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演劇・ミュージカル 宝塚歌劇花組公演『ファントム』
宝塚歌劇花組公演『ファントム』写真

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世界中で多くの映画化、舞台化がされてきた『オペラ座の怪人』。2年前、宝塚歌劇団宙組で上演された『ファントム』では、アーサー・コピットとモーリー・イェストン版を選択。“怪人”ではなく“人間”ファントム像を前面に打ち出し、高い評価を得た。再演となる今回は、壮麗なオペラ座の様子や秘密めいた地下の湖のシーンなど、原作に忠実な部分と、宝塚らしいダンスシーンやエピローグなどの、前回公演で追加された部分は踏襲。さらにファントムという人間の内奥に迫るというから、期待大だ。また伸びやかな歌声に定評があるトップスター春野寿美礼が、全編仮面を付けた姿でどんなファントムを見せてくれるのか。そして入団5年目の桜乃彩音が娘役トップに就任、春野との新コンビをお披露目するにあたって、ファントムが愛する可憐な少女クリスティーヌをどう演じるのか。見どころ満載の公演が、いよいよ本拠地・宝塚大劇場で幕を開ける!


≪the POINT-1 【異形の主人公】≫

『ファントム』の原作は、フランスの作家ガストン・ルルーが1911年に著した怪奇小説『オペラ座の怪人』。19世紀のパリ・オペラ座を舞台に、母親への思慕を抱きながらひっそりと地下に住む“怪人”の孤独と、オペラ歌手を夢見る少女クリティーヌとの恋の行方を描く。そこでもうひとつの主役となるのが、オペラ座の建物それ自体。舞台や映画の同作で、大きなシャンデリアが落ちてくるシーンを目にした人も多いだろう。実際のオペラ座も頭上にシャンデリアがきらめき、2000を超える座席が5層になって展開される内部と、金を多用した彫刻が施されるロビーを持つ、豪華絢爛なネオ・バロック様式の劇場だ。地下には作中に登場する「湖」、実際は貯水池だが、これも現存する。この美しい迷宮のような劇場は、実際に当時の関係者によって幽霊話が噂されていたという。ガストンはそれらを元にこの物語を書いたといわれているが、1875年の完成以来、超一流のバレエ団を擁する“美”の殿堂であり、同時に舞台に潜む“魔”を体内に包み込むこのオペラ座で起こる物語だからこそ、怖ろしい怪人の存在が哀しく、美しく際立つといえるのだ。


≪the POINT-2 【人間・ファントム】≫

オペラ座通りで楽譜を売るクリスティーヌは、ひょんなことからオペラ座で働くようになる。劇場の地下にある湖に潜むファントムは、耳にした彼女の歌声に母親の声を重ね、歌の指導をかってでることに。ある日、クリスティーヌを陥れようとしたベテラン歌手のカルロッタに怒ったファントムは、クリスティーヌを奪い去って姿をくらますのだが…。
フランス、アメリカ、イギリスなどでの映画化や、アンドリュー・ロイドウェバー版ほか、何種類も存在する舞台版。その中で04年の宙組初演時に宝塚歌劇団が選んだのは、ブロードウェイで活躍するアーサー・コピットとモーリー・イェストンのバージョン。仮面を付け、オペラ座の地下でひっそりと棲むファントムの葛藤や、クリスティーヌへの抑えきれない愛を描く、“人間・ファントム”に焦点を当てた演出だ。本来はきらびやかな存在であるはずのトップスターが全編、仮面を付け、顔を半分隠した状態で怪人を演じる。ファントムに挑んだ和央ようかは劇団内外で高い評価を得たが、これはタカラヅカの男役という、ある意味“異形”というファクターでつながった存在によって、その孤独と生身の温かさとを獲得したともいえよう。

≪the POINT-3 【夢とうつつの狭間】≫

かつて雲の上にいたはずの女優やアイドルが、フツーに子育てや離婚などを売り物にする「こちら側の人」になって久しい。その中で、宝塚歌劇団は今も「向こう側の人」であるという矜持を保ち続ける、希少な存在のひとつだ。歌舞伎の女形もそうだが、タカラヅカの男役という存在は、夢と現実との狭間にあやういバランスで存在し続ける、まぼろしのようなものと感じることがある。それは一連のヒット作、『ベルサイユのばら』でのオスカルや、『エリザベート』の死神トート、また本作での怪人ファントムに、ずば抜けて男役がハマることからもうかがえる。さらに言えば、それは曖昧な人物像にとどまらず、例えば春野寿美礼が『マラケシュ・紅の墓標』で演じたリュドヴィークにもあてはまる。 1920年代のモロッコを舞台に、パリでの傷から逃れて来た男と、行方不明の夫を探す人妻との数日間を描いた物語だが、ラストシーン、瀕死の重傷を負ったリュドヴィークは、相手に何も告げず立ち去る。死んだのか、砂漠に消えたのかはこちらの受け止め方に任される。
マラケシュの市場に見た遠い夢のような、この、観た者に背後の余白を預けるという舞台は、重ねていうが歌舞伎の女形と同じく、長い時をかけて培った「型」がなくては出来ないことだ。その事実を思うとき、男役とはひとつの奇跡を指す言葉だと感じる。トップとなって4年目の春野が、『ファントム』ではどこに向かうのか。その行方を、楽しみに待ちたい。

文:佐藤さくら





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