サディスティック・ミカ・バンドやY.M.O.など、ここ数年にわかに活動が活発化しているベテラン高橋幸宏が新バンドを結成した。高橋がソロ・アルバム『BLUE MOON BLUE』(2006年)時のツアー・バンドに手応えを感じ、女性ボーカルを加えた形でやってみたいと考え、ツアー・バンドに参加した高野寛、高田漣、権藤知彦、さらに原田知世、堀江博久に声をかけ、pupaが始まった。いずれも高橋のこれまでの音楽活動で深く関わり続けてきた精鋭たちだ。
高橋幸宏 「この6人の出す音なら絶対面白いという自信があった。心の琴線に触れる部分がある。知世ちゃんは(声の)倍音がいい。ガーッと歌うタイプの音楽をやりたかったわけではないし、ある種エイジレスなところも魅力的だった。全員がボーカルをやれるっていうのも狙ってた。コーラス・グループみたいな感じもあっていいと思ったから」
去年の8月に初めてメンバーが集まり、それから3ヵ月ほどはずっとネット上でやりとりしていたという。
高橋幸宏 「pupa専用のサーバーを設けて、音源をアップして、ああでもないこうでもないと。年が明けスタジオに全員が集まってから作業は加速して、“バンド感覚”はより強固なものになっていきました」
堀江博久 「僕が作曲した『Anywhere』って曲を作りかけのまま、僕がCORNELIUSのツアーで抜けてたことがあって。僕としてはもう少し構成に手を入れたかったんだけど、帰ってきたらもう歌詞までできてて“この展開で行く”ってことに決まってた。まだ全然完成途上のはずだったのに(笑)。でもそれがバンドらしいと思う。任せられるというか」
構想をたてメンバーを選んだのは高橋だが、pupaは高橋のソロではなく、6人のメンバーが対等にアイデアを提供し、それぞれの役割を担う「バンド」だ。
堀江博久 「ファッション・ブランドにたとえると面白いと思うんですよ。僕らは全員デザイナーで、どんどんデザインしてアイデアを出すけど、最終的には幸宏さんがまとめてくれるって安心感がある。僕らはいろんな要素、いろんな音を入れたがる世代なんだけど、幸宏さんはちゃんと無駄なものをそぎ落としてスリムな表現にしてくれる。だから僕らも好き勝手にできるし、曲も演奏もそういう臨み方ができた」
そうして出来上がったのが1stアルバム『floating pupa』だ。高橋のルーツであるバート・バカラックやビーチ・ボーイズなどの60年代の王道ポップスが根底にあり、そこにエレクトロニカなどさまざまな現代的味付けを施した、透明感のある叙情的なサウンドが魅力的だ。それは最初のソロ作『Saravah!』(1978年)以来の高橋の表現を貫く感覚でもあるが、同じ「ポップ」であっても、明らかに今のJ-POPの主流とは異なる。
高橋幸宏 「何が違うんでしょうね。心が違う(笑)。自ら売れようとしてないっていうか。堀江君は“売りましょう”と言うけど、そのわりに売れそうな曲作ってこないし(笑)。もちろん売れることはとてもいいことだけれど、売れるために計算した音楽をやろうとは思わない。昔、僕はそういう音楽をやろうとして、自分には向いてないのがわかったんでね。どうせなら、そんなこと考えないで好きなことを好きなようにやればいいし、それが結果的に良いものになって、みんなに受け入れられればいい」
6人のキャリアも実績もあるアーティストが集まり、いちから作り上げたpupaと『floating pupa』。そこにはまるでバンド初心者に戻ったかのような、あえて「青春」という言葉を使いたくなるような、そんな瑞々しい感覚さえうかがえるのだ。
高橋幸宏 「“青春というのはある特定の年齢を指すのではなく、人生の中での部分部分で必ず訪れる。意識の持ち方によって存在する”って言葉があるんですけど、本当にそうですね。歳とっても青春もあるし。今回はそういう、すごくワクワクする感じがある。だから、いろんな世代の人に聴いてもらいたいですね」
Text●小野島大
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