|
第169回
アメージング・コング(女子プロレス)
女子プロレス界に、新たな"ビースト"が現れた。彼女の名はアメージング・コング――'02年10月に全日本女子プロレスのリングでデビューして以来、他の試合に乱入するわ、場外乱闘を繰り広げるわと暴走し続ける、文字通り"規格外"の女子レスラーである。
「6歳の頃から、ふたつ年下の弟と一緒にストリートファイトに明け暮れていたわ。もちろん家でも弟と取っ組み合いのケンカをしてたわね」と高笑いする"女ボブ・サップ"は身長175cm、体重105kgという男子レスラーも顔負けのスーパーヘビー級戦士だ。類まれな巨躯に加え、豹柄のコスチュームに身を包み、ドレッドヘアを振り乱し、黄色い瞳で敵を射抜く。その姿は、否が応でも観る者を惹きつける。コングの迫力と威圧感は、容姿だけにとどまらない。全女のエース・中西百重をチェーン攻撃で追い詰め、"ミスター女子プロレス"神取忍の体当たりを真っ向から弾き返す。
「リングに上がったら、怒りを思いっ切り爆発させるのよ。自分で自分をコントロールできないぐらいにね。相手が痛がる顔を見るのなんて大好きだわ。フハハハハハ!」
いまや"野獣"の代名詞となったサップと同様に、テクニックを超越したパワーファイトと傍若無人な暴れっぷりを見せる。
「何が何でも有名人になりたかった」
女優の母親を持つ彼女は、育った環境の影響からか、スポットライトを浴びることを夢見ていた。特に幼い頃、ブラウン管越しに弟と観ていたプロレスには憧れを抱いていたが、彼女が通った高校には、女子生徒がレスリングのできる環境が整っていなかった。卒業後、一度はコミュニティ・カレッジに通い、その後UCLAに進む。だが「金を稼ぐために」中退し、夏の間、キャンプに来る子供たちの面倒を見たり、妊婦のカウンセリングも行った。
しかしコングはプロレスラーになる夢を諦めはしなかった。アメリカのプロレス団体・WWEのテレビ番組「タフ・イナフ」に応募し、トライアウトに参加するためロサンゼルスに飛ぶ。だが、新人レスラーが成長していく過程を追うこのドキュメンタリー番組に、彼女はブラウン管に姿を現すことなく落とされてしまうのだった。
「副社長のジム・ロスに、『太り過ぎだ、60ポンド(約27キロ)も重過ぎる』って言われたのよ。でも逆にそれで火が点いたわね。どうしてもレスラーになりたくなったわ」
その後、コングは「ボディチャレンジ」というディスカバリー・チャンネルのスポーツ番組に採用され、トレーニングを積む。これが数奇な運命の始まりだった。
「その番組の企画で好きなレスラーを聞かれて、『チャイナのようになりたい』って言ったの、いちファンとしてね。そうしたら番組で彼女と猪木道場で会うことになったのよ」
チャイナとは、新日本プロレスのリングに上がったこともある元WWFの女王、ジョーニー・ローラーのことである。彼女と対面を果たしたコングは、猪木道場からの「全女でレスラーを探している」との連絡に飛び付き、日本マット界への切符を手にしたのだった。
日本に上陸して約半年、女子プロレス界に旋風を巻き起こしている"女ボブ・サップ"だが、そのニックネームには一家言あるようだ。
「去年までボブ・サップなんて知らなかったわ。初めて見た時は彼が私をパクっているのかと思ったぐらいよ。これは私のキャラクター。ディス・イズ・ミー」
"女ボブ・サップ"からの脱皮を図るアメージング・コング。迎えるは5月11日(日)、全女35周年興行という絶好の大舞台が待っている。
「私がボスになれば、世界は素晴らしくなるわ。だからプロレス界も私が支配する。もちろん、いずれは全女の赤いベルトも頂戴するわよ。フハハハハハ!」
取材・文:隈元大吾
通訳:田中正志
撮影:源賀津己
|