TOP > 今週のこの人 > 百々和宏

まず、タイトルがいい。ジャケがいい。そして曲がいい。「いい」の中味を言うと、きっとこういうことなのだと思う。それは、百々和宏という人間がダイレクトに伝わってくるからだ、と。オリジナル曲が8曲にカバーが3曲(中島みゆき『悪女』、ジョニー・サンダース『サッド・ヴァケイション』、小林麻美『雨音はショパンの調べ』)、全体のトーンは派手なものではなく、窓の外はいつもの見慣れた風景、そんな印象を受ける。この作品にはこんな感想がシンプルで似合うのかもしれない。「ちょうどいい」――。そしてそれが、もっともかけがいのないものだということを我々は知っている。

――タナカカツキさんが描いたジャケット、かなりいいですね。

「かなりいい。見た瞬間に、これは聴き込んでくれてるなと思いましたね。そういうのってあんまりないんですよ」

――というのは?

「ジャケを見て、そこまで自分が何かを感じることがないんですよ。あの絵は、俺のことを理解してくれていないと描けない、そう思うとすごいうれしくなって。レコーディング中だったんですよ、絵が上がってきたのが。それを見て、確信に近い思いを抱いた。これはいい作品になるって」

――聞いたところによると、その絵を見て、もともとあったタイトルを再考しようと思ったとか。

「そうそう。正確には、ジャケには使われていない別テイクの絵があって。それは部屋の中で俺がダラーっと座ってるっていうもので、そこに簡単な線で窓枠だけが描いてあった。それを眺めていたら『窓』っていう言葉が浮かんできて、タイトルを即決したんです」

――前のものにはしっくりきてなかった?

「うーーん。前に付けていたタイトルはカタカナだったんですけど、それがイメージの百々和宏――モーサムやってて激しいライブをやるっていうような――をこっちが意識して付けたようなものだった。だからタナカさんの絵を見た時に、これはもっとガツッとした言葉がいるなと思ったんですよ」

――じゃあ、先にタナカさんにリアル百々を表現された感じだったんだ。

「(笑)。タナカさんの本心はわからないけどね。でも何かしら感じてくれたんだなというのはすごく伝わってきた」

――そういう作品なんだね、きっと。

「え?」

――つまり、この『窓』という作品は、百々くんそのものなんだなっていう気がすごくする。

「あー」

――だから、バンドと比較してこの作品を語るっていうのが、なんかね、やりにくい(笑)。

「(笑)。そこは、どっちもいるんだよね。バンドと地続きって言ってくれる人もいれば、バンドとは全然別物だって言う人もいるし」

百々和宏

――重要なのは、このタイミングで百々和宏がソロ・アルバムを作ったっていうことだよね。たとえばこれが5年前だったら、全然違うものになっていたかもしれない。

「全然違うでしょうね。やっぱり年齢を重ねてくると、チカラが抜けてくるっていうんじゃなくて、まぁなんとかなるよっていう気になってくる。ここまできたんだ、みたいな(笑)。で、逆に若い頃よりも自由……自由じゃないな、変なこだわりがなくなった分、自分の普通の状態でどこにでも行けるっていう感覚があって。だから今回のソロのトーンは、平穏というか平熱というか、そんなに肩肘張ってない感じではあるかな」

――バンドがどうこうじゃなくてね。

「うん。だから5年前とかだったらもっとバンドのことを考えて作ったと思う。ソロではこういう路線を狙おうっていうふうに。でも今回は純粋に自分から何が出てくるのかを楽しみながら、適度に悩みながら作ったって感じですね」

――それぞれの曲はどうなんだろう? 日記のように少しずつ書き溜めていた曲を集めて出したのか、それともソロを作ろうっていうことで書いた曲が多いのか。

「日記のように曲を書けるタイプじゃないんですよね。ほんと自分で思うけど、俺はアーティストじゃないなってつくづく思う」

――え、どういうこと?(笑)

「曲自体はこれまでデモで作ってたやつの寄せ集めなんですよ。新たに書き下ろしたのは2、3曲くらいで」

――自分が「アーティスト」じゃないなっていうのは、ずっと思っていること?

「いやいや、最近。単純に呼称としても違和感があって。ずいぶん前に俺はバンドマン≠ゥなって言ったら、あるライターさんが(忌野)清志郎と同じこと言ってるって。でも、そことも違う、そんないいもんじゃないって絶対(笑)」

――(笑)。なんだろ。百々くんの場合は、もっと生きるってことと切実に地続きなのかな。

「あー、たぶんそうですね。生きるっていうより、生活ってもっとはっきり言ったほうが近いけど。だから、そこにはオメカシしたって何の役にも立たないっていう感覚がどうしたってあるんですよね。そんなことしても疲れるだけだっていう」

Text●谷岡正浩(ぴあ) Photo●星野洋介

PROFILE

もも・かずひろ 1972年、福岡県生まれ。1997年、藤田勇、武井靖典の3人でMO'SOME TONEBENDER結成。以来、2001年のメジャーデビューを経て現在までボーカル&ギターとして活動を続けている。オフィシャルHPプロフィールの「FAVORITE」の項目にイギー・ポップやもつ煮込みと並んで、乙類とあるとおり無類の酒好きで知られる。「音楽と人」誌で連載中のエッセイをまとめた書籍『泥酔ジャーナル』はシリーズ化され、現在2巻まで発売中。


TICKET

『社会の窓ツアー』
百々和宏とテープエコーズ

⇒5/18(金) 新宿風林会館 ニュージャパン
⇒5/26(土) 心斎橋digmeout ART&DINER
⇒5/28(月) 福岡VOO DOO LOUNGE
⇒5/29(火) 名古屋APOLLO THEATER

開場18:30 / 開演19:00
前売3,500円 当日4,000円

公演・チケット情報



RELEASE

『窓』
4月25日(水)発売
2,625円
日本コロムビア
COCP-37360


2012.04.17更新

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