ニュー・アルバムに込められたのは、自身のテーマ“自分の声を信じる”こと。
様々な心の変遷を経て強まった、歌に対する思いとは?
Text●森朋之 Photo●源賀津己
――ニュー・アルバム『VOICE』、まずは美嘉さん自身の手ごたえから教えてもらえますか?
「はい、いいアルバムです(笑)。自分でこんなに聴いてるアルバムは初めてですね」
――いままではそれほど聴いてなかった?
「チェックをするとか、ライブ前の確認以外はほとんど聴かなかったんですよ。もちろん自分の曲は好きなんだけど、どこか恥ずかしいっていう気持ちもあるし、どうしてもアラ探しをしちゃうじゃない? それはいまも同じなんだけど……かなり好きみたいです、このアルバムは(笑)。アップテンポの曲が多くて、全体的にスピード感があるから、聴きやすいのかもね」
――バラード・シングルとしてリリースされた『SAKURA〜花霞〜』の“DAISHI DANCE”バージョンを収録してるっていうことは……。
「そう、とにかくアッパーな曲が目立つアルバムにしたかったんです。いままではアップ、ミディアム、バラードの比率を揃えてたんだけど、今回はそのバランスも変えていて。かなりテンションは高いですね」
――いまの美嘉さんのモード、気分が反映されてるんでしょうね、きっと。『VOICE』というタイトルについては?
「もともとは、私が何気なくやったことがきっかけなんですよ」
――“何気なくやったこと”って?
「コレです(と言いながら、右の手首の内側に“TRUST YOUR VOICE”の文字が刻まれたタトゥ)。“自分の声を信じる、自分の直感を信じる”っていう意味なんだけど、自分自身のテーマというか、実際に私はそうやって生きてきたので。そうしたら、これを見たプロデューサーがえらく感激しちゃったんです。で、タイトルも“TRUST YOUR VOICE”にしたいって言い出して。でも、いままでのアルバムのタイトルはぜんぶワンワード(『TRUE』『LOVE』『MUSIC』『YES』)だから、“じゃあ、『VOICE』がいいんじゃない? って」
――『TRUST YOUR VOICE』というタイトルの曲も収録されてますが、これはまさに中島さん自身の生き方と重なってるのでは?
「そうですね。スタッフからも“美嘉の生き方をそのまま書いてほしい”って言われてたし。自分のことをここまで赤裸々に書いたのは初めてですね」
――「自分の心の声を信じて」「あなたを責めたり/誰もできない」というメッセージ性の強いフレーズにもグッときました。自分の内なる声が聞けない、やりたいことがわからないという人も多いだろうし。
「うん、多いでしょうね。ただ、それがフツーだと思うんですよ。やりたいことがあっても、そこに向かっていけない状況もあるだろうし。だって、学校に行ってる人は自由に行動できないでしょ?」
――まあ、そうですよね。美嘉さんは学生の頃から、自分の意思を持って行動してたような気がしますが。
「そうかも(笑)。いろいろと自分のなかで決めてたこともあったしね、“学校の勉強は役に立たないから、絶対やらない”とか。あ、でも、国語と美術だけは真剣にやってましたけどね。そのふたつはすごく点数が良くて、あとは0点に近いっていう」
――極端だなあ。そういう考え方って、デビュー後も同じ?
「基本的には。当然やるべきことはやるし、自分のなかで決められないことは周りの人のアドバイスを聞きますけどね」
――柴田淳さん書下ろしによる『声』も、アルバムの中心的な存在だと思いました。ストリングスとピアノだけで構成されたバラードですが、凄まじい名曲ですね。
「いいですよね、本当に。柴田淳さんは以前から大好きで、自分から(楽曲の提供を)お願いしたんです。柴田さんが歌ってるデモもすばらしいんですよ。聴かせないですけど(笑)」
――やはり、美嘉さんをイメージして作られた曲なんですか?
「ううん、柴田さんが16歳くらいのときに書いた曲らしいです。好き過ぎて歌えなかった、って言ってたから……きっと、私のことを待っててくれたんだと思います」
――「歌い続ける 燃え尽きるまで」という歌詞もそうですが、歌に対する強い思いが伝わってきました。歌うことへのモチベーションもさらに上がってるんじゃないですか?
「そうかもしれない。いままではね、努力していることを人に知られるのがイヤだったんですよ。でも、いまは知られても平気になってきたというか。だって、“どうしてニューヨークに行ったんですか?”(彼女は2008年の春から、ニューヨークと日本を往復する生活を送っている)って聞かれたら、“ボイス・トレーニングのためです”って答えるしかないから」
――どうしていままでは、努力してることを知られたくなかったんでしょうね?
「“何でも簡単にやっちゃうよね”っていうふうに見られたかったんだと思う。『NANA』の映画のなかに“天才だと思われたかった”っていうセリフがあったんだけど、すごく共感しちゃったんですよね。もちろん、私は天才でも何でもないですけどね。だって、家では必死になって練習してたんだから」
――なるほど。ちょっと漠然とした質問ですが、美嘉さんにとって歌とは、どんな存在なんでしょうか?
「……困るなぁ…、その質問は。歌うのはずっと好きだったけど、職業にするとは思ってもなかったし、いまも人前で歌うのは苦手だし。自分の歌を聴いてもらえるのはとても嬉しいんだけど、どこかで“私が歌っていいのかな”っていう気持ちもあるんですよね。寿命を縮めながらがんばってます(笑)」
――2009年4月から、全国ツアーがスタートしますが。
「ずっと考えてるんですよ、そのことを。演出のことだったり、そのために準備しなくちゃいけないことだったり。1日に1回は必ず考える」
――それだけ思いが強いってことですよね。
「怖いのよ。怖いの、何千人っていう人の前で歌うのが。だから、いまからちょっとずつ心の準備をしてるんです。かなり長いスパンで(笑)」
――いままでのツアーもそうだったんですか?
「そうそう。口に出したことはなかったけど、ツアーが決まったらずっと考えてますね、いつも。でもね、決してイヤでもないし、嫌いでもないの。歌わなくちゃいけないんだ、って思ってるから…。デビューしてからずっと、“いつダメになるのかな”とか“次の瞬間にはバイトしてるかな”なんて思ってたんです。でも、もう8年くらい経ってますからね。そろそろ覚悟しようかなって。そんなふうに思えるようになったのは、ホントに最近ですけどね(笑)」
