- 『GUITARHYTHM V』
- 発売中/3000円
- EMIミュージック・ジャパン / TOCT-26795
布袋寅泰のニュー・アルバムのタイトルは『GUITARHYTHM V』。つまりはそれ以前に、4枚の“GUITARHYTHM”が存在するわけなのだが、この“GUITARHYTHM”とはいったいなんなのか。布袋にとってどんな意味を持つ作品なのか。“GUITARHYTHM”に関するベーシックな質問をぶつけることで浮かび上がったのは彼の音楽に対する飽くなき挑戦と、シーンや市場に対する冷静な視点であった。
Text●島田 諭 Photo●外山 繁
――布袋さんは1988年に初めてのソロ・アルバム『GUITARHYTHM』を発表したわけですけど、最初はいろいろと考えたと思うんです。バンド時代と違う音でビックリさせてやろうとか、でも裏切るとファンに引かれちゃうとか……。
「迷いなく、前者だったね。いままで作ったスタイルを壊してみんなを驚かしてやろうと思っていましたから」
――そこでまず、コンピュータを駆使して音を作り上げていったわけですけれども。
「(BOΦWYの)後期のデモテープはそういう形で作っていたから、『GUITARHYTHM』はデモテープの延長みたいな感じでしたね。それに、歌やメロディを排除して、サウンド・クリエイターとしての自分を確立したいという思いが強くて、同時に、(BOΦWYが)日本一のバンドになったから、次は世界という、夢の第二幕が開く瞬間だったわけですよ。英語でトライしたり、日本のチャートやシーンを無視した音作りをしたのは、そういう意味もあったんですよね」
――そのあとも“GUITARHYTHM”と冠されたアルバムが続いていきましたよね。
「極めて自然に変化していったと思うんですよ。そのときそのときの自分に忠実にね」
――その“GUITARHYTHM”シリーズをちょっと振り返ってほしいんですけれども。
「すべてのアルバムのあいだにライブがあるわけですよ。まず、『GUITARHYTHM』出したあとは、初めてステージの真ん中でマイクと向き合ってオーディエンスと向き合って、なんか居心地の悪さを感じてね(笑)。ボーカリストって大変なんだなと思ったり、バンドっていうものが恋しくなったりして。でもそんなこといってられないんで、次はもっと、そのステージを意識したものにしようと。自分の中にある幻想的な、その頃傾倒していたシュールレアリズムの影響が色濃く出たのが『GUITARHYTHM II』(1991年)で、そのあと長いツアーに出たら、もっと欲が出てきた。オーディエンスにもっと近づきたい、自分の気持ちをもっとストレートに聴いてほしいしという気持ちで作ったのが『GUITARHYTHM III』(1992年)。そしてまたツアーに出たら、一緒に廻ったバンド・メンバーとの密接な関係がとても心地よく思えたので、『GUITARHYTHM IV』(1994年)はバンド・サウンドでいこうと」
――その『GUITARHYTHM W』で“GUITARHYTHM”シリーズを終了させたのはどうしてなんですか?
「メロディも言葉も、もうなにもかもすべてが想像以上に膨らんでいったので、これはもう“GUITARHYTHM”と呼ぶ必要はないと思った。“GUITARHYTHM”が初々しくも崇高なコンセプトでスタートしたこともあり、けがしたくないっていうのと、ひと区切りつけたいと思って。だからそのあとは新しい挑戦……自分でも驚くくらい貪欲にヒット・チャートのナンバー1を狙ってみたり、ずっと作りたいと思っていたサウンドトラックを手がけてみたり、コマーシャルや映画に出たり、ギタリストだったら普通はやらなくてもいいことに挑戦していった。多くのみなさんが知る布袋寅泰とは、おそらく、その15年間(1994年から現在)の活動だと思うんですよ」
――ギター・ヒーロー、あるいは兄貴的存在になっていったのがその時期ですが、そう思われているのは本人としてはどうなんですか?
「あんまり居心地いいとは思わない(笑)。そういうイメージが世間一般にあるのはわからないでもない。だけどほんとの自分は風変わりで、ロマンチストで、ファッションを愛し、そして人を煙にまくのが好きなくせに寂しがり屋っていう人間だから、兄貴のひと言だけで語られるとかなり違うんだよね」
――いろんな人たちとのコラボレーションが増えてきたのも、この15年間のことでしたよね。
「人付き合いがうまくなってきたから(笑)」
――『GUITARHYTHM V』もいろんな人たちが参加しているんですけれども。
「プレイヤーというよりは、トラック・メイカー、リズム・メイカー、DJっていう人が多いですよね。自分のビートだけだと偏りがちだし、違うビートでギターを弾くのは新鮮だなと思ったんだよね。そしたら、あの頃(1stを制作していた時期)の気分に近いものを感じて、新しいスタイルのサウンドを求める自分に戻りたいなって思ったんだよね。“GUITARHYTHM”ってものが、自分を自由にさせてくれることに気づいた。もともとは“GUITARHYTHM”っていうタイトルを付けたアルバムにするつもりじゃなかった」
――新しい挑戦をしつつ、音作りに対する遊び心も感じられるアルバムですよね。
「ロックに挑むというか……ほんとはね、自分がなにをやりたいのかがわからないんですよ。だから感覚的に、感性からこぼれてくるものを音にしているわけで、それをファンやリスナーはどう感じるのか。実験的なことをしながら臆病になる自分もいるんだけど、その邪念がクリエイティブのパワーにもなるんですよ。エンタテインメントといってもいろいろあるけど、実験的でありながらもポピュラリティに背を向けず、輝くものを作る。これがぼくにとってのエンタテインメント。その輝きが、ファン以外の人たちがぼくの音楽を聴くきっかけにもなるし、人を踊らせて楽しませることにもなると思うからね」
