- 『VOLT』
- 発売中/3900円
- EMIミュージック・ジャパン/ TOCT-26800(初回限定盤)
- CD+DVD
吉井和哉、5枚目となるアルバム『VOLT』が発表された。それ以前の4枚に収録された楽曲の歌詞は、THE YELLOW MONKEY時代とは違う音楽性を追求する吉井の苦悩が反映された楽曲がほとんどであった。けれども新作はあきらかに違う。だから音もずいぶんと違って響く。勢いや色気やユーモアをこれほどまでに感じる吉井のアルバムは、初めてである。
Text●島田諭 Photo●三吉ツカサ
――今回のニュー・アルバム収録曲でボクらがまず聴いたのは、シングルの『ビルマニア』(今年1月にリリース)だったわけですけれども。
「携帯のアンテナが3本立っている感じでしょ? しかもフル充電で」
――パワフルですよね! なにより、歌詞から受ける印象がだいぶ違っていて、アルバム4枚目までは暗かったなぁと。
「暗かった……まあ、そうですね(笑)」
――年末に大阪城ホールと日本武道館でやったライブの1曲目がその『ビルマニア』で、だけど吉井さん、世に出していない曲をライブの1曲目にやることはいままでなかったじゃないですか。
「なかったですね」
――しかもニュー・アルバムの1曲目にもなっていて、これは相当に自信のある曲なんだなと思ったんですよ。
「アップテンポの、日本人が好きなメロディを持つ曲を書いてなかったですから」
――その得意技はあえて避けていたんですよね?
「避けていましたね。今回のアルバムのデモテープは『ビルマニア』から作り始めたんですけど、この曲のサビは、はっきりいって、いままでやりたくないコード進行だったんです。でもそれはやっぱり、気持ちのいい部分もあるわけですよ」
――すごく外に向けられていますよね。いままでの内向的な歌詞とは違って、「がんばれよ」っていってくれているみたいな。
「メッセージ、多めですよね。いままでは外に向けて歌う余裕なんてなかったですから」
――“吉井和哉、憂い晴れて春の歌”って感じなんですけれども。
「3月に発表すればよかった(笑)。ツメが甘いね!」
――アルバムに入っている曲の歌詞は、全部(レコーディングをした)アメリカで書いたんですか?
「『ノーパン』以外は」
――レコーディングは順調でしたか?
「予定より1週間くらい巻きましたね。歌い直したり歌詞を書き直したりもしましたけど、すべてが前向きにできて、なんにも悩まなかったです。だから、音が変わったというより歌詞が変わった。歌詞が変わったから音も必然的に変わったということなんです」
――つまり、吉井さん自身が変わったってことですよね?
「そういうことです」
――あきらかに以前と違いますよね。
「ファンの方はなにが起こったのか気になるでしょうけど」
――どうして悩まなくなったんですか?
「理由はいくつかあるんですけど……(ニュー・アルバムを)共同プロデュースしたジョー・バレシにね、ある曲を歌ったらボツられたんですよ。“ダメだ、このテイクは”って。“きみはスペシャルな人だからあんまり考えないで、自分のからだから沸き上がるものにもっと向けたらどうか”って。“この曲にはきみのギターが合うから自分で弾いたほうがいい”とか。バンドを解散してからぼくには仲間がいなかったんです。スタッフはいますけど、スタッフには入ってこれない領域ってものがあって。だから、音楽に対して何かちゃんと言ってくれる人がいなかったんですよ。それをジョーがしてくれて……嬉しかったですね」
――じゃあ、今回のレコーディングはかなり楽しくできたんじゃないですか? 『フロリダ』では“アメリカで本当のロックが鳴っちゃったんだよ”って歌ってますけど。
「それはちょっと調子に乗り過ぎた。はしゃぎ過ぎた(笑)」
――いいじゃないですか、いままでは歌えなかったことですし。だからいまは、いいアルバムできて自慢したい気持ちはあるんじゃないかと思うんですよ。
「いや、間に合ったって感じですね」
――どういうことですか?
「THE YELLOW MONKEYの最後の『8』ってアルバムは、音楽的にピークを迎えていたと思んですね。そこからソロになって、1st(2004年発表の『at the BLACK HOLE』)を作ったとき、ファンが“あれ?”って思ったらしいんですよ。たしかに、頼りなさげで、寂しげで、鬱な音楽でしたからね。だけど、バンドのときと同じようなことをするんだったら解散する必要はなかったわけですし」
――バンド時代とは違う音楽を作ろうとしていたのが、吉井さんのソロ・キャリアというわけですよね。
「健全な精神、状態だったらソロの1stアルバムはこう(=最新作『VOLT』のこと)じゃないといけなかった。やりたいことをやるんだっていう、パワーを鳴らさないといけなかった。それができるまで5枚かかったわけですけど(笑)。その意味で、間に合った、ということです」
――スタート地点にようやく立てたと?
「そうです」
――自信満々ですか?
「満々じゃないですよ。でも、ここまで支えてくれたファンもたくさんいるし、そういう人たちさえ裏切らなければいいかなって」
――健康状態もよさそうですね。
「健康状態って、お爺ちゃんじゃないんだから!(笑)」
――音楽的に、ってことですよ。
「きっとね、過去のアルバムのほうがよかったっていう意見も出てくると思うんですよ。でもそれはそれでいいことだし、そうやって(吉井和哉の)歴史はできていくわけですから」
――そういえば、『VOLT』が完成したのって、もうだいぶ前のことなんですよね?
「11月……オバマが大統領選に勝ったとき、ニューヨークにいたんですよ(『ビルマニア』のジャケット写真撮影などの目的で訪れていた)。街がすごい盛り上がりで。だから、“オバマ・ロックだぜ! オレもオバマの一員だぜ!”って(笑)。日本の総理大臣もオバマになってほしいね!」
――吉井さんが選挙応援して歌っちゃったりして。
「オバマニア!(笑)」