@ぴあTOP > インタビュー > エレファントカシマシ 宮本浩次
Text●島田諭 Photo●佐藤博信
宮本浩次。大変に礼儀正しい、気遣いを忘れない人であるからして、インタビュー時における彼はつねに協力的である。音楽同様に全力投球ということなのだろう。ただ、今回の宮本には少し異なる印象があった。表情はいつも以上ににこやかであったし、この人にはシャイな面もあって、だから誉め言葉を投げると照れ笑いを浮かべることはよくあるのだけれど、まず初めに「いい新曲ができあがりましたね」というと、はっきり、声を大にして「はい!」と応えた。要するに、取材当日の宮本の態度、反応とは、いまの自分とエレファントカシマシに対する絶対的な自信の表れだったのである。そのことは11月16日(水)に発売されるニュー・シングル『ワインディングロード/東京からまんまで宇宙』と、デビュー時から現在までのあいだにバンドが出演したフェスやイベントの膨大な映像をまとめたライブDVD『ROCK ‘N ROLL BAND FES & EVENT LIVE HISTORY 1988-2011』について語ってくれたこのインタビューからも感じることができるはずである。
――今回は新曲と一緒にDVDも発売されるんですけれども。
「あ、その話からいきます?」
――はい。そのDVDを観ると、こちらはエレカシの長い歴史をいろいろと思い出してしまうんですけど、ご本人はどうなんでしょうか?
「中1の始業式の日に石くん(ギターの石森敏行)とぼくは知り合って一緒に帰って、というところからエレファントカシマシはスタートしていて、いまでも中学のときの仲間でバンドをやっているんです。ずっと現役で、20数年その4人でやってきたので、長い時間音楽をやっているってことをすごく客観的に見ることができましたね。忘れてるところもあるんですけど(笑)、感慨深かったです」
――いま「客観的」といいましたけど、じゃあ、宮本さん個人が、エレカシは調子がいいぞ、絶好調だぞ、と客観的に思えるのは、たとえばどういうときですか?
「20数年間、プロの世界でシングル、アルバムを出して、コンサートをしているという観点からいえばすごく幸せな人生なんですが、このDVDにある('03年の)『SUMMER SONIC』……大阪でやったときは、自分としてはまったくお客さんにウケていなかった記憶があって。でも、いま観るとすごく輝いた演奏をしているんですよ。個人の感じ方としては絶頂のときもあったしそうじゃないときもあった。ただ、どの瞬間を切り取っても輝いていたと思うんですね。だから、いまは充実しているという自覚を持って……それがいいことなのかどうかはわからないんだけれども、このシングル(『ワインディングロード/東京からまんまで宇宙』)ができた自分たちはなんてすばらしいんだろうと思いました、はい」
――今回はシングルを出すという前提で制作、レコーディングをしたんですか?
「そうですね。ぼくら現役のロック・バンドですから、曲を作って、コンサートをやって、フェスに出て、っていうのは日常的なことなんですよ。今年の11月にシングルを出そうぜ、っていうのが全体の目標としてあったんです」
――宮本さんは日常的に曲作りをするタイプなんですか?
「曲を作るのは好きです。いい曲になると信じてそれを形にして、シングルやアルバムで出して、コンサートで歌う。ぼくらがやっていることは日常の延長で、特別なことじゃないんですよ。ただ、歌詞はいつまで経っても放ったらかしにしているものもあって(笑)、締め切りがないと書かないものもたくさんあるんだけれども、時間さえあれば結構作りますね。『ワインディングロード』も今年の武道館(1月9日)の直後に、うわーっと作った4曲のうちの1曲で、アレンジが6月下旬……7月上旬か。7月の上旬にバシッと決まって、それから歌詞を仕上げまして。だから、半年以上かけて形になった曲なんですよ」
――『ワインディングロード』には三菱自動車のタイアップが付いていますけど、それありきで作った曲なんですか?
「あとからです」
――できた曲にタイアップが付くって、いい話ですね
「あ、もちろんもちろん。車のタイアップですし、ぴったりですよね(笑)。道を歩いて行く人間のダイジェストといいますか紆余曲折といいますか……じつは毎日の道って平坦なような気もするんですけれど、心の中の旅ということで考えると、自分の光を確認する旅という感じがして、だから『ワインディングロード』というタイトルにしたんです」
――あまりにぴったりな歌詞だったので、すっかりタイアップありきで作られたものだと思ってましたよ。
「レコード会社の方が一所懸命がんばってくれたからだと思います(笑)」
――やっぱり、いい話じゃないですか。
「そうですね!(笑)」
――今年は震災があったわけですけど、そのことと新曲との関係性はどのようなものがありますか?
「コンサート・ツアーが震災の1ヵ月くらいあとから始まったんですけど、そこで、自分たちの歌ってきた楽曲がすごく興奮を持って迎えられたんですよ。『悲しみの果て』であるとか『今宵の月のように』であるとか。『俺たちの明日』の“さあ がんばろうぜ!”って歌詞が、よりいっそうみんなに心に届いているんじないかっていうことをコンサートですごく感じまして、それがいちばん直接的に影響を与えた、すごい出来事でした。要するに、自分の楽曲に自信を持てたってことなんですけど(笑)」
――それもまた、いい話じゃないですか。
「はい。自分たちの歌の力とお客さんが望んでいる気持ちが一致した時間をたくさん感じることができたんですよ。悲しさ、はかなさの一方で、日常の美しさ、すばらしさをより再認識できたんですね。そういうことを否応なしに感じざるを得ない出来事だったと思うんです、震災は」
――そういう体験をすると、アーティストとしては当然、もっと伝えたいという欲が出てくると思うんですけど。
「意識的に強調したいわけではないですけど、結果的に自信を得ているから、みんなで共有できるんじゃないかと思います」
――今回はシングルというパッケージでのリリースですけど、シングルということで意識したことはありますか?
