21世紀の骨のあるヤツ

伊達公子、野茂英雄、中田英寿など世界を舞台に戦う選手の出現でおおいに盛り上がった90年代のスポーツ界。21世紀まであと半年となった今、彼らのように大きくはばたく可能性を秘めた未来のスーパースターを直撃!

第28回

コウジ有沢(ボクシング)

コウジ有沢 一瞬アイドルと見間違えそうなルックスに惑わされてはいけない。外見とは裏腹に、日本スーパー・フェザー級王者のコウジ有沢は、乱打戦を得意とするアグレッシブなボクサーだ。先制のダウンを奪われることも多いが、ピンチに陥れば陥るほど、この男は勝負強さを発揮する。コウジの逆転KO劇に、ボクシングの醍醐味を感じるファンは少なくない。
「倒された時には、ゆっくりと立つ。相手に効いているかどうか、知られたくないじゃないですか。それに足元をふらつかせながら急いで立ち上がったら、相手を元気づかせるだけですからね」
 双子の兄・カズはアマチュアボクシングの経験を積んでプロ入りしたエリート(現在は日本フェザー級の3位)。当然プロ入りした当初は兄のカゲに隠れることが多かった。
「でも、それほどカズの存在はプレッシャーにならなかったですね。明らかに自分よりスピードはあるし、身体能力も高い。中学の時、マラソン大会で、あまりにもカズが無鉄砲に走るもんだから、『マラソンで死ぬ人もいるんだから、そんなに無理するなよ』と忠告したことがありますよ」
 短気な兄の性格とは対照的に、こどもの頃からコウジは慎重で怖がり屋だったという。
「ボクは恐怖心を抱きやすく、ものすごく傷つきやすい性格なんですよ。昔はそういう自分がたまらなくイヤだった。でも今ではそういった部分もないと強くなれないことがよくわかってきました」
 強い自分と弱い自分。意外に思う方がいるかもしれないが、両極端な自分を理解していないと、戦いを勝ち抜くことはできない。
「デビュー戦の時なんて、本当に怖かったですね。毎日サンドバックを叩きながら、この一戦で辞めてやると考えていましたから」
 それから9年。気がつけば、コウジは日本王者の中では誰の目から見ても一番人気を誇るボクサーに成長した。
「やっぱり勝つ喜びを知ったから、続いたんじゃないですかね。デビュー戦で勝った時、当時仲の良かった男友達が泣いてくれたんですよ。そういえば、カズも泣いていた。そこまで周囲が感動してくれるなんて夢にも思わなかったから本当にうれしかったですね」
 コウジの名勝負といえば、過去2度世界へ挑戦した実績を持つ平仲信敏との2度にわる防衛戦と、先日2階級制覇を成し遂げたばかりの畑山隆則との一戦が思い浮かぶ。
「やっぱり平仲さんのパンチ力は他の選手と違ってましたね。交通事故で亡くなった(3月24日、沖縄)と聞いた時には、自分が尊敬する尾崎豊が死んだ時と同じような心境になりました。畑山君は強い。男ですね。たとえ弱気になっている時でも、絶対にそれを表に出さない。必死でやったけど、どこかで弱気になっていたのかもしれませんね。あの時ボクは、気持ち的には王者でありながら王者でなかった」
 畑山に敗れ、一度は王座を手放したものの、'98年12月、再び同王座についた。去る4月2日には両国国技館で挑戦者・玉置厚司に6ラウンドTKO勝ち。堂々4度目の王座防衛に成功した。続くV5戦は、7月10日(月)、後楽園ホールで篠崎哲也を相手に行う。
「篠崎選手は粘り強いタイプ。自分が強引に攻めていったところをサバかれて判定に持ち込まれたら、ヤバいかもしれませんね。油断はしない。幸い体力的にも技術的にも自分のコンディションは今までで一番いい」
 最終ゴールは、もちろん世界タイトル奪取。かつてライバル視された畑山が王座に返り咲き、日本ボクシング界はかつての勢いを取り戻しつつある。その流れにコウジはうまく乗れるのだろうか?
「畑山君は、たぶん坂本博之君と初防衛戦をやるでしょう。自分の階級で挑戦できないようだったら、ひとつ階級を上げて畑山VS坂本の勝者とやってもいい。でも、できることなら、日本王座を7度防衛したあと、スーパー・フェザー級で世界戦をやりたいですね」
 ナイーブな負けず嫌いの挑戦は続く。

取材・文:布施鋼治
撮影:橘蓮二

プロフィール

●こうじありさわ
'71年埼玉県生まれ。173cm。'92年3月にプロデビューし、'96年4月、日本王座獲得。'98年3月、畑山隆則に敗れ王座を手放したが、同年12月再び王座を奪取。プロ戦績、25戦24勝(19KO)1敗。

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