- 『Page By Page』
- 発売中/ 3000円
- EMIミュージック・ジャパン
TOCT-26798
Text●岡村 詩野 Photo●源 賀津己
高野寛や原田知世らと組んだpupaとしてアルバムを発表したり、YMOとしてヨーロッパでライブを敢行したり、海外を含めた多くのフェスティバルに出演したり、他アーティストのレコーディングに参加したりと、昨年来、とにかく目眩がするほど多忙を極めていた高橋幸宏が、一体いつ制作していたのか?! と思える早業でソロ・アルバム『Page By Page』をリリースした。しかも、アイスランドのアミーナ、ドイツのラリ・プナ、日本からはコーネリアス、そして、盟友スティーヴ・ジャンセンやセニョール・ココナッツのアトム・ハートらとのコラボレーションをメインにした豪華な1枚になっているのだから驚かされてしまう。今日のポスト・ロック〜エレクトロニカ時代を、もう30年も前から誰よりも早く予見していたそんな高橋幸宏。 飄々と淡々と、でも他の誰も描けぬ世界を頑固に描いていく希有な存在の彼に話を聞いた。
――昨年は、pupaのアルバムがリリースされたり、YMOとしてのツアーがあったりと、大変多忙だったと思うのですが、一体いつ、このソロを制作していたのですか?
「いや、実は僕自身、あまり覚えていないんですよ(笑)。もう、忙し過ぎて何をしていたんだかあまり覚えてない。気がついたら完成していたというね。最初は一昨年の秋くらいでした。ソロと女性ボーカリストを入れたグループの両方をやろうってことで、プリプロをスタートしていたんです。で、その女性ボーカルを入れたグループがpupa。だから、ほぼ同時進行だったんですね。で、最初はどんな感じになるかわからないままスタートしていたんですけど、ある時からpupaのメンバーがどんどん曲を作り始めたので、“これじゃしばらくpupaに専念しなきゃダメだな”ってことで、ソロはいったん置いておいたんです」
――つまり、pupaがあんなに大事になるとは思ってなかった、と。
「そうなんです。僕の最初のイメージでは忙しいメンバーなので、ミニ・アルバムくらいかなーなんて思ってたのに、いつのまにかどんどん楽しくなってきちゃって(笑)。で、pupaが完成したと思ったら、YMOがあったり夏フェスがあったりして去年はもう本当に何が何だかわからないくらい忙しくなって。マネージャーに後から確認したら、9月くらいには今回のアルバムの曲がだいたい揃っていて、それぞれのミュージシャンに曲のデータを送っていたそうなんで(笑)。“あ、ちゃんと出来てたんじゃん”って」
――そういう細かな作業は権藤(知彦)さんが担当していたんですか?
「そうです。海外とのコラボレートが多いので、データのエディットやエンコードなどの整理は権藤くんに任せていました。あと、ミックスも普通のエンジニアじゃなくて彼にやってもらいたかったし、マスタリングも彼にニューヨークに行ってやってもらいました。今回は坂本龍一と同じ日に同じスタジオでマスタリングをしていたみたいで、教授から“権藤にメシおごっておきました。ちなみに、僕は『Indefinable Point』(アルバム収録曲)が好きです”ってメッセージがあって(笑)。アイツ、ちゃっかり教授に音を聴かせていたんですよね」
――そもそも、今回、海外アーティストとのコラボレーションがメインになっていますが、それらのアイデアは最初からあったのですか?
「そうです。でも、会ったことがないんですよ。ラリ・プナもアミーナも。ライブで日本に来てるんですよね。でも、僕どれもYouTubeとかでしか見てないんですよ。それでも彼らの作品を聴いて一緒にやりたいって思って」
――具体的に共演するアーティストを想定してから曲を作る作業に入ったのですか?
「いや、例えば、アミーナと一緒にやった『The Words』は前の僕のアルバムの『ブルー・ムーン・ブルー』が終わった後に、もう作っていた曲なんです。『ブルー・ムーン〜』に入っていた『Something New』の続編として。でも、アミーナにデータを送って、弦とコーラスが入って返ってきたら全然違う感じになっていて、あ、いいなあって。歌詞は失恋の歌ですけど、心はジョージ・ハリスンのつもりで歌いました、これ(笑)。まあ、そんな感じで、曲を作ってから“これはあの人がいいかな?”って考えたりして、それから依頼しました」
――近年は、特に海外の他アーティストと作業して完成させていく作業に向かっている印象ですが、これはやはり一緒にやりたいと思えるアーティストが増えてきているということでもあるのですか?
「そうですね。ただ、僕が考えて想像する期待を裏切らない仕上がりになるんですよね。きっとこういう感じになるんじゃないかなって思ったら、本当にそうなる。昔からそうですね。トニー・マンスフィールドやロキシー・ミュージックと一緒にやった時もそうでした。そういえば、今は80年代前半にそのトニー・マンスフィールドとかとコラボレートしていた頃の気分に似てるんですよ。面倒臭くないのは、会ってイイやつかどうか見極めなくてもメールとかでやりとり出来るのが今はいいですね(笑)。まあ、僕が書く歌詞は、昔から私小説的なラブ・ソングか現状打破がテーマなんで、そこが変わることはないんですけどね」
――環境音楽やアンビエント・ミュージックの見直しが囁かれている昨今、幸宏さんが一貫して作ってこられた作品は、まさにそうした再評価の時代に先鞭をつけていたとも思えるのですが、そうした自覚はどの程度あったりしますか?
「うーん、あまりないですね(笑)。自分の影響を受けてるな、っていうような聴き方をしないんですよね。僕が感じる新しさを持ってるミュージシャンがたくさん出てきたなあってそんな感じですよ。もちろん、音楽雑誌とかを見て、若いバンドが“影響を受けたレコードは高橋幸宏の『ニウロマンティック』”って答えてたりするのを見ると、“いつの時代のアルバムだよ! もう28年前の作品だろう”って思ったりしますけどね(笑)。ただね、やっぱりあまり極端にリスペクトされたりするのって居心地が悪いんですよ。なんか恥ずかしいし。今の若いミュージシャンはそういうのをあまり見せないのはラクでいいですね」
――だから、幸宏さんはいつも若いアーティストとコラボレーションなさってる。
「そうですね。でも、ずっとそう思いこんでいたんですけど、去年、(小坂)忠さんのアルバムに参加させていただいて思ったのは、やっぱり上手いってすごいなってことなんですよね。やりやすいし、ドラムの音色とかもちゃんと分かってるし、パッと音を出せる。忠さんのレコーディングの時は一番若いので佐橋(佳幸)くん。だから、“バーナード・パーディーみたいな音で”とか“アル・ジャクソンで”とかってことがパッとわかる人たちなんですよね。それはそれですごいことなんだなって思いましたね」