デビュー前から唄ってきた大切な歌『朝が来る前に』をリリースした秦 基博。この曲へ込められた思い、そして初の武道館単独公演への意気込みを訊いた。
Text●青木優 Photo●三浦孝明 HairMake●松本順(tsuji) Stylist●MASAH(tsuji)
──ニュー・シングルの『朝が来る前に』は、秦くんが昔から大切にしてきた曲ですよね。
「ずっと自分の中では未完成のままだったんですよ。3年ぐらい前に作ったものなんですけど、スランプで、曲があんまり書けなかった時期があって……それから抜け出すきっかけになった曲なんですよね。これは当時の自分らしさというか、『音楽を通じて何を表現していけばいいんだろう?』ということの、ほんと、第一歩目だったような気がします」
──曲の雰囲気は最初のシングル(『シンクロ』)のカップリングの『やわらかな午後に遅い朝食を』とかに近いから、デビュー前の秦くんのトーンはこういう感じがメインだったのかなと思いました。
「そういう意味でも、自分のド真ん中ですよね。アコースティックの“いなたさ”みたいな曲の感じも、ほんとにそのままだし。だけど言葉はもっと何かあるんじゃないかなと、ずっと思ってて……。すごく大切な楽曲ではあったので、ふと気づくと『あの曲、どうアレンジしようか』とか考えてたし。で、デビューしてからいろんな人たちに出会えたことで、今なら『朝が来る前に』を完成させることができるんじゃないかなって思いがあったんですよ。あとはアルバム2枚出して、ある程度自分がイメージしていた音楽を形にできたんじゃないかなと思えたんです。そういう意味でも、原点であるこの楽曲をこのタイミングで聴いてもらうことがいいんじゃないかなって」
──曲のテーマは“別れ”と、その先の“旅立ち”であると感じましたが。
「そうですね。昔唄ってた頃から“別れ”がテーマの曲ではあったんですけど、今回、歌詞を直して……ただの別れではなくて、旅立ちっていうテーマも入れました」
──ああ、そこで旅立ちを持ち込んだのが、今の秦くんの視点ということなんですね。
「そうですね。それは、ただ男女の別れだけではなくて……たとえば卒業だったり。友人との別れもそうだし、家族とも別れる時があるかもしれないし。やっぱり“君”と“僕”それぞれに、歩んでく道があって、それがまた、ある地点では“今”につながっていくわけじゃないですか。その時に、別れがどういう意味を持ってて、どう必要だったのかということを書きたかったというか。それは自分もふだんの生活の中で、ひさびさに友達と会ったりして……『高校卒業した時、別れるのがすごい寂しかったなあ』とか思い出したんですよ」
──あ、そうそう。ひとりぼっちになったんですよね、当時
「そう、大学生活にもまったく馴染めなくて(笑)。でも、それがあって、今の自分はこうしてあって。乗り越えたから楽しい部分もあるし、でも当時にはもう戻れない部分もあったりして。やっぱり、こう……当時のようには、お互いいないし。それは当たり前のことなんですけど、でもちょっと寂しい気持ちになったりするんですよね」
──えーと、高校卒業だと、ちょうど10年前ですか。
「うん、そうですね。さすがにその頃と同じノリにはならないけど、でも変わらない部分もあって。『こいつはこいつなりに何かを頑張ってきて今があるんだな』と。自分はその全部は知らないけど、でもあの時に別れてそれぞれやってきたからこそ、こうして今までつながってた感じがあるんですよ。この曲ではその過去と今、そしてその先のつながりっていうものを、すごく意識しました」
──なるほどね。だから別れのせつなさもあるけど、ポジティヴな感覚がちゃんとあるよね。そこがポップ・ミュージックとして成立してるところだと思うんですよ。
「それは必要だと思いましたね。やっぱり、ただ悲しくて別れるっていうことではないんじゃないかなと。その先に何があるのか――それを表現すべきだなと思いましたね」
──しかもこの歌では、それをそっと伝えてるよね。
「それはすごく大事なことでしたね。そこで、どこかに希望が欲しいという思いもあったんです。とくにシングル曲でもあるし……。『これが秦 基博らしさのそのままです』みたいな曲なので、どう受け止めてもらえるのか、楽しみですね」
──わかりました。さて、3月には日本武道館公演が控えていますが、それに対する意気込みをひとつ。
「(笑)そうですね……年末にツアーをやってみて、やっとセットリストが揃ったなという気がしているんですよ。だから何か新しい、特別なことをというよりは、デビューしてからの2年半で得てきたものをどう出せるかが大切なんじゃないかなと思います。弾き語りだったりバンドだったり、アコースティックなセッションだったり、いろんな表現の仕方があるんで、それを全部見せられるライヴにしたいです。楽しみですね」
──頼もしいですね。そこでビビッたり緊張したりという感じはないんでしょうか?
「今んとこないですけどね(笑)。でも1週間前ぐらいから、たぶんビビリ始めると思いますよ。当日とか青ざめてんじゃないですかね(笑)」
──そういえば事務所の先輩のスガ シカオさんから武道館公演に向けてアドバイスがあったとか。
「人伝に聞いたので本当かどうかわからないんですけど、僕に『失敗しろ』って(笑)。『最初の武道館を失敗したアーティストは俺みたいに大物になれる』とおっしゃってるらしいんですよ。だからなんとか成功させたいんです!(笑)」
- 刺激を受ける音楽
- ロン・セクスミス『Exit Strategy Of The Soul』
- 「プロデューサーの島田さんの薦めで聴きました。こういうアルバムを作ってみたい。刺激を受けたアコースティック・サウンドです」
