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●さとうしょう
'83年、北海道生まれ。175cm、69kg。小学校1年からアイスホッケーを始め、中学校では全国優勝を達成。駒大苫小牧高校1年時からレギュラーを獲得し、齊藤哲也、百目木政人(ともに王子製紙)らとともにインターハイ3連覇を達成した。'02年、西武鉄道に入社し、デビューイヤーは23試合に出場。2ゴール、3アシストを記録した。西武鉄道の廃部により、今季よりコクドへ移籍。ポジション・FW、レフトハンド。 |
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第207回
佐藤翔(アイスホッケー)
「なぜだ! どうして入らないんだ!」
'02年、西武鉄道入社1年目。真新しいユニフォームに身を包んだ佐藤翔は、氷上で苦悶の表情を浮かべていた。自信を持って打ち込んだシュートが、いとも簡単にキーパーに止められてしまう。それどころか、シュートを打てる体勢に持ち込むことすらままならない。生まれて初めて体感する"大きな壁"が、彼の眼前に立ちはだかっていた。
「ものすごくヘコみましたねぇ…(苦笑)。正直、自分のホッケーは1年目でも通用すると思ってたんです。でも、外から見てるのと実際にやるのは大違いでした。実業団の選手は見えない部分でのプレイがうまい。例えば相手選手の動きを押さえるにしても、高校ではバカ正直に正面からぶつかっていっても通じたけど、実業団では先に相手の体の左右どちらかを押してバランスを失わせる。全ての動きが合理的なんです。ただガムシャラにシュートを打ったり走ってるだけでは、相手ディフェンスの思うツボ。高校で、ある程度自分のホッケースタイルは完成したかな、と勝手に思ってたけど、まだまだ学ぶことばかりでした」
決して挫折を恐れながら生きてきたわけではない。人生の岐路に立たされた時、彼は常に一番ハードな選択肢を選んできた。レベルの高い環境を求め、中学は敢えて学区外の景雲中学校に進学。3年時には全国大会で優勝を勝ち取った。さらなるイバラの道を求め、高校は名門・駒大苫小牧高校に進学。実家から電車で5時間もかかる苫小牧市での寮生活を選んだのは、自分を最大限に磨ける環境に身を投じるためだった。
「とにかく練習のキツさが半端じゃないんです。いつまでたっても終わりが見えない、ちょっと異次元に近い練習量で、今までの人生で一番過酷でしたね。だから正直、試合をしていて負ける気は全くしなかったです。個々の才能はともかく、ここまで追い込んだ練習をしているチームは他にないっていう自信があったから」
インターハイ3連覇、3年間で公式戦はわずか2敗という輝かしい成績を残し、佐藤は実業団へと歩みを進めた。とことん悩み抜いた末に、進学を勧める両親の声を振り切ったのも、大学チームと練習試合をする中で「アイスホッケーを第一に考えると、大学のタラタラした世界で過ごす4年間は長すぎる」という、自分への厳しさから生まれた決断だった。しかし西武鉄道に入って、それまでどの段階でも感じることのなかったレベルの差に愕然とした。練習についていくだけでも精一杯で、試合出場の機会も半分ほど。2ゴール3アシストという結果は、彼にとって不本意以外の何物でもなかった。
「西武鉄道廃部、コクドと合併」
かねてから噂で流れていたニュースが現実のものとなったのは、昨年のプレイオフでコクドに敗れ優勝を逃した直後だった。激減するレギュラー枠、戦力外選手への解雇通告……、そんな不安ばかりがささやかれる中、彼だけはこの機会を最大のチャンスと捉えていた。
「やっぱり合併してからはコンビネーションもうまく働かず、チームがバラバラな感じだったんです。でも、ボクにとってはその方がずっと都合がよかった。チームを一から作り直すわけだから、絶対に出場の機会は巡ってくると思ったし、そこでいいプレイをすればレギュラーに近づける。今季はチャンスをもらえれば結果を出せる自信があったんです」
大きな壁にぶち当たっていた佐藤が手にした自信は、オフシーズンの努力が実を結んだものだった。パワー不足を補うために行った、高校時以来の過酷な陸上トレーニング。さらには合併の利を生かして、コクドのエース、ユール・クリスの滑りを研究し、緩急をつけたスケーティングや、ディフェンスを外すためのテクニックを学び取った。ルーキーイヤーで味わわされた課題を克服した結果、氷上の動きが見違えるようにレベルアップした。今季開幕2連戦でいきなり3ゴールを量産。コクドの前期リーグ優勝に大きく貢献する12ゴールで得点王を獲得し、あっという間に新生チームでのレギュラーを不動のものにした。
「初心に帰って貪欲に技術を盗み、ハードトレーニングを自らに課したことで、開幕が待ち遠しくてしょうがないほど体がキレてきたんです。でもボクの中では、実業団で一年を過ごす中で精神的な心構えが変わったことも大きいですね。この世界は、何が何でも個人として結果を残さないと生き残れない。正直に言うと、ボクは自分さえ活躍できれば、チームの勝敗はあまり気にならないんです(笑)。得点王を取った今でも、『自分の代わりはいくらでも後ろに控えてる』という危機感を持っていつもプレイしてます。それがゴールへの気迫に表れているのかもしれない」
相手チームのマークも厳しくなり、後期リーグは現在2ゴールにとどまっている。しかしこの状況は、常に厳しい環境を求めてきた佐藤にとっては逆に発奮材料となっている。
「周りに『前期はあれだけ点数取ってたのに……』みたいなことを絶対に言わせたくないから、後期は意地でも頑張りたい。厳しいマークは望むところです。それをどうやって克服できるかが、ボクの本当の実力の見せどころだから」
人生で初めてぶち当たった大きな壁も、わずか1年で越えてしまった。まだまだ底を見せない20歳の若武者が迎える、後期リーグ最終節。完全優勝がかかっていようがいまいが、狙いはひとつだけ。生粋のゴールハンターは、目の前のゴールにパックをぶち込むことしか考えていない。
取材・文:池田 亮(ぴあ) 撮影:村上厚志
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