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演劇・ミュージカル
「シザーハンズ」
「シザーハンズ」写真

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鬼才と呼ばれる振付家は世に多くいれど「ストーリーテリングのうまさ」の一点においては、英国人振付家マシュー・ボーンが独占市場を担っているように思う。「まったく予備知識がない人が客席に座っても楽しめるものを目指している」マシュー自身も以前語ってくれたように、最初の一音が鳴り始めた瞬間から、観客を別世界へと連れ去ってくれる”マジック”が彼の作品にはあるのだ。そん彼が語り部としての才能をフルに発揮し作り上げたのが、新作舞台『シザーハンズ』。 ご存知ジョニー・デップ主演で90年に封切られた大ヒット映画を、一切言葉を使用せず、美しくコミカルで切ないダンス・ミュージカルに仕立ててみせた。 昨年11月にロンドンで幕を開け大成功を収めた本作が、早くも日本上陸。「むかしむかし…」と始まる、現代の哀しきおとぎ話に観客が呑み込まれていく。


≪攻略ポイント その1 映画版とここが違う!≫

まず何より異なるのが、エドワードの出生秘話。映画版ではなぜ博士がエドワードを作ろうと思ったのか、という根っこの衝動があいまいにしか描かれていなかったが。マシューは本作のプロローグで、その細部を明解に説明。危険なハサミ遊びのすえ博士の息子が死んでしまい、その哀しみを晴らすための代用品としてエドワードを作る、という出生譚が冒頭で語られる。これにより、生まれながらにしてエドワードが背負う悲劇性がよりいっそう強調されることに。
「博士の家にあったソファー地で作られている」というエドワードの衣服も、生みの親の哀しき記憶が体そのものに刻み込まれているようで痛々しさを誘う。さらに本作では、キムの恋人ジムが周りをそそのかして泥棒に入るシーンなどダンス化しづらい場面は省かれており、舞台版ならではの、もう少しコミカルで、もう少しポップなストーリーが完成されている。そもそもエンディング自体も、映画版とは異なる。見比べてみるのも一興だ。


≪攻略ポイント その2 いろんなダンスで感情を視覚化≫

映画版でジョニー・デップが169単語しか喋らなかったことは有名な話だが本作ではエドワードも周りの登場人物たちも一切無言。身体表現ですべての感情を伝えていくことになる。その難題をクリアするため、振付家は本作で様々なスタイルのダンスを併用。多彩な感情を的確に視覚化し表現するために、色合いの違うダンススタイルをクレバーに使い分けている。たとえばエドワードが愛するキムと恋仲になることを夢見て”ハサミのない手で”ロマンチックに舞うデュエットは、バレエのパ・ド・ドゥのスタイル(ここでは庭の植木君たちも踊り始める、とってもキュート!)。また、カイザー髭をたくわえた“バーバー・エドワルド”が舞台上でヘアカットを披露するシーンは軽快なスパニッシュダンス。ジムとエドワードとの間で勃発する喧嘩は『ウエスト・サイド・ストーリー』のランブルを思わせる踊りだ。こうしたダンスの流れに身をゆだね舞台を楽しんでいると、気付けば観客はエドワードの孤独な心と同化していることに。エドワードがキムをダンスに誘うため震える手を差しのべるときには、観客の誰もが心から彼を愛し応援していることだろう。


≪攻略ポイント その3 リチャードとサムの仲良しダブルキャスト≫

ロンドン版の初演キャストを務め今回の日本公演でもエドワードを演じることになるのが、リチャード・ウィンザーとサム・アーチャーの二人。共にマシューにその実力を認められる弱冠23歳の新鋭。以前の日本公演では『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』のアンソニー役などで人気を博している。しかもこの二人、ちょうどエドワード役の稽古期間中に「ルームメイトだった」というほどの仲良し。取材時も楽しそうにその頃の共同生活の話を語ってくれたが、「あっ! 誤解しないでね、二人ともちゃんとガールフレンドはいるから!」と笑いながら付け足してくれたのがおかしかった。とはいえ、そんな仲良し二人組が作り上げたエドワード像は太陽と月ほどに異なるから興味深い。16歳までラグビー選手でその後パリコレのモデルも務めたという肉体美を誇るリチャードは、愛くるしく純粋なエドワードを作り上げ。ミュージカル舞台など芝居作品への出演経験も多い感受性鋭いサムは、繊細で知的なアウトサイダーを演じ上げている。「でもどうせジョニー・デップほど上手くないんでしょ」なんてうがった見方をしていたら損をする! 舞台ファンならずとも、見事に造形された二人のエドワードを目撃して欲しい。

文:岩城京子





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