@ぴあTOP > インタビュー > 宮沢和史(THE BOOM)
THE BOOMがデビュー20周年を迎える今年、再始動する。そんな彼らからまず届いた情報は東京、大阪でのワンマン・ライブ。今回の再始動をボーカルの宮沢和史はどう考えているのか? 話を訊いた。
Text●@ぴあ編集部 Photo●大崎聡
――今年でデビュー20周年を迎えられますが、昨年はどんな1年になりましたか?
「1989年にデビューして、1994年に初めてブラジルに行って、20年の内14年間ブラジルと関わってきました。これまでに音楽家としてブラジルから吸収してきたものがあまりにもたくさんありますし、昨年はちょうど日伯移民100周年でしたから、ぜひ自分なりに何かアクションを起こしたいと考えていました。ひとつは100周年のために『足跡のない道』という曲を作って、ブラジルで4都市5公演のコンサート・ツアーを行いました。そして9月には、ブラジルを代表するアーティスト、ジルベルト・ジルを招いて、と愛知と横浜で10,000人規模のフリーコンサートを行いました。僕とブラジルとの関わりを総括した1年でしたね」
――そこで今年はTHE BOOMが再始動ですね。
「20周年という節目の年ですし、活動再開を待ってくださっているファンの皆さんのためにも “何かしらアクションを起こさないと”とは思っていて、久しぶりにメンバーと会ったり、話し合ったりしています。これから先、どれくらい音楽活動を続けていくか分かりませんけど、僕の意欲が衰えない限りやり続けていくとするならば、僕の音楽人生の前半がブラジルかなと。だから、ブラジルのことを全て忘れてゼロからスタートっていう風にはならないでしょうけども、僕の心の中では一旦全部リフレッシュしたいと思っています。ですから、THE BOOMの20周年は、ちょっと昔を振り返ったりだとか、古い曲ばかりを皆さんに聴かせたりとか、そういう過去を引っ張り出すようなことにはしたくなくて、何か新しいことを始めるっていう意識でいたいですね」
――では、どんな活動になりそうですか?
「これまでの活動で楽曲は既にたくさんあるので、43歳の僕が、THE BOOMの初期の曲を今の気持ちで歌ってみたいですね。やっぱりこれまで歩んできた中で、いろいろ考え方も変わって、ものごとを深く考えるようになったり、いろんな出会いがあったりしましたから。デビューして数年間は、もっと吸収したい、もっと変わりたいっていう時期だったんですよね。そういう時って、過去の自分の作品を青臭いと思ったり、俺は今これをやりたい、だから過去なんて忘れてしまいたい、なんて思っていました。今は、もうそういう気持ちも越えて、切り離して考えられるというか、とても愛おしいですね。そういう宝物を、THE BOOMっていうバンドはたくさん持っている。それを今の4人の年齢で、懐かしむでもなく、無理して若ぶるでもなく、枯れるでもなく、カッコよく、きっちりロックっていう形で見せたいなって思っています」
――新しい旅の始まりというわけですね。
「他のメンバーの胸の内は分かりませんけど、僕自身は帰るところがないんですよ。例えば、オーティス・レディングに憧れて、黒人のソウルを歌うんだっていうような、音楽的に帰る場所、ルーツみたいなものが。むしろ活動しながら発見する新しい音楽に、のめり込んじゃうタイプなので。戻る家がないっていうのは、僕にとってはとても心地いいんです。だから、THE BOOMの音楽がどんどん変わっていくというのは、僕にとってはとても自然なこと。行きっぱなしの旅ですね」
――旅を再開して、これからはどこに向かうんでしょう?
「帰る場所はないんですけど、これからも行く場所というのは、いろんなところにたくさんあります。ブラジルで僕の音楽を待ってくれている人がいますし、今回も「紅白歌合戦」に出場するということで、現地の日系人の方々が喜んでくれたりとか。そういう体験は他の人よりも多い気がします。そういうことがたくさんあるっていうのは幸せだなって思いますよね。実際、僕の楽曲は旅をしながら生まれてくることが多いです。『島唄』は沖縄の戦跡を訪ねる旅の中で生まれた曲ですし、『風になりたい』は初めてリオデジャネイロに行った時の熱い想いを日本語で歌おうと思って作った曲なんです」
――他のメンバーの方は、THE BOOMをどう感じているんでしょうか?
「THE BOOMっていうものを愛していますよね。だから、ここまで活動を続けてくることができたんだと思います。他の例で、バンドよりも自分を愛するが故に続けられなくなったっていう話を耳にすることもあります。僕らの場合、全員が自分自身と同様に、もしくはそれ以上にTHE BOOMっていう共同体を愛してるということですよね。僕には帰る場所がないって言いましたけど、もしあるとするならば、それは自分が生まれた郷里と、THE BOOMっていう共同体。そして、それを待ってくれているお客さんの前に立つっていうことなんでしょうね」
――今年はどんな1年になりそうですか?
「THE BOOMの初期は本当に激しいライブをやっていたんですけど、あの頃と同じライブはもう出来ないと思うんですよ。でも、それ以上にするためには、経験だけでは足りないと思うんです。音を出す以前に、パッションとか、説得力とか、そういう意識を持ちたいですね。自分自身を一旦ニュートラルな状態にして、といっても闘争本能とかそういうものはビンビンに張り巡らして、その上でコアとなる自分の想いを早くみんなに向けて燃やしたいですね。やっぱり直球で感動してもらうようなものにしないといけないですよね。今、新曲を作っているんですけど、楽曲の内容もそうしたいし」
――新曲、ライブも楽しみですね。
「2010年の5月21日までは20周年なので、そういう長いタームで考えています。今年の5月21日でデビュー満20周年なんですけど、そこで大きな花火を打ち上げて終わりっていう風にするのではなくて、THE BOOMとしての活動を休んでいた3年間も待ってくれている人とか、もしかしたらその間にちょっと音楽から離れてしまった人もいるかもしれませんけど、そういう人たちにも、気合入れてTHE BOOMはまた活動してるんだよって知っていただいて。僕らの基本である、歌を直接届けていくということに力を入れると思うので、アルバムの発表とコンサートツアーというのは必然でしょうね」
――アニバーサリーというよりは、じっくり届けていく。
「そうですね。だからお祭ではないですね、今年は。しっかり地に足をつけて、またバンドがスタートするという。本当にそういう1年にしたいですね、しっかりと」