「自分たちを信頼している人たちは少なからずいて、その人たちはたぶん、『俺たちの明日』も『ガストロンジャー』も、もっと古い『ファイティングマン』も知っていると思うんです。それから、『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』ってアルバムが出ていることも知っていて、なにがいいたいかっていいますと、あのアルバムには光もあれば闇もある、明るいばっかりじゃなくて内面の悩み、どうしようもなく拭い去れないことも歌われていて、そのあとに出る初めてのシングルっていうことを意識しました。信頼してくれている人たちに対し、アルバムの延長にこの2曲があるんだってことをまっすぐ受け止めてほしいということです。それから、シングルですから、初めて聴いた人やエレファントカシマシっていうどういうバンドなんだろうっていうことも意識しましたね」
――レコードでいえば両A面、2曲を並列にしたということは、どちらにも、つまりは自分たちのいまの自信があるからこそのことですよね?
「そうなんですよ。どっちも雰囲気がいいんです。それがとてもうれしかったですね」
――『ワインディンロード』のサビの最後の“行こう ゴー”って歌詞は、“行こう”で終わっても言葉数的に問題はなかったと思うんですけど。
「機嫌のいい感じ、“行くぜ!”っていう感じを出したかったんです」
――その二重表現が宮本さんとバンドのいまのポジティブさをさらに強調していて、そういうところからもバンドの健康状態を感じるんですよ。
「そうかもしれないですね。日常の中で、素朴に作ったのに明るく歌声が響く楽曲って、ありそうでなかったんですよ、自分の中では。それがうれしかったですね」
'72年に創刊した情報誌『ぴあ』の休刊イベントとして行われた「ぴあ 39tth FAREWELL “39-THANK YOU” 〜車輪小僧の大回転〜」においても、宮本浩次の勘は冴えまくっていた。それは、彼が持つ抜群の反射神経から生まれている。
宮本を軸に述べてみる。目の前には2万人ものオーディエンスがいて、ステージにはバンドがいて、そして宮本がいる。この「3つ」にはそれぞれの温度があって、当然、変化も伴う。その差をつねに、瞬時に感じ取るアーティストが宮本で、それは動物的であり天才的なものであるわけだけれども、ライブ中における、たとえばドラマーのほうを向いてドラムを叩く彼の仕草の意味とは、自分の歌よりも演奏の温度が低いと感じた宮本による鼓舞である。そしてもちろん、オーディエンスがエレファントカシマシ以上に熱くなることだってある。
この日の4曲目、『俺たちの明日』のサビの部分でフロアが明るくなる照明の演出があった。ほとんどのオーディエンスが曲にあわせて拳を挙げていた。それを見た宮本は即座にスタンドに設置されたマイクを外し、中央の定位置から右へ、そして左へ動きながら歌うパフォーマンスを見せた。オーディエンスの熱に応えたのである。さらに自分とバンドの温度を上げようとしたのである。宮本のからだの動き、視線、歌い方は決してノリ任せなどでなく、機能としてはコンダクターのそれであるとしかいいようがない。じゃあ、なぜにステージ上の宮本は冷静かつ理性的なのかといえば、どうしても「伝えたいこと」がバンド側にあって、だから、全力投球以外の選択肢がエレファントカシマシのライブには存在しない。イベントであるからして他の出演者もいる、すなわちエレファントカシマシを観たことがない、よく知らないというオーディエンスもおそらく、エレファントカシマシが持つ熱量のすさまじさを感じ取ることができたのではないだろうか。
いや、感じ取りやすい楽曲のメニューをバンド側が用意した、といういい方のほうが正しいかもしれない。まだオーディエンスが知らない発売前の新曲『ワインディングロード』と『東京からまんまで宇宙』も含め、すべての楽曲はキャッチーなメロディと明快な歌詞を持つもので、そこで歌われているのは希望であり光である。未曾有の大震災を体験したいまだからこそ、したたかに胸を打つ楽曲ばかりだった。けれども、エレファントカシマシは10年前も、もっと昔のデビュー当時もそれを歌っていた。いつだって世の中は混沌としているし、そこには絶望的と感じることがたくさんあって、だからこそ人には希望が必要であり、闇だからこそ人は光を求めるのである。そんな日常から喜びや幸せが生まれることを宮本は知っている。それを歌にしている。その歌には強く生きていこうとする意思が込められている。宮本は、エレファントカシマシはそれを伝えようとしている。なんともシリアスかつスケールの大きいテーマ性を帯びたものではあるけれど、それをイベントというわずかな持ち時間のあいだにエレファントカシマシはくっきりと浮かび上がらせた。ただし、浮かび上がったものをどう受け止めるか、どう処理するかは、オーディエンスひとりひとりの個人の作業。それが、ロック。エレファントカシマシの音楽。そして、宮本浩次という人間の生きざま。ドキュメントとしかいいようがない、徹底的にライブなパフォーマンスだった。
「ぴあ 39tth FAREWELL “39-THANK YOU” 〜車輪小僧の大回転〜」セットリスト
2011年11月3日
幕張メッセ 国際展示場 9〜11ホール
01. 悲しみの果て
02. 俺の道
03. 風に吹かれて
04. 俺たちの明日
05. ワインディングロード
06. 東京からまんまで宇宙
07. 新しい季節へキミと
08. ガストロンジャー
09. 今宵の月のように
