アルバム『SENSUOUS』プロジェクトのテーマは、音楽、映像、照明のシンクロ。音楽と映像の新しいカタチを提唱するコーネリアスこと小山田圭吾に、この度放つライブDVDとリミックス作品集、そしてこれからについて訊いた。
Text●宮本英夫 Photo●三浦孝明
──ライブDVDのタイトルの“シンクロナイズド”というのは、音と映像と照明とがすべてシンクロしているという意味なんですね。
「今回は『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』というタイトルで、その3つのシンクロがテーマになってます。それ以外にも会場の雰囲気や、いろんな要素がライブには影響してくるんですけど、もともと演奏のシンクロナイズというのは、だいたい今から10年ぐらい前のツアーから始めていたことで、その完成形に近いことが今回はできたかなと思ってます」
──そもそも、すべてがシンクロするというものに興味を持ったきっかけはあるんですか。
「たぶんいろんな要素があると思うんですけど、音と映像のシンクロというのは昔からあるもので、たとえば子供の頃にTVで見ていた『トムとジェリー』とか、ああいうアニメーションは全部音楽と映像がシンクロしてますよね。そういう快感みたいなものは、子供の頃の刷り込みとしてきっとあって。ただライブ・パフォーマンスとして映像を使うというのは、そのシステムを自分で思いついたというのが始まりですね。VJみたいな形で映像を使う人はたくさんいたと思うんですけど、あらかじめ作った映像にクリックトラックを入れて、そのクリックをドラマーが聴いて演奏するという形態を、たまたま『Fantasma』のツアーの頃に思いついて、やってみたらなかなか面白いものになったので。そこらへんから始まってますね」
──そういう話を聞くとオートマチックでクールなものを想像するんですけど、実際のライブを見ると相当にフィジカルな迫力を感じました。
「クリックは使ってるんですけど、実際に鳴ってる音は9割以上は生演奏なので。単純に映像との同期のためにクリックを使っているだけで、演奏としてはすごく生なんです。ちょっと変わってるのは、コーネリアスの場合、レコーディングされているアルバムは自分の演奏をすごく編集しているものなので、実際に曲を頭から最後まで生演奏したことがないものなんですよ。それが作品として存在していて、ライブをやることになって初めて、みんなでそれを演奏してみようということになる(笑)。自分コピーみたいなところから始まるんですけど。そこがたぶん普通のバンドとはまったく逆というか、実際に生演奏したことない楽曲を、実際のバンド演奏に翻訳し直すっていうところから始まるので」
──莫大なリハーサルが必要じゃないですか?
「普通のバンドがライブをやるためのリハーサルの、倍以上はやってると思います。しかもレコーディングされてる音というのは、なるたけ人の手癖から逃れたようなフレーズがすごく多いので、それを実際に演奏するとなるとすごい難しいというか、体が覚えるまでの時間がけっこうあって。今回のツアーにしても、最初の頃は“このタイミングでこのボタンを押してこの音を出して”みたいなことが常に頭の中にあって、メカニカルなというか、ストレスフルなというか(笑)、すごい演奏なんですけど。やっぱり80本ぐらいやると、途中の段階でそういうことが一切みんなの頭の中から外れてくる瞬間があって、そこらへんからバンドの演奏がわりとみんな楽しくなってきて。この映像を録った頃(2008年3月・東京国際フォーラム公演)はだいぶ慣れてきてるんで」
──小山田さんが、ライブ中に一番楽しい瞬間というと?
「楽しい瞬間ですか? 何でしょうね。コーネリアスのライブって、クリックトラックを聴いてやってるんで、曲間とか曲のテンポは完全に一緒なんですよ、どこの会場でやっても。でもその中でも、演奏が変わってくる瞬間というのがあって、意図しなかった音を誰かが出したりとか、何かトラブルでいつもと違う状況になることがあって。そういう時はスリリングで楽しいです(笑)」
──変わった楽しみ方ですね(笑)。
「すごいミニマルな、決まったルーティンワークの中でも、どうしてもまったく同じにはできないんですよ。その中で出てくる微細な変化というのが、演奏していてすごく楽しい瞬間ですね。あとはお客さんの反応だったり、それはCDや作品を作って聴いてもらえているというのとは別で、ダイレクトに来るので、それはすごく楽しいですよね」
──もうひとつ、コーネリアスが手がけたリミックス作品集『CM3』もリリースされます。これにはどんな思い出がありますか。
「2002年から最近までの作品集なんですけど、この時期はSKETCH SHOWや坂本龍一さんや、元YMOの人たちとの交流が多くなってきて、実際に作品という形に残っていて。この時期はそういう活動が多かったなという印象があります」
──最後に、今後の予定や、頭の中にあるプランを教えてください。
「夏にメキシコとアメリカのツアーがちょっと残ってるんですけど、それ以外は『SENSUOUS』プロジェクトは大体終わった感じです。今後の予定は…オノ・ヨーコさんのプラスチック・オノ・バンドのレコーディングにこないだ行ってきて、ニュートン・フォークナーっていうイギリス人のシンガー・ソングライターのプロデュースを何曲かやって、あとは映画のサントラをやったりとか、そんな感じですね。そのへんが片付いたら、自分のニュー・アルバムをそろそろやりたいなと思っていて。それに関してはまだ言えないというか、どうしようか?という感じなんですけど(笑)。ざっくりと、そんな感じです」