Text●ぴあ編集部 Photo●スエイシナオヨシ(小倉隆史)、
(C)J.LEAGUE PHOTOS(試合写真)
今年でキリンカップサッカーが30回目の記念大会を迎える。と、なれば、あのFWに「話を聞かなきゃ!」と言うことで、元日本代表FWで、今回キリンカップ・スポークスマンに任命された小倉隆史氏を直撃。キリンカップサッカー1994で、日本代表デビューを果たし、現役時代はレフティモンスターの異名を取った小倉氏に、キリンカップの思い出や岡田ジャパンに期待すること、そしてサッカービギナーに向けて、おススめの観戦法を聞いてきました。では、どうぞ!
――小倉さんは1994年のオーストラリア戦で代表デビューし、2戦目のフランス戦で初ゴールをマークしました。小倉さんにとってキリンカップは思い出深い大会ですよね。
「そうですね。国際Aマッチ5試合出場1ゴールの僕にとって(笑)、とても大きな意味を持つ大会です。実はこの時のフル代表の召集はバタバタだったんです。五輪合宿に向かうために車で移動している時に、チームの方から連絡が入って、『オグ、代表入ったぞ』と言われたんです。五輪合宿に向かっているわけですから、『わかってますよ』と返したら、『違う、フル代表だ』って言われ、『えっ……』という感じ(笑)。もう緊張どころか何もわからないままの代表デビューでした」
――代表デビューの1週間後には、あのフランス戦です。
「初ゴールが吹き飛ぶくらい、フランスは衝撃的でした。カントナがいて、デサイーもいて、デシャン、パパンもいる。あの時のフランスは本当のベストメンバーが来日しましたから。世界のトップクラスとの差は『スゴイんだな』と体感した試合です。チームとして比べてみても、それこそ大人と子供くらいの差。ボールを取りに行けなければ、寄せにも行けない。もう『スゴイ』と言うしかない。ハタチそこそこのお子ちゃまには濃すぎる1週間でした(笑)。今思えば、出してもらって、本当に感謝のひと言に尽きますね」
――フランスやアルゼンチン戦はさておき、キリンカップサッカーも歴史を経て、世界との差を詰める試合から、勝利が求められる試合へと変化しました。そして30回目を迎える今回はチリ、ベルギーと対戦します。キリンカップサッカー2009では、どこに注目していますか?
「アテネ五輪('04年)でアルゼンチンを金メダルに導いたビエルサ監督率いるチリですね。内容、戦術的な部分でビエルサがどれだけチリを進化させているか楽しみ。チリの速さとプレッシャーの中で日本がどれだけできるのか。ポイントは『止めて蹴る』です。世界のトップと日本の差は結局のところ、プレッシャーのかかる場面でキチンと止めて蹴られるかにあると思うんです。岡田さんが目指す日本らしい連動したサッカーをできるかどうかは、いかにキチンと『止めて蹴るか』にかかっています」
――W杯予選の豪州戦、バーレーン戦の後も決定力不足が取り沙汰されています。元FWの小倉さんはこの決定力不足をどのように捉えていますか?
「明石家さんまさんが言っていたんですが、運動神経のいい女の子にドログバ(チェルシー所属/コートジボワール代表)の子供を産んでもらうしかない(笑)。冗談はさておき、日本人FWの能力でスゴイと感じたのはドラゴン(久保竜彦・サンフレッチェ広島)ぐらい。日本人はもともと素材では勝負できないんです。圧倒的なスピードが欲しいけど、日本人は背が低い。背が低いから競り勝てない。だからと言って、DFを引き連れながらシュートまで持って行けるタイプもいない。結局、日本人FWの中にはひとりで局面を打開できるタイプがいないのだから、ボールを繋がないといけない。ボールが前線に来たらシンプルにはたく。そうしたらもうひとり走り込む人間が必要になるからスペースを狙って選手がそこに走る。これが連動性です。点を取るために何をしていくべきか逆算していく必要があります。それがなくて決定力は語れない。チャンスを作れていないのが現状です」
――FWだけの責任ではないと。鍵を握る両サイドからの攻撃も、もう少し丁寧さが必要ですよね。
内田(篤人・鹿島アントラーズ)、安田(理大・ガンバ大阪)、長友(郁都・FC東京)には『クロスはパスだぞ』と顔を見れば言っています。クロスボールはキチンと狙って出さないといけない。パスする意識がないとクロスではなく、偶然まかせになってしまいますから」
――FWももっとエゴを発揮してもいいのかもしれません。
「イチローとか、張本勲さんの話を聞くと『自分が5打数0安打でチームが勝つよりも、自分が4打数4安打でチームが負けた方がいい』って言うんです。まあ、野球とサッカーの違いはありますが。フランス代表のパパンもノーゴールでチームが勝ってもあまり喜ばないけど、自分が2点取って2-3で負けた試合でハシャいで帰ったという話を聞いたことがあります。FWはスペシャリスト感を持ってもいいのかもしれないですね。外国人FWはとにかくシュートを打ちます。シュートを打たないとゴールはない。ノーシュート・ノーゴールですから」
小倉氏は日本と世界の差について、「プレッシャーのかかる場面でキチンと止めて蹴られるかにある」と話す。
――失敗してもシュートを打ち続けるのは難しいですよね?
「そう。決定機でシュートを外した時のサポーターの『あ〜あ』は、本当にグサっときます(笑)。『あ〜あ』って、俺自身が一番思っているよって。観客の『あ〜あ』を気にせずシュートを打ち続けるFWが出てきてほしいですね(笑)」
――サッカーの見方は現役時代と今、変わりましたか?
「いえ。ベンゲル(アーセナル監督)に出会って、『監督によってチームがこんなにも変わるのか』という衝撃的な経験をしたので、現役の時から監督としての視点でサッカーを観ていました。昔から試合を客観的に観ていたので、今と変わらないですね」
――それでは最後に、サッカー観戦でおススめする観戦法を教えてください。
「サッカーの見方は人それぞれでいいんです。サッカー先進国では観客みんなが監督気分で観ています。サッカーを知っていると思われているオランダ人も言っていることはメチャクチャ、もう好き勝手の言いたい放題(笑)。でも、それでいいんです。勝手なことを言って良いのがサッカー。正解なんてないんです。だから、観客の方にはみんな監督気分で試合を観ることをおススめします。『なんでこの選手を使わないんだ』と思うこともあれば、『なるほどこの選手はこう使うんだ』と思うこともあります。サッカー経験の有無なんて関係ありません。スタメンから選手交代を含め、監督になっちゃえばいいんですよ。自分ならこうするという視点でサッカーを観るとより面白くなるし、チーム全体を観ることによって逆に個人を観るようになるんです」