ライブハウスでやるほうが、私たちのスタイルからすれば楽な選択だと思うんですよ。観客は否が応でもアゲアゲのテンションで来るから、自然と盛り上がるし。でも、演劇の劇場だと、舞台では真剣に狂騒していて、一方で客席がどんびきしてるっていう状態になる。それが私には気持ちいいし、そういう客席の雰囲気すらも計算に入れた演出を考えるのが楽しいんです。それに、まだパルコ劇場でも芸術劇場でもシアターコクーンでもやってないですからね」

――でも、色んな可能性がありますよね。夏フェスに出るのもありだし、ニコニコ動画と組んでニコファーレでおはぎライブやるなんてのも。

「ニコファーレ、やりたいですよ! 踊り手誘って、ダンスロイド呼んでやったらやばいでしょう!! ただ、パフォーマンスのクオリティを維持するためには、ちゃんとリハーサルができて小道具も使える場所じゃないとダメなんですよ。最近、バナナ学園のことをちゃんと知らないのに“出てくださいよ”っていうイベンターが来て腹がたってるんですよ。だから、ここまで完璧を目指してやってることを知ってる人と一緒にやりたいなって思いますね」

――ちなみに、しばらくNYに滞在していたようですが、どんな風に過ごしていたんですか?

「芝居をたくさん見てましたね。あと、夜遊び(笑)。クラブに行ってヲタ芸を打ってアメリカ人とダンスバトルしてました。パフォーマーと話してたら黒人の喧嘩に巻き込まれて、"I'll kill you"って言われたこともあった(笑)」

――演出家しての活動は?

「バナナ学園の公演の上映会をマンハッタンでやったんですよ。くいついてくる人はめっちゃくいついてましたね。あと、韓国の琴奏者と知り合って、その人の演奏会のダンスの振付をやったりも」

――あと、今回の公演にアフリカ系アメリカ人のキャストが出るんですよね?

「そうそう。制作の樺澤さんが参加している演劇制作の国際的プログラムがあって、そこの生徒として来ていたんですけど、おもしろそうだからナンパしたら出てくれることになって。シェイクスピアの『夏の夜の夢』のパックの役をやります」

――話が少し変わりますが、去年の震災がバナナの作風に何か影響を与えたことって何かあると思いますか?

「震災については、観客のほうが影響を受けていると思うんですよね。例えば、(舞台から飛んでくる水などをよけるために)レインコートをかぶった観客たちが、放射性物質から身を守っているように見えるっていう誤解した意見があって。『20年安泰。』の時も、全く別の理由で、散らかった舞台を猛スピードで掃除していたら、その姿が瓦礫の山が撤去されて復興に向かっていく姿を表現しているみたいだ、っていう人がいたり」

――意識下に記憶がこびりついてるんでしょうね。

「あと、NYのメトロポリタン美術館でたまたま仲良くなった女性がいたんですけど、その人が“あなたの国は狭いから国中に放射性物質が蔓延してるんでしょ? とても怖くて私は行けないわ”って言うんですよね。完全に勘違いだし、馬鹿じゃないの?って思ったけど、そういう誤解が世界中で起こってると思うんですよ。で、バナナ学園の作品も同時多発構造になっているから、見る人の席や視線によって見えるものが変わる。同じ回を見た人でもキャストにキスされる人とそうでない人がいるし、水をかぶった人とそうでない人がいるし、全員が違うものを見ている。そう考えると、この世は誤解や勘違いだらけで、私たちは意思の伝達が不具合の中で日常を生きているとも言える」

――確かに。バナナ学園の舞台でよく、演者同士が糸電話で会話するシーンがありますけど、あれもディスコミュニケーションの象徴に見えるんですよ。

「そうそう、そうですよね。作品が誤解含みで伝達されていくっていうのは、世界の現状と似たようなところがあると思う。だから、“バナナ学園って何?”って言われても、特定できない。勘違いも含めて、それぞれが思い描く形がバナナ学園でいいんじゃないでしょうか?って。自然現象だし、演劇だし、パフォーマンスだし、最強のジャンルだし」

――あと、これは是非ここでアピールして欲しいんですけど、二階堂さん、常に(雑誌の)『SPA!』に出たい、一緒に何かやりたいって言ってますよね。

「きましたね。『SPA!』は私のバイブルであるということを語らせてくださいよ!」

――『SPA!』のどこが素晴らしいんですか?

