- 『CHIAKI』
- 発売中
- BVCL-90/3059円
- アリオラジャパン
パーカッション・三線のカンナリとのユニット“しゃかり”のボーカルとして活躍しているチアキが、角松敏生をプロデューサーに迎え、初のソロアルバムをリリースした。ポップス、R&B、ダンスミュージックなど様々なジャンルに挑戦した新作について話を聞いた。
Text●道明利友
――チアキさんご自身名義の初めての作品が完成して、いまはどんなお気持ちですか?
「“しゃかり”が目標としているのは“温故知新”で、古い琉球音楽と等身大のポップスを融合させて、右にない左にない音楽を目指しているんです。このサウンドを聴いたら『しゃかりだね』っていうようなものを目指してて。それが何なのかはこれからまだまだ見つけていくし、一生かけて模索していくものだと思っているんですけれど。それと同時に、今回はチアキとしての作品で色んなことを試せたのは、とってもやりがいがあってよかったですね。例えばハウスっぽいもの、R&Bっぽいもの……。本当に手探りで、冒険しながら挑戦しながらアルバムができあがって。で、この曲たちが少しずつ私の血になり、骨になり、皮になり……。それが、きっとライブで歌って本物の達成感として感じられるのかなっていうのが、今の正直な気持ちです」
――琉球音楽がベースにあるミュージシャンの方っていうイメージを持ってこのアルバムを聴くと、ちょっと驚く人はいるかもしれないですね。琉球の雰囲気はもちろんあったうえで、角松敏生さんならではの洗練されたポップス感がフィーチャーされていて。
「そうですね。どうせやるなら驚かせたいねっていう楽しいお話をしていたので……。私の友達も、最初の1曲目から3曲目まで聴いて『驚いた!』とか言ってたから、『作戦成功だね!』なんて笑ってたんですけど(笑)」
――お友達も驚いた曲の中から(笑)、例えば『輪舞〜RONDO〜』みたいなダンスミュージック的な曲にはどう臨みましたか?
「これはですね、まずリズム感をとることから始まって(笑)。もう10年以上、こういう激しいのからは離れてましたので。その前にやってたバンドはラテンバンドでしたし、この曲みたいなハウス系とか、例えばロックみたいなものはアマチュアバンドでやってた時代はあったんですけど、もうずいぶん離れてましたから。でも、角松さんはボーカリストでもあるので、やっぱり伝えかたがすごくお上手で。実際に歌って、リズム、エッジの部分、アタックの部分、スタッカートで切る部分とかっていうのはすべて口頭と、ご自分の声の技術で教えてくださったのはすごくわかりやすかったです。あと、感情移入の部分では……。この曲は、“激しい女”にならんといけないと思って(笑)」
――(笑)たしかに、情熱的な曲ですよね。
「そう。何回も“天城越え”してました、歌いながら(笑)」
――というオリジナル楽曲に対して、『キレイ キレイ』は“しゃかり”のセルフカバーになるんですね。この曲は、原曲から今回どんなふうに変化していったんですか?
