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Interview

長渕剛 応答セヨ――。長渕剛から元気のない日本へ

長渕剛

「長渕剛、電撃移籍」。今年のはじめに届いたニュースのざわめきがまだおさまらない中、新曲の発表、リリースがまたも電撃的に報じられた。止まることを拒絶する男の新たな歩みとは?

Text●ぴあ編集部 Photo●小林 司

“あいつら”との触れ合いから生まれた作意のない言葉

 新曲『卒業』の中のこんな一節が印象的だ。
〈桜の木の下で君と 明日別れて行くなんて…嫌さ!!〉

とても直接的で、あまりにも飾り気のない“嫌さ”という言葉にハッとさせられる。そこには過去への憧憬と未来への決意が同じだけ含まれているように思える。そんな割り切れない感情を、時として十代の若者は反抗的な言葉でしか表現できない。しかしそれがまた、十代の特権なのかもしれない。

「ガキの頃の純粋さや一途さ、そういったものを持ち続けることの大切さを再確認したんだ。あいつらに出会ってね」

“あいつら”とは、自身の母校、鹿児島南高校3年7組の生徒たち39人のことだ。今年1月にNHKで放送された『課外授業〜ようこそ先輩〜』という番組、そこで長渕は後輩たちの先生として授業を行った。彼らに心で感じることの尊さを教え、心の叫びを詩に表現し、その無数の言葉や思いを長渕がひとつの曲にした。それが、今回リリースされる『卒業』である。だから、“嫌さ”という叫びはリアルな高校生たちの純粋な気持ちそのものに他ならない。

「嘘はばれちまう。いつかは。俺らは作意を覚えるじゃない。プロという名の下にさ。売れなきゃいかんとか、こういう気持ちにさせなきゃいかんとかさ。それも責任感だったり使命感だったりするんだけど、最近そんなの関係ねーんじゃねーのって思うんだよ。自分の思うこと感じることをタッタタッタと書くべきなんじゃないかってさ」

しかしそのことの難しさを一番感じているのが長渕本人だ。「まわりを振り返ったらいつもひとりぼっちなんだよな」――取材中ぽつりと笑いながら漏らした一言に、並大抵ではない険しい道のりが少しだけ見えたような気がした。

長渕にしか背負えない原風景と理想、そしてリスク

 ミュージシャン・長渕剛の歴史は、変革に満ちたザラついたものだと、そう解釈していた。例えば、透き通った自分の声が嫌で喉を潰すことも、激しいライブ・パフォーマンスに耐え得るだけの体にするため肉体改造したのも、ヒットチャートというシステムに対抗するために長尺の曲を連発したのも、すべては何かを超えるための必要に駆られての大いなる決断だと思っていた。ところが、その話を向けると、長渕は「違う違う」とかぶりを振った。

「俺はいつだって俺の中にある本質を伝えたいんだ。だから根本は変わらない。どうしたって。だけど、本質を伝えたいって心から思って、やってるのに、そこからどんどん遠ざかっていく苦しさってあるんだよ。声が違うとか、歯痒いんだよね。で、声ができるとそれに見合う体がいる、曲ができる。本質に近づくためのごくごく当たり前の道のりなんだ」

つまり、はじめから確固たる理想があり、長い時間をかけてそこに向かっている、それが長渕剛なのだと。強烈な変化に見えたアプローチは、高い理想へ近づくためのプロセスなのだと。ただ、それをプロセスだとするのであれば、あまりにも過酷なような気がする。それこそ、自分自身を消し去ってしまいかねないリスクと隣り合わせだ。

「俺はやっぱり家が貧しかったし、そういうところで育ってきたから、その出発点はどうしても変えようがないんだよね。それを否定しちゃったら俺の生まれてきた意味もないから。財産だと思ってるよ。親父の罵声やおふくろのすすり泣きも。そんな背景を音楽で表現したら、絶対澄んでない。声は太くてしゃがれてなきゃいけないって理想があるんだ。……もはや理想ではないな。実体験にもとづいた精神だな。肉体をそっちに必死で引っ張り込んでるんだろうな」

不謹慎にも、この話を聞きながら、半分ほどしか理解できなかった。そのことを正直に言うと、「だろうな」と長渕は微笑んだ。その瞬間、「一人ぼっちなんだ」と漏らした時の笑顔が交錯して、とたんに長渕から遠ざかっていくような気がした。

弱虫でセンチメンタル 長渕剛、強さの源泉

長渕剛を理解しようとしてはいけないのだと思う。理解するためにはまず、感じなければいけないのだ。当たり前と思われるそのことを、我々は知らず知らずどこかに落っことしたまま先へ歩いてしまっている。

「おれはずっと一人で叫び続けてきたわけ。でもさすがに一人だと声も涸れて出なくなるぜ。一緒に走る仲間が心から欲しいんだ。弱虫でセンチメンタルな部分っていうのは俺の中にたくさんある。人が思ってるほど長渕剛っていうのは強くないところもたくさんあるし。でも、ある部分は非常に強い(笑)。あの母校のガキどもに会った時に感じたんだよ。すごく愛おしかった。あいつらの中に俺がいるような気がした。クソみたいな大人になんか絶対ならねーってギター掻きむしって仲間たちと叫んでたあの頃の自分がさ。その少年の俺と手を組んだ感じがしたんだ」

もちろん、誰もが子供のままでいられるはずがない。長渕だってそうだ。ただ、あの時俺はこう思っていた、こう感じた、その気持ちを忘れないでいることは可能であるかもしれない。数人の仲間と語り合った夢、それは叶わずとも描いていた単純な色彩は思い出せるかもしれない。彼の歌が、万人の心に届くのは、きっとそうした風景をくっきりと浮かび上がらせてくれるからに違いない。“嫌さ!!”――自分に問いかけてみれば、これほど切実で、そして愛おしい言葉は、ちょっとない。

ニュース「長渕剛、新曲『卒業』を、母校・鹿児島南高校の生徒たちと大合唱」

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