TOP > 今週のこの人 > 百々和宏

――ふーむ。それはやっぱりどこかで腹を括った瞬間があったんだよね。

「あった。植木屋を始める時にすごい悩んだから」

――音楽をやめるか続けるか、ということで?

「最初は、武士は食わねど高楊枝みたいな気分だったんですよ。でもそうやっていくと、つまり音楽一本だけでやっていこうとすると、自分のやりたくないこともやらなきゃいけなくなってくる。音楽の中だけで勘定していかざるを得なくなるっていうか。それにすごい疑問を感じ出した。そうやっていって、本当にバンドが良くなるもんかなって。ただただ磨り減って、自分に合わないことでも無理してやって、それでいくら儲かりましたってなったとしても……そっちのほうが全然不純だなって思った時があった」

――音楽に純粋に向き合うために生活を犠牲にするのではなくて、だからこそ音楽とは違うことをやってでも生活していこうと。

「だから、俺はアーティスト≠ナはないんです」

――「アーティスト」であろうがなかろうが、それは、すごい覚悟だよ。

「うん(笑)。でも植木屋もね、すごいクリエイティブな仕事ですよ。生き物を扱う仕事ですから」

――いいネ! 百々和宏(笑)。

「(笑)。ライブも変わっていったんですよね。崖っぷち感っていうのではなくて、本当に今ここにある音楽を楽しもうっていう気分になったし、やらされてる感は一切ないんで。たとえばこういうインタビューにしても、前までは正直どうでもいいやって思う瞬間がなくもなかったけど(笑)、今は全然そうじゃなくて、いろいろ訊かれてそれに答える中でむしろ自分が磨かれてる感じがするし、かと言って取り繕ったりする必要もないなって思うし。楽しくなった、いろんなことが」

――きちんと音楽を引き受けられるようになった?

「そういうことだと思う、逆にね。それは自分で一番びっくりした。もっとしょっぱい感じになるんじゃないか、とか(笑)」

――一瞬思うよね(笑)。

「思う(笑)。でもね、言ったら悪いけど音楽音楽ってこだわってるやつほどよっぽどしょっぱいこと言ってるなって思うこともあるけどね」

――だって、たかが音楽じゃないかと。

「そう。作品を作る側からしたらね、たかが音楽=Bで、逆に自分の生活の中で音楽を聴いたり、CDやレコードを買ったりするのはされど音楽≠セと思ってる。だから、あんまりがんばり過ぎるとそのへんがおかしくなるんだよね。今はみんなされど音楽≠ホっかりでしょ? 音楽のチカラ≠ニか言ってさ」

百々和宏

――そこに居心地の悪さを感じられるかどうかっていうのが重要な尺度だったりするんじゃない?

「そうだね。そこはやっぱ一回距離を置いてからじゃないと気づかなかった」

――もう一度『窓』というタイトルに戻ると、今お話を伺って、やっぱり百々和宏のソロアルバムにはこの言葉以外にふさわしいものはないなと強く思うわけだけど。それはその、百々くんの音楽のとらえ方や向き合い方、距離の取り方が、窓1枚きちんと隔てられていて、それが品格や節度になっているという。けど、ずっと見つめているよっていうこのあたたかさ。

「中にいるのか外にいるのか、開いてるのか閉まってるのか、感じ方は人それぞれだと思うけど、俺とあなたの間にはこのアルバムが確かにあるんだっていう感じかな。ちゃんと届けばうれしいね」

――きっと届くよ。

「ありがとう」

Text●谷岡正浩(ぴあ) Photo●星野洋介

PROFILE

もも・かずひろ 1972年、福岡県生まれ。1997年、藤田勇、武井靖典の3人でMO'SOME TONEBENDER結成。以来、2001年のメジャーデビューを経て現在までボーカル&ギターとして活動を続けている。オフィシャルHPプロフィールの「FAVORITE」の項目にイギー・ポップやもつ煮込みと並んで、乙類とあるとおり無類の酒好きで知られる。「音楽と人」誌で連載中のエッセイをまとめた書籍『泥酔ジャーナル』はシリーズ化され、現在2巻まで発売中。


TICKET

『社会の窓ツアー』
百々和宏とテープエコーズ

⇒5/18(金) 新宿風林会館 ニュージャパン
⇒5/26(土) 心斎橋digmeout ART&DINER
⇒5/28(月) 福岡VOO DOO LOUNGE
⇒5/29(火) 名古屋APOLLO THEATER

開場18:30 / 開演19:00
前売3,500円 当日4,000円

公演・チケット情報



RELEASE

『窓』
4月25日(水)発売
2,625円
日本コロムビア
COCP-37360


2012.04.17更新

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