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演劇・ミュージカル 三越歌舞伎「菅原伝授手習鑑 車引/女殺油地獄」
三越歌舞伎「菅原伝授手習鑑 車引/女殺油地獄」写真

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舞台に映像にと大活躍の中村獅童が、次に挑んだ大舞台は、三越劇場で行われる“三越歌舞伎”。'04年の同公演では、市川亀治郎、片岡愛之助という、同年代の頼もしい二人とタッグを組んで、『弁天娘女男白波』の南郷力丸などを演じた獅童。今回は、市川猿之助一門の若手衆との競演。それも金のために女を惨殺する不良息子、『女殺油地獄』の河内屋与兵衛を演じるというから見逃せない。本来の歌舞伎座公演のほか、正月の“浅草歌舞伎”、中村勘九郎の“平成中村座”に、シアターコクーンの“コクーン歌舞伎”など、さまざまな歌舞伎公演に堅実に出演し、あくまでホームベースは歌舞伎にあると公言してきた獅童。数々の名優達が踏んできた三越劇場の中央に立ったとき、“歌舞伎役者、中村獅童”はどう輝くのか。この行方、しっかり見届けたい。



≪the POINT-1【“歌舞伎役者”中村獅童】≫

'02年、映画『ピンポン』でのスキンヘッドのドラゴン役で、(歌舞伎を知らない人々にも)鮮烈な印象を残してお茶の間デビューした中村獅童。その後の活躍は周知の通り。結子夫人と知り合うキッカケとなった『いま、会いにゆきます』(映画、'04年)、叔父、萬屋錦之介の面影を彷彿とさせた『丹下左膳』(TV、'04年)、初の海外進出となった『SPIRIT』(香港・アメリカ合作映画、'06年)など、まだ4年しか経っていないのが信じられないほどの、八面六臂の仕事振り。さらに今年は、クリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』で、渡辺謙と並んでメインキャストに名前を連ね、いよいよハリウッドも射程距離かという状態。日大芸術学部出身で、『スパイダーマン』マニア、かつてはロックバンドを組んでいたこともある。だが一見、歌舞伎から遠いところに立っていそうな獅童が戻ってくるのは、やっぱり歌舞伎の世界。ついに6月、老舗・三越劇場の“三越歌舞伎”で芯に立つ。


≪the POINT-2 【殺しの場の美学】≫

三越劇場、6月の『三越歌舞伎』の出し物は、『車引き』と『女殺油地獄』。なんといっても楽しみなのは、獅童が河内屋与兵衛を演じる『女殺油地獄』だろう。読んで字のごとく、この舞台の見どころは殺しの場。与兵衛は親しい油屋の女将、お吉に金の無心をするが、むげに断わられる。どうしても金を用立てなくてはならないボンボン育ちの与兵衛。逆ギレを隠して平静を装いつつ、持ってきた樽に油を借りたいと頼み、すきを見てお吉を殺害。金を奪い、苦しむお吉を尻目に、油と血にまみれながら逃走する…というシーンだ。「獅童が殺人」、それだけでも見たくなるというものだが、そこは『曾根崎心中』や『心中天網島』の近松作品。凄惨、壮絶、妖美な美学にのっとって、殺しの場を魅せなければならない。いくら勢いのある獅童だとて、また叔父に中村嘉葎雄と故・萬屋錦之介を持つ由緒ある血筋だとはいえ、そこはやはり歌舞伎の道。物語の前半、情緒不安定ぎみの与兵衛の心の動きからラストの殺しの場面まで、一気に収束してゆく物語に求心力が生じるか否かは、獅童与兵衛のウデ次第。いつもはどこか、いい人キャラがにじみ出る獅童だが、この公演ではどこまで観客を裏切れるのか。自分の目でぜひ、確かめたい。

≪the POINT-3 【もうひとつの伝統〜三越歌舞伎】≫

東京における歌舞伎の劇場としては、本拠地の歌舞伎座、新橋演舞場、歌舞伎教室も催される国立劇場のほか、若手の正月公演が楽しい浅草公会堂の“浅草歌舞伎”、そして日本橋三越6階にある三越劇場の“三越歌舞伎”などがある。第二次世界大戦で主要な劇場が焼失した昭和21年、歌舞伎や文楽などの公演を受け入れ、その5年後に歌舞伎座が再開されるまで、故・歌右衛門、故・勘三郎、故・白鸚らが歌舞伎復興を目的に、意欲的に興行を打ったのが、三越劇場だ。その後同劇場ではしばらく歌舞伎の上演が見られなかったが、昭和51年に中村勘九郎や坂東三津五郎が“三越歌舞伎”を復活。現在まで不定期ながら上演を続けている。客席数は514席と小ぶりだが、大理石と美しい石膏彫刻に彩られた周壁や、ステンドグラスの天井など、場内は昭和2年に建造当時の、モダンでレトロな雰囲気でいっぱい。かつての名優の残り香を楽しみながら、勢いに乗る中村獅童の奮闘を観る。こんなに贅沢な愉しみはないだろう。

文:佐藤さくら





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