「とりあえず私は、『SPA!』を読んでいれば政治経済全部オッケーっていうわがまま女子なんです! 載っている情報が何の役にも立たないことは分かってるんですけど、でも、なんか面白い。その、“なんか”を実現するために編集者たちが血を吐く努力をしているのが共感できるんです。くだらないキャッチコピーを考えるために何十時間費やしたんだろうなって思うと、ほんと尊敬するし、そのキャッチコピーを見て雑誌を手に取る人がいるのはすごいことだと思う。しかも、雑多な情報がひとつの誌面に載っているじゃないですか。硬いことも柔らかいことも、楽しいこともエロい事も、政治的なこともどうでもいいことも載っていて、飽きさせない」

――じゃあ、雑多なネタの積み上げで成り立っている誌面がおはぎライブに似てる、とか、『SPA!』のキャッチコピーはバナナ学園のパフォーマンスのように精度が高い、とか……?

「そうですよ! だから共感できるし、尊敬している。私たちが身体で表現しているのと同じものを、『SPA!』は文章で作っている。バナナ学園はマンパワーでやってるけど、『SPA!』は文章でここまでやれるんだっていうことを示している。マジで取材されたいですよ」

――いや、近いうちに取材来ると思いますよ! ところで、今は二階堂さんもキャストも若いから、おはぎライブのような無理もできますけど、歳をとったらどう変わるんでしょうね。10年後自分は、バナナ学園は、どうなっていると思いますか?

「20代は競争心だけでがむしゃらにやっているから何も考えてないけど、でも、今のようなパフォーマンスにいつか飽きる可能性もあると思うんですよね。今は楽しいし、これでしか生きてる心地がしないけど、もしかしたら急にリアルな現代口語演劇をやるかもしれないし(笑)、音楽のオーケストラになってるかもしれないし。まったく想像できないですね」

二階堂瞳子

――飽きっぽいですしね……。でも、オリンピックの開会式の演出は是非やりたいって言ってましたよね。

「もう、スポーツ選手にヲタ芸の演出つけたいですね。素晴らしいと思うんですよ、鍛え上げられた肉体を持った選手たちが一堂に会してのヲタ芸! 休んだり自分のトレーニングしたい選手たちを呼び出して、開会式の稽古! 頭でっかちな凝り固まった演劇人に見せたいですね」

――他に今後の展望は?

「とりあえず今は狂騒的な空間に飽きてないから、それを突き詰めてクオリティを高めて、この表現で同時代の他のジャンルすべてに勝ちたいですね。ぬるいことやってんじゃねーよ、私はもっとやばいことやって同時代で最強になってやる、っていうのはずっと考えていることなので」

――ジャンルっていうことで言うと、バナナ学園は演劇なの?ってよく聞かれません? 二階堂さんはよく、バナナ学園は「自然現象」って説明しますけど。

「演劇かどうかっていうのはよく聞かれるけど、毎回答えが変わります(笑)。そもそも、私自身昨日までの私に飽き飽きしていて、今日の時点では名前のついていない質感とか感情を抱えていいて、それでも無意識に踊っている。今日のことは自分たちでも分かってない。だから、そんな分からないものに名前をつけて安心しているより、不安なままでもずっと興奮しながら前に進んでいきたいですね」

Text●土佐有明 Photo●本房哲治

PROFILE

にかいどう・とうこ 1986年生まれ、北海道札幌市出身。演出家、振付家、俳優。2008年、桜美林大学の学内で、バナナ学園純情乙女組を設立。活動当初は学園モノを中心に上演していたが、2009年より“おはぎライブ”と題したショー要素の強い作風にシフト。毎回、各方面からキャストを集めた総勢50人程度の大所帯で公演を行う。アイドル、オタク、アニメといった日本のサブカルチャーをモチーフにしたステージは、驚異的な情報量と、狂騒的なエネルギーに満ち、さらには様々な液体や物体が宙を飛び交う。その強烈なアタックは、鬱屈した観客にとってかなり中毒性が高い。
バナナ学園純情乙女組公式HP

INFORMATION

バナナ学園純情乙女組
『翔べ翔べ翔べ!!!!!バナ学シェイクスピア輪姦学校(仮仮仮)』

 5月24日(木)〜27日(日)
 王子小劇場



2012.05.15更新

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