音楽も気持ちもルックスも、いつまで経ってもフレッシュ! カジヒデキは、ほんといい意味で変わらない男だ。新作EP『BLUE BOYS DON'T CRY e.p.』は、ギターポップ/ネオアコ道をブラッシュアップしながらひたすら前進する彼の持ち味が全開となったナンバーが揃った1枚。今回は、新作の話題と、スウェーデンでのあの事件の真相についても話を訊いた。
Text●土屋恵介 Photo●かくたみほ
――新作EP『BLUE BOYS DON'T CRY e.p.』の1曲目、『Passion Fruits』は爽快に突き抜けたみずみずしい曲ですね。
「元々は、ストーン・ローゼスの『エレファント・ストーン』みたいな、インディーダンスっぽい曲を作ろうと思ったんだ。去年の7月から『BLUE BOYS CLUB』っていう自分がオーガナイズするパーティを始めたんだけど。そこから、DJをやる機会がまた増えたんです。新しい曲の中に古い曲を混ぜてかけるの好きで、『エレファント・ストーン』はすごく盛り上がるんだよね(笑)。こういう、いろんな世代が盛り上がれる、分かりやすく踊れる曲を作りたいなって。あと、パッション・ピットやブラック・キッズってバンドも面白いと思ってて。最終的に、ドラムのアレンジでインディーダンスっぽくはならなかったけど、最初の気分的にはそうだったんです」
――ギターバンドの踊れる感じだよね。しかもアコースティックギターのキラキラ感がよく出てるなって。
「まさに90年代のトラッシュ・キャン・シナトラズ、ライラック・タイムとか、その辺の音って今あまり無いでしょ。ああいうクオリティの高いネオアコースティックなサウンドにしたくて」
――子供のコーラスも印象的に効いてますね。
「メロディを作ったときに、イエイエッてコーラスは入れようと思ってて。元々、前のアルバム『LOLLIPOP』と次のアルバムを繋げるEPを作りたかったから、それと関連づけたくて『LOLLIPOP』のジャケに写ってる女の子たち、ニルスってカメラマンの3姉妹と、あとエッグストーンのモーリッツの3姉妹に歌ってもらったんです」
――歌詞の面では、すごくポジティブさのあるがんばろう的なものですね。
「5月に出すし、スタートなシーズンだし、新しい気分が出せたらなっていうのがまずひとつあって。あと“Kids are alright”って言葉がキ−ワードだった。実際の子供たちもそうだし、『デトロイト・メタル・シティ』(以下、DMC)から僕に興味を持ってくれた10代に向けた歌詞にもしたくて。もちろん、ずっと応援してくれているファンの方々には当然ですね(笑)。やっぱり、イギリスに多く居た頃に改めて思ったのは、いろんな世代の人が、ナチュラルに音楽を好きで楽しみ続けてるなってこと。パブでもそうだし、サッカー場でもみんなが応援歌を自然に歌い出すのね。それは、音楽が根付いてるからこそだなって。でも日本って、ある程度の歳になると音楽聴くことやめるってとこがあるでしょ。でも僕は、ある歳になったからってやめるっていうのは嫌だなと思ってて。日本でも、少なくとも僕の音楽を好んでくれている人にはそうであってほしいって意味もこもっていますね」
――単なる応援ソングではないと。あと『Passion Fruits』というのは、なにがきっかけで出てきたの?