「原曲はですね、どっちかっていうと本当に音数が少なくて。三線とパーカッションと、キーボードも入ってたかな? 本当に、すごくシンプルな楽曲なんですね。ですが、これもお友達に聴かせた感想なんですけど……。角松さんがアレンジをしてくださったものを聴いてもらったときに、『なんか、洗濯機に入れてくるくる回って洗って……。はい、きれいになりました!』っていう感じに聴こえたんですって(笑)。琉球の泥くささ? もちろん良い意味でなんですけど、琉球の田舎くささみたいなものを洗い流して、都会的な洗練された、キラキラした音楽になりましたねって。でも、角松さんは逆に『俗っぽくしたかった』っておっしゃってたんです。そういう意味では、まさに融合って感じですよね。琉球と、都会の。角松さん的には、とてもきれいなものをもう少し俗っぽくしたかったみたいで……。例えば、スイカの甘みをもっと出すためにお塩をかけるような(笑)、そういうイメージだったと思うんですけど」
――(笑)スパイスを入れて味をさらに引き出すみたいな。今回、歌詞はチアキさんが3曲手がけていますが、『ナンクルナイビーサ』は沖縄の方言で全編書かれていますね。“なんくるないさ”っていう言葉は、僕も聞いたことがあるんですけど。
「“なんくるないさ”は、“なんとかなるよ”っていう意味ですね。で、“なんくるないびーさ”は、それの丁寧語なんです。で、この“なんくるないさ”と“なんくるないびーさ”っていう言葉の枕詞には、歌詞の中にも出てくるんですけど、“マクトゥソーケ”っていうのがついていて。“誠を貫くからこそ、なんとかなる”。ことわざで言ったら、“人事を尽くして天命を待つ”と同じ意味なんです」
――へえぇーっ! 不勉強ながら知らなかったです、その意味は。
「私も歌詞を書くから、やっぱり言葉をちゃんと学ばなきゃいけないと思って、習いに行ったんです。沖縄の言葉大事典と言われている先生に、お話を聞きに行って。そうしたら、沖縄は昔から、他の県と比べるとそんなに土地が肥えてるわけでもないし、大きな山があるわけでもない。万年水不足で、川があるわけでもない。だけど、みんなで支え合って生きていくなかで、土地を耕して『実った!』って喜んでも、一発の台風でやられてしまうっていう歴史があったりして。でも、『だいじょぶだいじょぶ!』って肩をたたき合いながら、『まくとぅそーけ、なんくるないさ』、必ずなんとかなるから生きていけるよみんなで助け合えば、みたいなことが語原なんですよ。そういう教訓で生まれている言葉が沖縄にはたくさんあって、“なんくるないさ”っていうのもそのひとつなんですね」
――そうなんですか……。“なんくるないさ”ってやわらかい感じの言葉だと思っていたんですけど、強さもある言葉というか。そういう背景とか言葉の奥にあるものを知ったら、沖縄のこともより深く知ってもらえそう。
「そうですね。なんにもないところにはなんにもないですよ、もちろん。でも、頑張っているからこそ誰かが見ている、すべてはつながるっていうか。いまは結果が出なくてもだいじょぶだいじょぶ、まくとぅそーけ。誠を貫いときなさい、なんとかなりますから。その発祥は何かっていうと、自分を戒める言葉でもあって。今回はこういった形で全国にも私の音楽をお届けする機会をいただきましたし、私たち世代から次の世代につなげられるように……。自分は、沖縄っていうのを勝手に背負ってると思っているので(笑)、沖縄のちゃんとしたものが伝わっていけたらいいなぁと思って、この曲も書きました」
――その曲たちを披露するライブへの意気込みも、最後にぜひお願いします!
「私は結局何を伝えたいのかっていったら、“音楽っていいよ!”みたいなことだと思うんです。ライブのメンバーも、このアルバムにも力を貸してくださった方がたになるんですけど……。角松敏生さんを初めとして、本当に凄い、素晴らしいミュージシャンの方がたとこのアルバムを作ったことで、私、さらに音楽が好きになったんですね。いま、何もかもが機械で収められそうな楽曲が多い時代で、この日本のトップ・ミュージシャンが生で奏でる、なんかこう……。“魂のこもったメロディー”っていうんでしょうかね(笑)。そういうサウンドの質の高さも楽しんでいただきたいですし、私が結局伝えたいことって、今回自分が感じた“音楽っていいな!”、“歌っていいな!”っていう思いなんですよね。それを発することで、“音楽っていいでしょ? 楽しいよね!”っていうのが伝わるような……。ちょっとクサいですけど(笑)、心と心が音楽を通して、会ったことない人たち同士でも会話ができたらいいなって。気持ちのいい時間が作れたらいいな、と思ってます」