21世紀の骨のあるヤツ

伊達公子、野茂英雄、中田英寿など世界を舞台に戦う選手の出現でおおいに盛り上がった90年代のスポーツ界。21世紀に突入した今、彼らのように大きくはばたく可能性を秘めた未来のスーパースターを直撃!

第66回

明神智和(サッカー)

明神智和「サッカー選手として1年でも長く現役を続けて、引退しても食える程度の仕事にありつければいいですね。で、65歳ぐらいから優雅な年金生活を送ることができれば幸せですよ」
 親しみやすい笑顔を浮かべながら、明神智和は礼儀正しく語った。「21世紀の目標は?」という問いかけに対する答えに、謙虚で無欲な人柄を感じずにはいられない。
「デカいことを言うの、苦手なんですよ。『なんだよ、アイツ。口だけじゃん』と思われるのがイヤなんです。有言実行は得意じゃない。コツコツと地道に積み重ねいく方が性に合っていると思います」
 実際、その不言実行のスタイルで、明神は着実に成長を遂げてきた。フィリップ・トルシエ監督率いる五輪日本代表が戦った全28試合中、27試合に出場。昨年10月のアジアカップでも全6試合に出場し、ボランチと右アウトサイドMFの両ポジションで安定した活躍を見せた。今や日本代表に欠かせないキーパーソンだが、本人は謙遜の心を忘れない。
「まだまだですよ。去年は去年。今年はどうなるかわからない。常にベストを尽くさないと、いつだって代表から外されるという危機感は持っています」
 とはいえ、チームを預かる監督にとって、彼ほど頼もしい選手はいないだろう。何しろ明神はケガが少ない。累積警告での出場停止が少ない。プレイに好不調の波がないのだ。
「ケガが少ない理由ですか? 丈夫な体に生んでくれた両親に感謝するしかないですね。イエローはもらわないように意識しています。というか、ファウルしなきゃ止められないということは自分がヘタな証拠。それに、ボクはディフェンスをメインにプレイすることが多いじゃないですか。相手に絶えずプレッシャーをかけにいったりとか、最後までしつこく食らいついていけば、調子が悪くてもそれがなかなか表には出にくい(苦笑)。ポジション的に得している部分もあるかもしれませんね」
 言葉や活字にするのは簡単だが、そのハードワークを堅実かつ献身的にこなすには相当な労力を必要とする。自己表現ではなく自己犠牲の精神が不可欠だ。ある意味、プレイヤーとしての個性を放棄することにもつながりかねないが、その自己犠牲で得られる喜びの方が大きいと、明神は語る。
「例えば強い相手と対戦する時でも、自分がどれだけできるかとか、自分の力量を試したいという願望よりも、試合に勝ちたいという気持ちの方が強いんです。そのためにチームに貢献したいと思うタイプなんですよ。だから、周囲に気を配れるとか、チームを助けることができると評価されるのは、とてもうれしく光栄なことです」
 子供の頃はガキ大将だった。気配り上手の性格になったのは思春期に差しかかる一歩手前のこと。
「小学5年の時、神戸から千葉の流山に引っ越すことになったんですよ。で、友達を作らなきゃいけないでしょ。そこで『オレが、オレが』ってやっていたら嫌われちゃうじゃないですか。今、振り返ってみると我ながらよく考えた策だと思います(笑)」
 派手さがないプレイスタイルゆえに地味なイメージが付きまとうが、チーム関係者やマスコミからの評判はすごぶるいい。連日殺到する雑誌取材が、その事実を物語っている。
「よく“イブシ銀"とか“地味"だとか表現されますけど、当たっていると思います。実際、ボクのプレイはスペースを埋めたり、攻守のバランスを取ったりすることばかりですから(笑)。ただ、自分では地味にやっているつもりはないですよ。ボクの持っているものを100%発揮しているつもりです」
 その言葉の裏には、自分の役割に対する強い自負心がある。と同時に、さらなる飛躍のために何が必要なのかも彼は知っていた。
「例えばパスのつなぎ。少ないタッチでボールを動かして、もっとリズム良く展開していかなきゃいけないと思うし、攻撃にもどんどん絡んでいきたい。そのためにも、周囲からもっと信頼されるようにならないといけませんね」
 信頼はピッチの上で勝ち取るものだ。プレW杯イヤーとなる今年、日本代表はスペインなど数々の強豪国と対戦するが、明神はその厳しい戦いの中で信頼を勝ち取っていきたいと話す。
「昨年に比べると対戦相手のレベルはかなり高いものになりますが、その強いチームを相手にしても、質の高いプレイをしていきたい。その積み重ねが信頼になると思います。それに相手が強い方がモチベーションも高まります。勉強だとか、胸を借りるという発想はありません。あくまでも勝ちにいきます」
 あくまでも勝ちにこだわる。その思いはJリーグでも変わらない。
「あと一歩のところで優勝を逃した昨年の悔しさは忘れていません。今年は柳想鐵(ユ・サンチョル)も加入しましたし、チームの優勝に対する意欲というのはかつてないほど高い。今年こそチームでタイトルを取りたいですね。『柏レイソルに明神あり』と思われるような選手になりたい」
 そう語り終わると、ニヤリと笑って一言。
「あまり表情に出ませんが、実はかなりの負けず嫌いなんです。負けたら悔しくて夜も眠れない(笑)」
 謙虚で無欲な男だが、内に秘めたものは誰よりも熱い。気配り上手の知られざる素顔が、そこにはあった。

取材・文:慎武宏/撮影:末石直義

プロフィール

●みょうじんともかず
'78年、兵庫県生まれ。173cm、68kg。高校進学とともに柏ユース入りし、'96年に練習生契約ながらJリーグデビュー。'97年、ワールドユース、'99年五輪アジア予選を経験し、昨年はシドニー五輪とアジアカップに出場。柏では攻守をつなぐボランチとして、代表では抜群の運動量に定評のある右アウトサイドとして活躍中。Jリーグ通算113試合4得点/国際Aマッチ通算10試合2得点('01年3月26日現在)

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