舞台『ムサシ』で宮本武蔵を演じる藤原竜也にインタビュー。この舞台にかける想いから、役者・藤原竜也を客観的に語ってもらった。
Text●徳永京子 Photo●源賀津己 Hair&Make●赤塚修二(メーキャップルーム)
Styling●小林新
――戯曲が予定より遅れていると聞きましたが、本をもとにした稽古はまだ……。
していません。今は、登場人物のキャラクターが少しずつ具体的になってきたのと、大人数のカンパニーにはならないことがわかってきたぐらいですね。トータルで(登場人物が)おそらく10人ぐらいかな。
──今は殺陣の稽古ですか?
はい。全員で立ち回りの稽古をしてます。摺り足から木剣の振り方といった基礎稽古ですね。「ムサシ」は巌流島の対決のあとの話で、宮本武蔵はもう剣を置いているんです。それで能が出てくるかもしれないのでその稽古もしてます。そういう基本的な作業ですね。演出家いわく「天才の仕事を、小次郎の気分で待とう」と(笑)。
──お話をうかがっていると、あまり焦っている感じがしませんね。
僕ら俳優の中では、本が来たらすぐに稽古ができる気持ちと体調は整っていますからね。僕は舞台で古典を多くやってきたこともあって、稽古が始まる段階で戯曲が完成していないことは初めてなんですけど、これはこれでおもしろいなと思っているんですよ。「昨日は3ページ、今日は5ページ書き上がってきたから、それをもとに稽古しましょう」というやり方は新鮮で、いつもとは違う意味で魅力を感じています。
──いつもの稽古期間の藤原さんは、集中力を研ぎ澄ましてストイックに作品と向き合っていらっしゃいますよね。そんなふうに余裕を持ってこの時期を過ごしていらっしゃるのは意外です。
昨日も小栗(旬)に言われました、「こんなにリラックスしてる竜也は初めて観た」って(笑)。でも(白石)加代子さんや(吉田)鋼太郎さんというベテランの方を含めて、みんなで殺陣の基礎というゼロから準備を始めているなんて、むしろ贅沢な、すごいことだと思います。周りの人からはいろいろ言われますよ、「大変だね、大丈夫?」って。でも僕はそう思わせておいていいと思っているんです。周囲には何を言われても、このカンパニーでしっかりまとまって、いいものをしたものをつくっていけば。もちろん大変だとは思いますよ、せりふを覚える時間が短くなるわけですし、精神的なプレッシャーも出てくれば、寝る時間も少なくなる。でもそこを気にするんではなくて、こういう初めての状況に自分を置いて、一からの芝居づくりを体験することを楽しむ。でも実際、この状況はこの状況で本当におもしろいんですよ。
──その気持ちは自然にできあがっていったんですか?
そうですね。やっぱり演出の蜷川幸雄さんがどっしりと構えていることが大きいと思いますけど。当然なのかもしれませんが、何の動揺もブレも見せないで冷静に構えている。その姿を見ているから「ああ、大丈夫だな」と。……あのね、僕、「じゃあ、やれよ」って言葉がすごく好きなんです。いろんな考え方のいろんな俳優さんがいるじゃないですか。それはいいんですけど、飲み屋とか稽古場とかで(作品や仕事について)ずっと話してるとね、言うのはいいよっていつも思うんです。板の上でどこまでできるのか、やってみればいいじゃないかって。それは自分に対しても思うことで、今回この現場ではまさにそれが試されるという気がしています。それも自分としては楽しみなんですけど。
──以前の取材で「過去を振り返るのはやめた」とおっしゃっていました。デビューしてからこれまでについても特に感慨がないまま過ごされたのでしょうか?
感慨、ありませんでした(笑)。過去を振り返るつもりも、区切りのような意識もまったくなかったですね。ただ、デビュー以来、蜷川さんとやってこられて、なんとか演劇に携わり続けてきて、その結果、この『ムサシ』みたいな大きい作品に出会えたのはうれしいです。デビューしてからこれまでの仕事の内容が、こういう作品、そして井上ひさしさんのような方に出会わせてくれたのかな、だとしたら価値のあるものだったのかな、という思いはあります。
──過去ではなく未来についてお聞きします。今後やりたいことはなんですか?
また英語の勉強がしたいですね。何よりもたくさんの英語圏の人と話したいんです。
──将来、英語で芝居をしたい?
それは考えてません。単純に、英語っておもしろいと思うな。英語圏の人と話すのは、違う文化圏の考え方がわかるということだから、すごく刺激的ですよね。
──お芝居に関する未来は?
一緒にお仕事をしたい方はたくさんいます。舞台の演出家だったら長塚圭史さんとか、俳優さんだったら中村勘三郎さんや勘太郎君といつか共演してみたいです。
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