ほしのいくま
'82年、和歌山県生まれ。155cm、55kg。米里倶人満所属。高校時代に柔道を始め、高校柔道近畿大会ベスト4の実績を持つ。'01年5月に行われた「ReMix」にて総合デビュー。シドニー五輪柔道銀メダリストのコバチノバ・タチアナにKO勝ち。以来、「AX」、「修斗」など、活躍の場を広げている、女子総合格闘技界・期待の星。マァ☆ティンの愛称で親しまれる。戦績10戦9勝1敗。

第123回
星野育蒔(女子総合格闘技)

 猫の目のように、表情をクルクル変える。大きな瞳をさらに見開いて満面の笑顔を見せたかと思えば、答えに窮しすごい勢いで頭をかきむしる。誉められるのは弱いらしい。長所を並べられると、まるで怒られたこどものように小さくなって下を向く。顔は真っ赤。彼女の最大の関心事が、ファッションやカレシであれば、どこにでもいるかなり元気なハタチの女の子である。だが、マァ☆ティンこと、星野育蒔を夢中にするものは他の女の子たちとは違う。殴る・蹴る・投げる・極める。2000年12月に産声を上げたばかりの女子総合格闘技にどっぷりとハマッている。
「マァ☆ティンはねぇ、闘うことがすごい好きなの。あのリングの上ってすごい。何て言うたらええんやろ、銀色の世界に入っていくんよ。締め技で落とされていくのとも違う、打撃で失神するのともに違う、銀色の気持ちいい世界。リングの中って、カッコなんてつけられない。カッコつけてる暇があったら攻めないと。雑誌で試合の写真を見て、誰やコレっ、すごいブサイクと思うような顔をしていてもOK。普通、女の子がブタッ鼻みたいになった顔を写真で撮られるのイヤや思うけど、闘いの場はOKなん。リングの上では本能を見せるしかないから」
 表情豊かなマァ☆ティンは、リング上ではさらに多様に感情を表現する。嬉々とした表情で殴る。不利な体勢から必死に逃れようとする。セコンドの指示に「ふぁい、ふぁい」なんて、闘いながら答えたりする。しかし、返事をしているわりに、セコンドの指示通りに闘いなんてしない。試合に勝利したものの、内容に満足できずインタビュアーのマイクを奪い勝手に喋り出す。「あの、はぃ、打撃をいっぱいいっぱぁいもらっちゃって、もっといっぱい練習して、こうやるじゃなくて、ふぁい、こうやってできるように☆▲□……」。日本語になってないが、悔しさだけは伝わる。
「闘いって不思議なんよ。マァ☆ティンはねえ、闘う時って、頭をもいだるッという気持ちで締めるし、頭をぶっ飛ばしたるッという気持ちで蹴ったり、殴ったりする。それこそ、対戦相手のことを殺したるッと思うんよ。でもね、試合が終わると、友達になれる。あれ、うれしいなぁ。対戦相手が決まってからずっとその選手のこと考えるじゃない? 寝ても覚めても、その人のことばかり。だからかなぁ、試合後は初対面の人でもすぐ打ち解けることができるんよね」
 デビュー1年のマァ☆ティンと同様に、歴史が1年半しかない女子格闘技はまだ競技として確立されていない。創生期ゆえの苦しさも味わった。デビューから2ヵ月の間に、4試合を闘った。デビュー2戦目は、体重が3倍もある相手だった。男子の世界のように階級制が徹底されるのはもう少し時間がかかるようだ。
「鳥巣(朱美)さんと闘った時はビックリしたなぁ。試合中は相手が大きいなんて思わなかった。でも、KO勝ちした後、鳥巣さんにありがとうと抱きつかれたんよ。うわっ、大きい、殺されるって遅ればせながら思った(笑)。マァ☆ティンねぇ、試合前って必ず熱が出るの。自分では知恵熱やと思ってるんだけど。ほら、小さい時って、遠足の前の日に熱が出たりするじゃない。あれと一緒。今のマァ☆ティンにとって、リングに上がるのは遠足と同じだから」
 こどもの頃、遠足が雨天中止となり、悲しい気持ちになったことは誰しもあるだろう。マァ☆ティンにとっての"遠足"も楽しい思い出ばかりではない。デビュー7連勝の記録は昨年末、辻結花にストップされてしまった。しかし、そこは天然格闘少女。思い切りヘコんだ後、初めての挫折を糧にした。
「辻さんに負けた後、インフルエンザにかかってしまって、もう死んだ。2週間ほど死んでて、それまでは悔しい悔しい悔しいばっかりだったのが、この敗戦を生かさないといけないって思うようになったんよ。それまでマァ☆ティンは下から攻める柔術のテクニックなんて知らんかったから、それから猛練習。もし、あの時、辻さんに負けてなかったら、今でも柔道で培った技術と勢いだけの打撃だけで闘っているはず。でも、テクニックばかり追ってはダメ。マァ☆ティンのハイキックなんて、キックボクシングを習ったらできへんと思う。カウンターが怖くて、腰が入らようになってしまうはず。だからテクニックを身に付けつつ、無鉄砲なとこも残さんと。そんなふうに色んなことを考えるようになったから、今は負けて良かったと言えるんよ」
 初めての挫折から這い上がったマァ☆ティンは、さらにファイターとしての幅を広げた。女子総合格闘技のAXだけでなく、グラウンドでの顔面パンチがある修斗やポジショニングが命の柔術の大会にも参戦する。休んでなんていられない。闘うことが大好きな女の子には、デッカイ目標がある。
「最強。最強になりたい。まだまだ道のりは長いけど、マァ☆ティンは最強になりたいんよ。前は強くなりたい強くなりたいと漠然とした目標だけがあったけど、今は強くなるために強い人と対戦したいと思うようになったん。とにかく強い人と当たって突っ走るよ。90歳くらいまでは最強目指して突っ走るよ」

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)
撮影協力:パレストラ東京


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