わたなべひさのぶ
'65年、群馬県生まれ。'83年、前橋工高からドラフト1位で西武ライオンズに入団。'98年にヤクルトスワローズに移籍し、翌年現役引退。ライオンズのエースとしてリーグ優勝9回、日本一も6回経験した。プロ通算成績:125勝110敗27セーブ、防御率3.67、1609奪三振。最多勝利3回、ベストナイン1回、ゴールデングラブ賞1回。'96年6月11日の対オリックス戦ではノーヒットノーラン達成。'99年から台湾に渡り、プロ野球大連盟リーグ「年代勇士」でコーチ兼選手として活躍。現在は、プロ野球解説者としてテレビ、雑誌等で活躍するかたわら、東京ドリームスのエースとしてマスターズリーグに出場している。

第151回
渡辺久信(野球)

「去年と同じ仲間で今季のマスターズリーグは優勝したいっすね。他の選手たちはどうかわからないけど、オレはケガしてもいいから勝ちたい。実際、今痛いし、肩(笑)」
 渡辺久信37歳。徳武定祐(元中日ドラゴンズ・64歳!)を筆頭とした平均年齢48.75歳の東京ドリームスでは、まだまだヒヨッコだ。その“若手”投手は、勝負になるといつも全力投球。現役時代と何も変わらない。今でも“気合”のピッチングにこだわる、まさしく“野球バカ”なのだ。
 プロ通算125勝110敗、最多勝利3回をはじめ数々のタイトルを獲得し、'96年にはノーヒットノーランも達成。しかしその翌々年、渡辺は33歳でマウンドを降りた。'85〜'94年までのライオンズ黄金時代(リーグ優勝9回・日本シリーズ6回制覇)を支えた中心投手にしては、引退が早かったのでは?
「確かにそんな見方もあるけど、ボクは、引退が決して早かったとは思わない。ピッチャーで15年、1年目から精一杯2000イニング以上投げた。クビになった時、もう現役に未練はなかった。ここまでかなって自分でも思ったし。投球技術を駆使すればまだヤレたかもしれない。でも、ボクは技術で投げるタイプじゃない、“気合”で投げちゃうタイプだからね。もう、自分自身でも気持ちの上で限界だと思ったから」
 未練なく引退したが、野球人生はまだ終わったわけではなかった。スワローズ解雇後、郭泰源(元西武ライオンズ)の誘いもあって台湾に飛んだ。そして、台湾の年代勇人チームでコーチ兼投手として第2の現役をスタートさせた。
「解説者としてネット裏から野球を見る道もあった。だけど、知らない土地の野球を見るのもマイナスにはならないと思った。他の国、文化も国民性も違う国で野球を教えてみると、いろんなことに気づくんですよ。いろんな人間、日本とは違う野球にも出会ったし……。ハッキリ言って、人間としての器が大きくなったかな。視野が広がったというか」
 3年に及ぶ台湾のプロ生活で、MVPや最多勝利投手などのタイトルを獲得。また、コーチとしては、選手からもチームからも絶大なる信頼を受けるようになった。その活躍の裏で具体的に彼は何を感じていたのか。 
「その〜、台湾の野球って、実際ヘタクソなんですよ。でもね、根性あるよみんな。ハングリーですよ。ボクも野球バカだからさ、好きだなぁ、そんな“根性!”みたいなの。そういう気持ちの部分に触れて、いかに日本が恵まれているかわかった。今の日本の野球はラクをしているのかな、なんて思ったりね。世界大会でも日本は今勝てないでしょ。危機感がないというか。そろそろ、一度過去に戻ってもいいんじゃない、そういう精神的、根性論的な過去に。それが日本野球界の今後の課題じゃないかな」
 ただ、現在はマスターズリーグのいちプレイヤーにして、プロ野球のTV解説者に過ぎない。台湾で培った指導者としてのパフォーマンスを披露する日は、もう少し(?)先の話になるだろう。
 さて、話を“現役”に戻そう。渡辺はマスターズリーグの魅力を次のように語ってくれた。
「往年の名プレイヤーが真剣勝負でやるんだから、これは面白いっすよ。現役を終わって10年20年の方々が真剣に野球をやる場所は、この場しかないんですよ。みんな“プロ”として闘ってる。お客さんにもお金もらってるしね。プライドをかけているから、ベテランの方々もしっかり体を作ってきてます。ファン層? だいぶ(年齢が)上の方が多いっすよ。若い女の子はやっぱり少ないね〜(苦笑)。野球を知ってて、野球をホントに好きな方が多いんじゃないですか。そうそう、結構ヤジも多いんですよ、ボクには。球が速すぎるとか、もっと遅い球投げろとかね。それはそれで面白いっすよ、普通のプロ野球ではなかなかないヤジだから(笑)」
 マスターズリーグで3度目の“現役”。「ケガをしてでも勝ちたい」と真剣勝負にこだわる“野球バカ”は、元ジャイアンツの『絶好調男』中畑清や今年新加入したクロマティ(それぞれ札幌アンビシャス)、『浪速の春団治』こと川藤幸三(大阪ロマンズ)ら、往年の名プレイヤーを相手にしても、きっと情け容赦なく力投するだろう。そう、どんなに「球が速すぎる」とヤジが飛んできてもだ。マウンドに立った渡辺が“気合”の投球を抑えることなどできはしないのだから。

取材・文:豊川大


渡辺久信を知る30の質問
バックナンバー
もどる