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演劇・ミュージカル 「幽霊はここにいる」
「幽霊はここにいる」
 
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'58年の岸田演劇賞(現在の岸田國士戯曲賞)を受賞した安部公房の戯曲を、串田和美が演出。串田はこの作品を、98年に手がけているので、今回が2度目。それだけ大好きな、また、取り組み甲斐のある戯曲なのだろう。ストーリーは、戦争が終わった混乱の空気が色濃く残る町が舞台。ひとりの詐欺師が、そこで朴訥とした男に出会うところから話は始まる。その男には幽霊が見え、今も連れて歩いていると聞いた詐欺師は、ひともうけ企む。そして、幽霊の身元を捜すめため、死んだ人間の写真を買うという商売を始めるのだが、これが大当たり。だが、やがてそれは詐欺師のもくろみを超え、町中を混乱させる事態に発展して……というもの。リアリティがあるような、ないような、不思議な空気をはらみながらも、身勝手さ、ずるさ、善意、愛らしさを通して、人間という存在をとらえようとする安部の戯曲。前回の演出では多数の外国人俳優を多数起用して、時代や場所を固定しない普遍性と、おとぎ話のような雰囲気をつくった串田が、今度はどう挑むのか? 主演は小澤征悦、毬谷友子ら。

≪この舞台のツボ [1]本当の“地方発信型”演劇を実践≫

この公演は、串田が芸術監督を務める、長野県松本市のまつもと市民芸術館が自主企画して行なうもの。同館の実験劇場で幕を開けたあと、富山のオーバード・ホール、滋賀のびわ湖ホールと回るが、東京公演がない。まつもと市民芸術館はこれまで、松たか子主演の「コーカサスの白墨の輪」などもプロデュースし、東京でも上演してきたが、今回は、かねてから「東京発信」に偏った日本の演劇形態に疑問を感じていた串田が、あえて巡演地から東京を外したもの。地方の劇場が公演をプロデュースする形は、北九州芸術劇場が「ファウスト」「ルル〜破滅の微笑」の例など、近年では活発化しており、今後はこうした“内容も良く、スタッフもキャストも豪華なのに東京では観られない”という公演が他にも出てくるかもしれない。「おもしろい芝居を観に、地方へ」という新しい慣例を、これを機会につくってみては?

≪この舞台のツボ [2]作者・安部公房とは?≫

この作品の作者である安部公房は、48年に処女小説を発表してからずっと“前衛文学の旗手”“知の巨人”として名を馳せ、精力的な文筆活動を展開した作家。あと数年長生きしていれば、ノーベル文学賞は確実だったといわれるほど海外での評価も高い、革新的な作家だった。東大医学部を卒業という異例の肩書きを持ち、日本で初めてワープロで小説を書いた進取の気質の持ち主でもあり、映画で有名な「砂の女」の作者としても知られている。「幽霊はここにいる」は、その安部が岸田戯曲賞をとった受賞作で、安部がのちに演劇にも傾倒していく入り口となった作品だ。安部は、現在でいうところのユニットにあたる「安部公房スタジオ」を設立、自ら演出にあたった演劇にかかわった。ここで安部が提唱した演技術は、安部システムと呼ばれる独自のものだった。彼が書いた戯曲は、不条理である一方でユーモアもあり、真理を突く。日本の演劇界の財産と呼ぶべきその作品は、もっと上演されていいだろう。

≪この舞台のツボ [3]串田ワールド、全開≫

吉田日出子や小日向文世、大森博史ら、錚々たるメンバーが在籍した自由劇場。そのリーダーだったのが串田和美。役者が楽器を演奏し、劇場全体を祝祭的なライブ感で満たした自由劇場の音楽劇は、斬新で、今も伝説となっている。そこで串田が生み出し、広め、深めていった演劇の自由さ、楽しさ、客席との一体感が、のちに中村勘三郎と二人三脚を組んだコクーン歌舞伎、平成中村座に大きく貢献したのは言うまでもない。また、役者としても自身が演出する舞台以外でも、数々の舞台、映画、ドラマ、CMに出演している。そんな串田ワールドがストレートに見られるのは、串田が芸術監督を務めるまつもと市民芸術館でじっくり稽古を重ねてつくったこの作品。ライブでこそ出合える奇跡の体験をくれる串田の舞台、ぜひとも体験してほしい。


▼まつもと市民芸術館公式HP



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