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演劇・ミュージカル 「ムーヴィン・アウト」
「ムーヴィン・アウト」写真

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 NYでこの公演を観たとき。隣りに座っていたおばちゃんが約10分が経過したところで私に怪訝な声で話しかけてきた。「ねぇ…、なんで誰も喋らないの」。 突然のことで答えに窮した私は「そういう作品なんですよ。」とウヤムヤにしか言葉を返すことができなかったけど。今だったらハッキリこう答えたい。
「これはダンス・プレイなんです」。そう、2時間にわたりビリー・ジョエル音楽のライブ独唱に乗せて進む本作は、まごうことなき“ダンス作品”。しかも、使われてる基礎技術はほぼ完全にバレエである。来日公演ダンサーに、元ABT(アメリカン・バレエ・シアター)のプリンシパルダンサーなどが名を連ねるのも納得の“物語つきの超絶ダンス”だ。


≪攻略ポイント1 トワイラ・サープ≫

 多分、熱心なバレエファンで彼女の名を知らない人はいないんじゃなかろうか。トワイラ・サープ。バリシニコフ全盛期のアメリカン・バレエ・シアターにおいて数々のエレガント&ジャジーな作品を生み出した巨匠振付家だ。なかでも脂の乗り切ったミーシャのためにオーダーメイドに作られた『プッシュ・カムス・トゥ・ショヴ』('76)は、男性スターダンサーなら誰もが踊りたがる名作中の名作。ボウラーハットの向こう側からセクシーな流し目で周りの女性を見つめ口説きまくる…、という一部カリスマにしか説得力を持たせられないフェロモン全開なバレエで、パトリック・デュポン、熊川哲也、などもこの作品をレパートリーとしている。そんなサープの真骨頂が、この『ムーヴィン・アウト』では十二分に発揮される。バレエ、ジャズ、モダン、それに日常の動作もムーブメントに加え、全体としては娯楽感抜群の“ショービズ・ダンス”として振り付けを完成。特にジョエルの名曲『ハートにファイア』に乗せて踊られる力強くスピーディな群舞と、『ジゼル』をほのめかして作られたと思われる2幕での女性陣によるトゥシューズを履いてのバレエダンスは必見。ブラトップにショートパンツなんていう女性たちの過激ファッションを抜きに考えれば、これは完全に「サープ振付けによる2幕物バレエ」。ショー作品の踊りってなんか物足りない、とは言わせない高水準なダンスを存分に味わえる。


≪攻略ポイント2 ビリー・ジョエル≫

 サープの名に聞き覚えがなくても、ビリー・ジョエルの名を知らない人はいなはず。『ロックンロールは最高さ』『ピアノマン』『アップタウンガール』など、誰もが口ずさめる名曲を生み出す当代きってのメロディ・メーカー。彼の曲が本作では、ただ一人のシンガー出演者により始めから終わりまで休むことなく歌われ続ける。'72年のデビューから数えると、33曲ものトップ40ヒットと、総計23ものグラミー賞ノミネートを受けているジョエル。この舞台のタイトルとなっている『ムーヴィン・アウト』も、もちろん彼のヒット曲からとった題名で、観客は耳馴染みのいい詩的なポップ・ミュージックに浸りながら作品世界に吸引
されていくことになる。 そもそも、この舞台のストーリー自体も彼の作った曲に触発される形で生み出さ れたのだ。その曲とは'77年作品『イタリアン・レストランで』。ここでは歌詞にブレンダとエディという別れ際の恋人が登場するのだが、「彼等のその後の人生を知りたい…」と振付け&演出のサープは考え、そこからベトナム戦争→友人の戦死→人間関係の混乱→そして…、という物語を構築していったのだ。

≪攻略ポイント3 キース・ロバーツ&ラスタ・トーマス≫

 哀しいことにブロードウェイ・ミュージカルの来日公演というものには、向こうのオリジナル・キャストは大概やって来ない。もしも彼等を観たいのなら大枚叩いて海を渡り、本場NYの劇場に自分から乗り込んでいくしかないのだ。が、今回の『ムーヴィン・アウト』に限って言うなら、逆にわざわざNYに行って観て来た人間(私もその一人…)が悔しがるほどの来日キャストが実現した。特にトニー役のキース・ロバーツと、エディ役のラスタ・トーマスの突然の配役発表にはびっくり。彼等が日本に来るとは、こりゃ一大事だ…。

 まずはトニー役のキースから説明すると、彼は'90年代にアメリカン・バレエ・シアターで活躍した元プリンシパルダンサー。まだABTの群舞の一員でしかなかった弱冠18歳の小僧っ子のときに早くも振付家サープに見出され『エバーラスト』『イン・ジ・アッパールーム』などを踊った戦歴を誇る、コンテンポラリーを得意分野とするバレエダンサーだ。彼がそっち方面のダンスを得手にすることは、マシュー・ボーン版『白鳥の湖』の米国ツアーで主役のスワンを踊ったことでも証明済み。ちなみにキースはこのトニー役で、その年のトニー賞とアステア賞にノミネートされた。

 そして、ラスタ・トーマス。彼は数年前に放映された『ウエスト・サイド・ストーリ』風のGAPコマーシャルにも登場した、あの黒髪のエキゾチックな男前クンである。彼のダンスの特徴は、とにかくユニークで現代的、そして天才肌としか言いようがない爆発力を併せ持つ点にある。「ブルース・リー、マイケル・ジャクソン、ミハイル・バリシニコフを合わせたダンサー。」と、米国の『エンターテイメント・トゥナイト』誌が以前彼のことを評したことがあったが。
まさにその言葉どおり、彼はキーロフ仕込みのバレエ技術を独創的にアレンジして前代未聞のダンスムーヴメントを発明する。そんな彼がベトナム戦争からの心的外傷で薬漬けになるエディという役柄をどう演じ踊るのか楽しみだ。
 ラスタもキースも、どの日に出演するかは当日まで明かされないらしいので。これは、まんまとプロモーターの戦略にハマり劇場に通い詰めるしかない。

文:岩城京子





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