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演劇・ミュージカル 「タイタス・アンドロニカス」
「タイタス・アンドロニカス」写真

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シェイクスピア全37作品中「最も残酷な芝居」と言われる『タイタス・アンドロニカス』。御大・蜷川幸雄はこの血なまぐさいマルチ殺人悲劇を2年前に初めて手がけ、脚本のグロテスクさからは想像もつかない驚きの“純白の様式美”で舞台を彩った。染みひとつない真っ白なステージで繰り広げられる、殺人・強姦・奸計・権力闘争・カンニバリズムのセンセーション。飛び散る血飛沫は文楽人形のように口や体から赤い絹糸を吐き落とすことで表現され、生首や肉片はプラスチック制のオブジェで代用。まるで“完全無比な氷の彫刻”のように研ぎすまされた白い造形美に、役者陣が灼熱の火花を添えていく。ロイヤル・シェイクスピア・シアター主催の「シェイクスピア・フェスティバル」に正式招待され、今年6月にストラトフォードでの上演も決定している本作。その前哨戦としての傑作舞台を、今再び目の当たりにしよう。



≪ポイント其の1 蜷川幸雄の優美で鮮烈なヒューマン悲劇≫

蒼白く凍てついた氷のような彫刻美術と、マグマのような憎しみと怒りを喚き散らす役者たち。初演観劇時のこの純白と真紅の対比絵図は、まだ私の心の中には鮮烈な残像を止めている。ジュリー・テイモア監督は映画『タイタス』で、まるでフェリーニ作品のような熟覧と頽廃を込めてグロテスクな血みどろ惨劇を影深く紡ぎ出したが─。蜷川はここで真逆のレールを歩む。さながらコンラン卿が喜びそうな真っ白なスタイリッシュ空間の中央に、同じく真っ白な“カピトリーノの雌狼像”を配置。余剰な夾雑物をすべて削ぎ落とすことで、役者たちの強烈な心理ドラマに真っすぐに観客の目を向けさせる。登場人物の25人中13人が殺害されるという血で血を洗う非人道的な惨劇も、蜷川の手にかかれば複雑でやるせなく居たたまれないヒューマニティ溢れる悲劇に生まれ変わるのだ。無論、それは強力役者陣への全幅の信頼があってこその演出。獅子のような雄叫びをあげ嗚咽するタイタス役の吉田鋼太郎、大陸的な屈強さで魅惑的な悪女タモーラを演じ抜く麻実れい、それにシェイクスピア史上指折りの大悪人と言われるムーア人エアロン役に小栗旬を今回新たに迎え、現代への諷刺としても捉えられる、異人種間の抗争、親族間での争い、勝ち誇る凱旋将軍の人間的悲哀を、どう再び描き出すのか。期待が募る。


≪ポイント其の2 RSC主催の「シェイクスピア・フェスティバル」≫

英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)といえば、泣く子も黙る名優たちを数知れず生み出してきた演劇界の最高峰カンパニー。ローレンス・オリヴィエ、ヴィヴィアン・リー、ジュディ・デンチ、ケネス・ブラナーとその名をあげればきりがない。本カンパニーは前身であるシェイクスピア記念劇場が1879年に開場して以来、沙翁の生地ストラットフォード・アポン・エイヴォンを中心に国内外で公演を行ってきた。日本でも近年ではサー・アントニー・シャーがイアーゴを演じた『オセロー』や、奇才グレゴリー・ドーラン演出の『夏の夜の夢』などが話題を呼んだ。そんなRSCが史上初めて、シェイクスピア全37作を1年がかりで上演するという巨大プロジェクトを発表。英国内外の18の劇団が参加し、60万人以上の来場が見込まれるとして演劇界を震撼させている。そんな世界的プロジェクトに、日本から唯一参加するのが蜷川率いる『タイタス・アンドロニカス』。昨年7月の英国タイムズ誌の記事でも、サー・イアン・マッケランが初挑戦する『リア王』や、デクラン・ドネラン率いるチーク・バイ・ジャウルのロシア版『十二夜』などと並び、五指に入る人気公演として紹介された。蜷川が常に語る「世界市場の舞台作り」が、本作でも好評価を得ることはほぼ間違いないだろう。

文:岩城京子





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