5年半ぶりとなるニュー・アルバム『Nice Middle』をリリースした小泉今日子。
彼女にとって“歌うこと”とは、どういった意味を持つ表現の場なのだろう?
Text●早川加奈子 Photo●橋本塁
Styling●藤谷のり子 Hair&Make●柳沢宏明 衣装協力●NOVO! 03(3402)7282
今年も、『グーグーだって猫である』『トウキョウソナタ』と主演映画が立て続けに公開。演技力と存在感で高い評価を得ている小泉今日子は今や、日本を代表する「女優」だ。そんな彼女が、5年半ぶりとなるニュー・アルバム『Nice Middle』とともに音楽シーンに戻ってきた。果たして、その心境にどんな変化があったのか?
「前作『厚木I.C.』の時も4年ぶりでしたけどね(笑)。あれ以降も、友だちのライブにちょこっと出たり、自分名義以外のレコーディングに参加したり。歌うこと自体は楽しいんです。車で高速走る時も大音量で歌ってるし、この夏は松田聖子さんのアルバム『パイナップル』ばっかり歌ってたし(笑)。ただ仕事全般に言えるんですが、私の場合、自分のためだけなら何もしたくないんです。やっぱり誰かのために作りたいし、“誰か”を感じてないとやる気が起きない。映画なら監督とか観てくれる人とか。音楽なら、15〜16才で私がデビューした頃からずっと応援してくれた人たち……きっと彼らの青春には、私の歌とかいろいろなものが入り込んでると思うの。アイドルで良かったと思えるのは、そういう人たちの顔を見てきたことなんです。やっぱりそのことは忘れられないし、支えられて生きてるし。そこは普通の女優さんとは違うところかなって。だから、そういう人たちには一生責任を取ってあげたいっていう気持ちがある。その人たちはきっと、“たまには歌ってほしいな”って思ってくれてると思うんですよね。だから、前みたいには出来ないけど、たまにはその気持ちに応えていくっていうのが、私の責任だったり感謝の気持ちかなぁとは思いますね」
トップ・アイドルでありながらハウス/クラブ・ミュージックにも挑んだ20代、“女優”としての土台確立に邁進した30代を経て、40代。表現者として新たな段階を迎えた今、音楽は彼女にとって再び、「素直になれる場所」になった。
「歌うこと、演技をすること、文章を書くこと。表現方法は多い方が伝えやすいといつも思ってて。“私は今こんな風に生きてるけどどう思う?”とか“こうだよね?”って。それに対して“そうだよね”って言ってもらいたい、確認したいのかもしれない。私自身、演技の場合は監督の思いに100パーセント以上で応えたいから。役柄にも共感してはもらえるけど、それは直接的な私のメッセージではないですよね。やっぱり音楽や歌は、直接的な表現だと思うの。舞台やお芝居は観客と私との間に距離があって、分かち合うってことや確認し合うことが出来ない。だけど、“歌”はそれが出来る、かもね」
この言葉を再確認する一枚が、「42才のひとりの女の人としてストンと立ってるような歌」が詰まった『Nice Middle』だ。参加陣は、かつて“エッジィな小泉今日子”を共に作り上げた藤原ヒロシ、ASA-CHANG、TOKYO No.1 SOUL SETら同世代の鬼才勢。だがどの曲もほどよく力が抜け、「42才の女性が過ごしてそうな時間」が、時に切なく、時にポップに歌われていく。
「昔も今も、ウソもないし背伸びもしない。今回も“小泉今日子、42才、独身です”みたいな(笑)。『Nice Middle』ってつけたのは、同世代の人たちに元気になってもらいたかったから。私たちの世代って、社会や家庭の中でいちばん疲れてると思うんです。私は残念ながらサラリーマン経験もなく家庭も持っていず……持とうと思ったことはあるんですけど(笑)。人より少し自由に生きていけてると思うの。だから応援してあげたいなって。私たちの世代が元気じゃないと、後ろを歩く若い人がもっと不安になると思うんです。歳取ることは怖くないんだなって、私たちもいろんな人に見せてもらったから歩んで来れたしね」
シンガー歴26年。けれど、それさえ忘れるほど目の前の彼女は身軽でみずみずしく、何よりもキュートだ。いろいろあるけど、まだまだ人生は魅力的。小泉今日子がそう歌う限り、大人世代はきっと大丈夫だ。
