ボブ・ディランの名曲『Knockin' On Heven's Door』のカバーも収録した3rdアルバムをリリースするアンジェラ・アキ。完全セルフ・プロデュースとなった本作の中身について話を訊いた。
Text●藤井美保 Photo●源賀津己
――アルバム『ANSWER』はどんなスタンスで臨みましたか?
「2008年は『手紙〜拝啓十五の君へ〜』に始まり『手紙〜』に終わった年と感じていました。昨年のツアー後にふと時間が出来て、期限に押し迫られずに曲を書くことができたんです。つまり、よっぽど何かがなければピアノに向かわなかった。だから濃いんです。本当のデビュー・アルバムという感覚。プラス今回は、完全セルフ・プロデュースという強いビジョンを持って臨んでました」
――NHK全国学校音楽コンクールの課題曲となり、今もロングセラーを続けている『手紙〜』の存在は大きかったですか?
「あれは、初めて自分以外の人のために書き下ろした曲なんです。10代の頃、30代の自分に宛てて書いた私自身の手紙が下地になっているんですが、コンクールで中学生が歌うという目的があったので、主人公と自分とをある意味切り離して作った。今までは、自分の経験を“触らないで!”と言いながら出す(笑)、みたいな微妙な距離感の曲も多かったけど、『手紙〜』の制作で、客観的に切り離して曲にする術を得た。だから今回は、今まで恥ずかしくて出せなかった赤裸々な部分も、逆に吹っ切って形にすることができたんです」
――『ANSWER』というタイトルにしたのは?
「私がなぜ曲を作るのかといえば、それは何か答えを見つけるためだと思うんですね。といっても、今回全13曲で、結果、見つけられた答えはほんのわずか。それでも、作る前と後では自分が明らかに違う。結局、答えって、たとえ見つからなくても探していこうとする中に潜んでいるのかなと。だから“答え”とはつけているけど、じつは“プロセス”のアルバムなんです」
――映画『Heaven's Door』の主題歌となったボブ・ディランの『Knockin' On Heven's Door』のカバーは、すごく新鮮でした。
「シングルのカップリングで続けてきた日本語での洋楽カバーも、一つのアンサーだなと思って形にしました。かねがね、いつかはボブ・ディランをやりたいと思ってたんですが、迷ってなかなか1曲にしぼれなかった。今回偶然、この曲でとオファーをいただき、これも出会いだなと感じましたね。アコースティックになりがちなところをあえてアレンジに凝って、自分のモノにしようと。死をテーマにしながら、生という対極にあるもののパワーを描く『Heaven's Door』という映画からも、すごく影響を受けましたね」
――死生観を寓話的手法で描いた『レクイエム』もまた、このアルバムの一つのクライマックスですね。
「昨年祖父が亡くなったんですね。彼は死の間際、ワケあって疎遠だった息子と和解できたけど、本当は、やっぱり生きてるうちに、当たり前だと思っている人に、当たり前のことを伝えなきゃと思った。祖父に捧げる曲にしたかったんですが、パーソナルになりすぎるとメッセージが薄れるので、思いきって、逝ってしまう側が残される側に思いを伝えにいくアドベンチャーにしたんです。そのシーンにしたがってサウンドもおのずと変化し、結果的に壮大な構成になりました」
――圧巻の11分。
「これをポップソングと呼べるのかどうかはわからないけど、総勢40名でのレコーディングを終えて、ミュージシャンとして一つ大きなハードルを越えた感はありました」
――ベン・フォールズとの共作、共演『Black Glasses』は、以前『Still Fighting It』をカバーしたことがきっかけに?
「そうなんです。来日中の彼に会うチャンスがあって、それを聴かせたら、あれよあれよと一緒に曲を作ることになって、2日間で録ったんです。“二人に共通してるのは黒ぶちメガネだよね”と、そこから、人が持ってる表の顔と奥の顔みたいなテーマになっていきました。実際にレコーディングを一緒にやってても夢みたいで、私のピアノに合わせて彼がドラム叩く姿に、“なんでベン・フォールズがここにいるの?”って、5回くらい驚きましたよ(笑)」
――トータルのサウンド面でこだわったことは?
「いろんなサウンドのアプローチをしていても、最終的にピアノでメッセージされたアルバムという印象が強く残るものにしたかったんですね。今までは決まった1台のスタインウェイしか使ってなかったんですが、今回はベーゼンドルファーもヤマハも含めて曲ごとにピアノを選びました。そのタッチの差も感じてもらえたらうれしいです」
――4月からのツアーも楽しみです。
「アルバムはライブで完成するもの。私が“アンサー”を提示するのではなく、みんなで一緒にその日の“アンサー”を作っていく。そんなツアーにしていきたいと思ってます」
新潮社/新潮文庫 620円
山崎豊子
- 航空会社を舞台にしたベストセラー
- 『沈まぬ太陽』
- 「山崎豊子さんにハマってます。現実をフィクションにするのは、ソングライティングにも通じるなと。怒り、悲しみ、愛、救いはあるのか、ないのか……真実の世界に引き込まれます」
ワーナー・ホーム・ビデオ
3129円