「何事でも情熱が一番大事だとすごく思ってて。仕事でも趣味でも、情熱が欠けると全部面白くないじゃない。ただ、パッションだとひねりも無いし……そこで『Passion Fruits』にしたんです(笑)」
――納得です(笑)。あと、細かい部分では、マイ・ブラディ・ヴァレンタイン的なノイジーなギターがうっすらと入ってますね。
「お、聴いてますね〜(笑)。ライブでベースを弾いてる(橋本)竜樹くんがアレンジを一緒にやってくれたんだけど、彼はほんといいアレンジャー。自分だったら、隠し味じゃなくジョワ〜ンと入れちゃうけど(笑)、彼はその辺のバランスがとてもいいんです。あと、音楽作りって、そういうとこまでこだわっていきたくて。今って、もっと簡単に表の音だけでインパクトのあるものは作れると思うけど、そういう隠し味をなくしたら、音楽作ってる意味もないなと思うしね」
――こだわりって大事だよね。では『The Sweetest Love』ですが、BEAT CRUSADERSのヒダカトオルくんが参加した疾走感のある曲です。
「ヒダカくんは、『BOYZ OF SUMMER』(ビークル主催のイベント)に呼んでくれたり僕のことをリスペクトしてくれているようで(笑)。僕の方も、ヒダカくんの楽曲やいろんな活動の姿勢をリスペクトしてるから、一緒にやりたかったんですよ。まず曲を用意して、歌詞は、ヒダカくんとやるのが決まってから書いたんです」
――それで、千葉県出身という共通点を歌った、レペゼン千葉ソングになったと(笑)。
「そう(笑)。英詞で、千葉のこと歌うのがいいなって。オレたちの街に帰ろうって(笑)。自分的には、10代の頃は地元はつまらないと思ってたけど、年齢を重ねると、例えば海外から戻って実家の富津岬の海を見るときが1番リラックス出来ますね。子供の頃から見てきた風景はすごいなって(笑)。そういうのもあって、地元の歌を作ってみようと思ったんです。きっとこういう地元を思う気持ちって、いろんな人に共感してもらえると思って、だから歌詞には千葉をあまり出さなかったんだけどね(笑)」
――“thousand leaves”くらいだね。
「初期のプライマル・スクリームみたいでしょ(笑)」
――ちょっと強引だな〜(笑)。あと、ヘアカット100の『Favourite Shirts』のカバーが収録されてますが。
「ここ2、3年、イギリスで10代の子たちが、初期のオレンジ・ジュース、アズテック・カメラとか、自分が20年くらい前にすごく夢中になってた音楽を聴いて、バンドをやり始める動きがあって、それが新鮮だったのね。あと、ヴァンパイア・ウィークエンドが出てきて、ファンカラティーナなムードもあって、ヘアカット100とかをまた良く聴き直していたので、今回カバーしてみようって」
――アレンジはアシッドジャズ風だなと(笑)。
「去年のツアーからカバーしてて、ライブでは原曲に忠実にやってたんだけど、音源にするならオルガン入ると面白いかなと思って、堀江(博久)くんに弾いてもらったんです。こういう解釈もあってもいいなって」
――ファンキーになって新鮮ですよ。そして『DMC』での『Sally My Love』も入ってます。また細かい話だけど、チープなリズムボックス使うのって、ネオアコの原点だったりするよね。
「『DMC』での作業はそこをこだわったんです。裏で見せたいというか。表面的には普通にポップソングにも聴こえるんだけど、ネオアコ魂が入ってる感じ(笑)。やっぱり作る側としては、そこをきちんとこだわりたいですね」
――なるほど。あと、スウェーデンでの事件の話も聞きたいんですが。話題になったパイナップルの衣装は、そのときは実は着てなかったとか。
「そうなんです。ちょうど子供だけの撮影のとき、パイナップルの衣装を脱いで待機してたのね。そしたら、地元のヤンキーみたいな子達がフレンドリーに話しかけてきて。最初は2人で、次に3人になって。また戻って来て、じゃあねっていったとこから記憶がないの。たぶん、後ろ向きで座ってたときに殴られたのかなぁ。で、右の奥の差し歯が折れてて。とにかく目が覚めたときに夢を見てる気がして。「僕は今どこにいるんだろう。なんで歯が抜けた夢を見てるんだろう」って思った(笑)」
――オォ、完全にKOされちゃったんだね。
「生まれて初めてだよ(笑)。何が起ったのか分からなくて、気がついたあとにカメラマンが戻ってきて。実はこういうことがあってって話したら、望遠レンズの入ったカメラバッグが無くなってた。それで、強盗にあったんだって分かって警察呼んだんだ。でも、首がちょっと痛かったくらいで、顔にあとも残ってないし血も出てないし、大したことないと思って、日本にはすぐに連絡しなかったんだよね。でも、スウェーデンではその日の夜にネットのニュースで流れて、翌朝に新聞に「パイナップルが強盗にあった」ってタイトルで記事が載ってて(笑)」
――それが膨らんで伝わったんだ(笑)。
次の日の午後に日本からメールがガンガン来て、すごいことになったのかなって(笑)」
――でも、無事で何よりですよ。
「まあ、こういうことは日本にいてもどこにいてもあるだろうしね。スウェーデンの友だちからは「ヒデキの好きなマルメの街でこんなことが起きて悲しい」って謝られた。メールでも「申し訳ない。オレが守ってやるよ。何かあったらオレに連絡しろ」とか(笑)、「ウチに泊まってもいいぞ」とか(笑)、そういうのがうれしかった(笑)。とにかく元気ですってことで(笑)」