ごうのあきひろ
'74年、東京都生まれ。176cm、89kg。TEAM GRABAKA所属。18歳の時に総合格闘技を始めて以来、数々のアマチュア大会を総ナメにし、“格闘技界の天才児”の異名を取る。'96年10月、修斗後楽園ホール大会でプロデビューし、修斗ライトヘビー級ランク1位まで登り詰める。2001年6月、パンクラス初参戦。渡辺大介を強烈なヒザ蹴りで下し、その実力を見せつけた。2001年8月、DEEP 2001 in Yokohamaにも出場するなど活動の場を広げている。

第97回
郷野聡寛(総合格闘技)

 郷野聡寛と闘う者は覚悟しなければいけない。彼の頭の中には、いい試合をしようなんて思いは全くない。勝つか、負けるか。郷野は相手を光らせることなく、完全に相手の長所を消し去る。
「性格悪いヤツのファイトです(笑)。世間一般では両選手が持ち味を出し合って、僅差でどちらかが勝つというのがいい試合なんでしょうけど、オレの理想とする試合にハラハラドキドキはない。自分だけが光る試合です。すべての面でオレが相手を圧倒し、観客にも相手にもどっちが強いかハッキリわからせたい。だから、最近は秒殺しようという気はないですね。打撃の一発KOだと、ラッキーパンチだと思われるかもしれないじゃないですか。それじゃ、シャクですから。だから、3ラウンドフルに使って打って、組んで、投げて、寝技もやって、すべての局面で差を見せ付けて判定勝ちを収めるというのも面白いなって思います。まあ、ヒザ蹴り一発で流血させるのもすごい気持ちいいんで、捨てがたいんですけど(笑)」
 10月、郷野はパンクラス参戦2戦目で早くも"理想的な試合"を見せた。"世界一の寝業師"菊田早苗をボスとする寝技のスペシャリスト集団・GRABAKA対パンクラス(東京・横浜道場混合チーム)の全面対抗戦大将戦で、郷野は前ライトヘビー級王者・KEI山宮を完封した。
「試合前に菊田さんに『どっちの打撃が上か、楽しみにしてんだよ』って言われたんですよ。組んだら、オレの方が上なのは明らかだし、打撃も勝っているという自負があったから、ちょっとショックと言うか、菊田さんにもどっちが上かハッキリわからせなくちゃいけないと思った。だから、敢えて寝技に持っていかなかったんですよ」
「山宮がオレより上回っているのはパンチだけ」と郷野自身も認めていた。認めた上で、郷野はノーガードで山宮のパンチを誘う。おちょくった表情で顔を突き出しながら、山宮のパンチをスウェーでかわしまくる。距離を詰めたら、ヒザ蹴り。倒したら、グラウンドを完全にコントロールした。さらに極めつけはマイクアピールだ。判定勝利を手にした郷野は、マイクを手にしてアジッた。
「オイオイオイ、パンクラスの前チャンピオンはこんなもんかよっ」
 この瞬間、パンクラスマット初と言っていいヒールが誕生した。
「ヒール願望は昔からあったんです。誰にも気を使わず素のままでいいから楽。それに今のパンクラスマットは、みんなスポーツライクと言うか、爽やかじゃないですか。試合が終われば、勝っても負けても相手を称えて、笑顔で握手する。そういうのがグラバカの中でも普通になっているんで、オレぐらい毒を吐いてもいいかなって」
 野球一色の学生生活を送ってきた郷野は18歳の時、コマンドサンボ教室の門を叩いた。持ち前の運動センスを生かし、メキメキと腕を上げ数々のアマチュア大会を総ナメにした。そして、'96年、「打つ・投げる・極める」日本初の総合格闘技マット・修斗に登場し、プロファイターの道を歩む。しかし、プロと言ってもファイトマネーだけでは生活できない。郷野は青果市場でアルバイトをしながら、リングに上がり続けた。「勝って勝って勝ち続けて、修斗の契約選手になりたい。ゆくゆくはジムを任せてもらえるようになりたい」一心で。
 '00年11月、事件が起きる。郷野は、アルバイト先に休暇を申し入れ、1ヵ月弱の修行のためにアメリカへ旅立った。ファイターとしてレベルアップして帰ってきた時には、青果市場に居場所はなくなっていた。「今が勝負時」と考えた郷野は、練習に明け暮れる。しかし、修斗マットで結果を残すものの、ライトヘビー級王座に挑戦するチャンスは見えてこない。郷野は悩みに悩み抜いた末、修斗離脱を決意。ライトヘビー級ランキング1位の時だった。
 紆余曲折を経て、プロ意識を培った。ヒールはプロとして必要な強烈な個性である。ヒールとして存在価値を見出した郷野は、痛烈なマイクパフォーマンスという新しい武器を手にした。「こんなもん」扱いされたパンクラスの対応も早かった。尾崎社長はマイクアピールを終えた郷野の控え室を訪れ、12月・近藤有己戦をオファーした。郷野は3戦目にして、パンクラスのエースとの対決にたどり着いた。
「なんかオレが近藤に挑戦するみたいに言われているけど、そんなつもりはサラサラない。立っても寝てもオレの方が上。負ける要素はない。ただ、パンチや飛びヒザ蹴りに注意するだけ。まあ、(近藤の持ち味を)完全に消して、ライトヘビー級ランキングの1位はいただきますよ。チャンピオンが菊田さん、オレが1位。この先、菊田さんに挑戦しようとするヤツは、全員オレが倒していく。菊田さんには王座を防衛させず、おいしいところは全部かっさらう。パンクラスに相手がいなくなったら? DEEPやリングス、PRIDEのリングだって構わない。どこにでも行って、片っ端から潰します」
 口だけではない。郷野と闘う者は覚悟をしなくてはいけない。

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)
撮影:大崎聡


郷野聡寛を知る30の質問
バックナンバー
もどる