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演劇・ミュージカル トリシャ・ブラウン・ダンス・カンパニー
トリシャ・ブラウン・ダンス・カンパニー写真
「セット・アンド・リセット」(1983年)
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トリシャ・ブラウン。この名前を一度も聞いたことのない若葉マークのダンスファンは、これからこの偉大な名を心にしかと刻んだほうがいい。彼女が60年代に登場し「ポストモダン・ダンスの旗手」として歴史を覆す作品の数々を世に送り出していなければ、ウィリアム・フォーサイスも、ローザスのケースマイケルも生まれることはなかった。しかもトリシャ・ブラウンの素晴らしいところは、自身のカンパニー結成から36年経った今も、まったくその知的好奇心のアンテナが鈍ることなく、ダンス界の最前線でカッティング・エッジな作品を創造し前進し続けていること。伝説的振付家でありながら今なお現在形であり続ける、ダンス界の女帝が満を持して日本上陸。これは、事件だ。

≪戦略その1 ビルの壁を人が歩く! “パフォーマンス”・アートからの出発≫

ポストモダンとは一体なにか。これは簡単に言うなら、モダニズムの反動として、一切の物語性を拒絶し、装飾を排する形で生まれてきた禁欲的概念のこと。建築や哲学や美術などからこの潮流は始まり、ミニマリズムなどの手法を生み出していった。
そんな土壌から養分を吸収して誕生したのが、振付家トリシャ・ブラウン。彼女は60年代前半にその前衛的芸術活動で一世を風靡したジャドソン・ダンス・シアターの創立メンバーとして世に現れ、既成のダンス概念をことごとく打ち破っていった。即興で踊る、無音で踊る、公共の場に繰り出す。特に自身のカンパニーで70年に発表した『MAN WALKING DOWN A SIDE OF A BUILDING』は、文字通り一人の男性が金具で吊られる形でビルの横を歩いて下りてくるパフォーマンスであった。
その後も、グリニッチ・ビレッジの屋上12ブロックで振り付けリレーを行ったり、と様々なパフォーマンスを展開。だが、70年代後半に入るとトリシャは”劇場”での公演を開始し、様々なアーティストとのコラボを楽しんでいく。作曲家のジョン・ケージにローリー・アンダーソン、現代美術家のロバート・ラウシェンバーグなど数々の知の巨人たちが参加した。
またさらに80年代に入ると幾何学的構造美は残しながらも、そこに無意識的な感情を導入。この頃からオペラなどの振付けもし始め…、日本的に言うならアングラの女王がメインストリームでその才能を開花させていった。04年には初めて権威の殿堂パリ・オペラ座バレエ団に招かれ、マニュエル・ルグリなどに新作を振付けた。今年で70歳のトリシャだが、彼女はまるでダンス界のピカソのよう。様々な画風に挑戦し続け、常に勢力的にダンスの可能性を開拓していっている。

≪戦略その2 現在への道のりを確かめられる新旧4作品≫

79年に発表された『アキュムレーション ウィズ・トーキング・プラス・ウォーターモーター』から、03年に生まれた近作『プレゼント・テンス』まで、新旧4作品を今回の日本公演では披露。トリシャの過去から現在に至るスタイルの流れを、確認しつつ堪能することができる。
まず『アキュムレーション〜』だが、これは今回ジョナサン・デミ監督(『羊たの沈黙』などで有名)による映像作品として上映される。トリシャが探求した「アキュムレーション(蓄積)」という動きの概念(動きを1→2、1→2→3、1→2→3→1’…と展開していくこと)に、彼女の個人史的な記憶の表情が美しくシンプルに多いかぶさっていく。
83年発表の『セット・アンド・リセット』は、音楽ローリー・アンダーソン、美術ロバート・ラウシェンバーグという、現代アート好きにもたまらない二人がタッグを組んだ抽象作品だ。
さらに00年の『グルーヴ・アンド・カウンタームーヴ』は、全篇にゆったりと流れるデイヴ・ダグラスによるジャズ音楽が何より魅力。10人のダンサーたちが縦一列に並び同じ動きを微差を持って展開していったり、複数人数で一人のダンサーをリフトし”多人数構成の彫像”のような美しさを作り上げたり、緻密に計算された絵画構造とグルーヴィーな音楽が反発することなく見事に融合している。
そして最も近作となる03年の『プレゼント・テンス』では、音楽家ジョン・ケージによる「プリペアトピアノのためのソナタ」に乗せて、動作と動作の境目が終幕まで一切ないようななめらかなムーブメントで展開。これ以上ないぐらい知的でありながら、目にも心にも楽しみを与えるトリシャの一級芸術作。人間の身体の可能性の美しさに、きっと驚嘆するはずだ。

文:岩城京子



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