曽我部恵一BAND、サニーデイ・サービス、ソロ名義。さまざまな活動を使いわけ、エネルギッシュに活動をしている曽我部恵一。6月に曽我部恵一BAND(ソカバン)の新作&全国ツアーを控えた彼に話を訊いた。
Text●森朋之 Photo●かくたみほ
――何度もグッとくる瞬間に出会える、素晴らしいアルバムだと思います。
「あ、ホントですか」
――今年のはじめに、それまで進めていたレコーディングをいったんゼロに戻したということですが。
「そんな大げさなことではないんだけどね。“ハイファイな音で作り込んでみようかな”というところから、“やっぱり、ライブの感じで録ろうよ”ってところに戻ったんです。ライブがいちばん自分たちらしいし、カッコつけたところで結局はバレますからね(笑)」
――もっといろんなことがやれたほうがいいんじゃないか、って思ったこともある?
「うん、もっとビシッと演奏できたほうがいいんじゃないかとか。世間的に、もうちょっと普通のものに近づけたほうが売れるんじゃないかなっていう話をしたこともあったしね。でも、売れるとか売れないとか関係なく、とにかくこのままで勝負できないと先はないんじゃないかって思ったんですよ。だって、これが全部ですからね、このバンドは。これ以上のことは出来ません、っていう前向きな諦めというか」
――あえて成長を拒絶する、というか。
「拒絶するってわけでもないんだけど、このバンドの在り方はしっかり絞っていきたいなとは思ってますね。音楽をやるっていうことは前向きで楽しくてパワフルなことだし、そのエネルギーこそいちばん重要っていう。ただ作品のクオリティを上げるってことだったり、音楽性を高めるってことに重きを置いてないんだよね、いまは」
――昔は違った?
「サニーデイのときは“がんばって、いい音楽をやろう”って思ってたかな。でも、それは“がんばったで賞”であって、そこで名作が出来るかっていえば――もちろん愛着はあるんだけど――必ずしもそうじゃないんだよね。予測できないような素晴らしさ、マジックみたいなものは、才能とかテクニックとは関係ないところにあるんだと思う。たとえばさ、俺、真ん中の子が幼稚園にはじめてお弁当持っていくとき、自分で作ってあげたんだよね。そのお弁当っていうのは、すごい腕を持ったシェフの12万円のコースにも軽々と勝っちゃう思うんだよ。それは“(親子の)関係性において”ということもあるだろうし」
――そこに込められた愛情や楽しさでもある。確かにソカバンの魅力も、そういう部分にあるのかも。
「このバンドだから、っていうのはあるけどね」
――無理にアベレージを上げなくてもいいだろうし。特に音楽は、そうですよね。
「音楽に限らず、人間っていうのはバラバラでいいんじゃない? って思ってるんですよ。音楽業界も、フラットに才能のある人が集まってる感じでしょ。才能なんかなくても、すごく情熱があるとか、“その人がいい”っていうことのほうが大事だと思うけどね」
――なるほど。『ハピネス!』というタイトル曲については?
「まあ、幸せになりたいっていう誰もが持ってる気持ちを歌っただけなんですけどね。“ディズニーランドに行って楽しかった”っていう歌(『東京ディズニーランド』)とか、いろんな幸せがあると思うんだけど。アルバム全曲が揃ったときに、そういう歌ばっかりだなとも思ったし。まあ、難しいけどね」
――どういう状態を幸せと呼ぶか、ということもあるし。
「自分だったり、自分の置かれている状況に満足することも大事だしね、外に何かを求めるのではなくて。でも、それはけっこう大きな問題だよね」
――というと?
「たぶん、太古は誰も不満を持ってなかったと思うんですよ。お日様が昇ったら起きて、みんなで狩りとかに出かけて、それを食べて。で、暗くなったら寝てっていう、それだけの生活だから。でも、いまは誰もが満足してなくて、みんな何かが欠けてるって感じてる。それは現代社会の問題だし、自分の心の問題でもあって。ずっとそういう感じですね」
――最後の『永い夜』では「戦争はたぶんなくらないんだろう」「自由はたぶん手に入らないだろう」「僕は歌う」というフレーズがあって。これも曽我部さんがふだんから感じてることですか?
「戦争がなくなるかどうかっていうのが、そんなに重要な問題かなって。人と人の争いはたぶんなくならないだろうし、もっと言えば、善も悪もないって思ってるから。平和主義=戦争反対ではないと思うし、そうやって簡単に言い切っちゃうことのほうがすごく危険な気がする。あと、戦争反対とかって言っちゃうと、それは歌ではなくて声明になっちゃうからね。歌っていうのは地上のものではなくて、もっと高いところにあって、ゆるやかに流れていくものだと思うし」
――では、音楽によって何かが変わる、とも思ってないですか?
「何も考えてないですね、変わるとか変わらないとか。世界もシステムも、自分たちが思ってるように変わっていくだろうしね。もちろん、歌によって何かが変わっていくこともあると思うけど。ただ、世界がもっと良くなってほしい、とかは思ってないかな。今日が楽しかったらいいかな、くらいで」