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演劇・ミュージカル モーリス・ベジャール・バレエ団 「バレエ・フォー・ライフ」「愛、それはダンス」
モーリス・ベジャール・バレエ団写真

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約半世紀も前、『春の祭典』をひっさげ、バレエ界にセンセーショナルな登場を果たしたモーリス・ベジャール。現在まで世界中のアートや演劇、文学など、各ジャンルに影響を与え続けているこの偉大な振付家の80歳を祝い、今年4月から来年1月まで4度にわたって贈る〈モーリス・ベジャール生誕80年記念特別公演〉シリーズ。その第2弾は、全編、ロックバンドQUEENの曲が鳴り響く『バレエ・フォー・ライフ』と、ベジャール作品のレパートリーから、ハイライトシーンを抜き出して綴る『ベジャールのすべて――愛、それはダンス』の2演目。毎回圧倒的な迫力で、こちらの魂を揺さぶるベジャールの舞台。その強烈な感覚が忘れられずに、世界中のバレエファンは今日も劇場へと向かうのだ。


≪the POINT-1【20世紀最大の振付家】≫

20世紀の半ば、それまで女性中心の美しく儚げなバレエが主流を占めていたダンス界に、ひとりの振付家が現れる。その男の名は、モーリス・ベジャール。もちろんそれまでも、天上を目指すクラシックバレエとは対照的な、下へ下へと大地を踏みしめる形の舞踊はあった。だがベジャールの舞台はそれにプラスして、ほとんど裸にも見えるボディタイツ姿の男性ダンサーを中心に据え、人間の愛、孤独、欲望、苦しみなどを、哲学的想念と凄まじい迫力でもって踊りきるという、新しい形を切り拓いた。しばしば祭礼を思わせるステージで展開されるそれは、踊りという力の持つ根源的なエネルギーを、観る者に再確認させたのだった。その衝撃的な出現から現在に至るまで、演劇、アート、文学など、あらゆるジャンルに影響を与え続けているベジャール。6月公演の『バレエ・フォー・ライフ』と『ベジャールのすべて――愛、それはダンス』は、4月に東京バレエ団で上演された『ベジャール=ディアギレフ』に続く、〈モーリス・ベジャール生誕80年記念特別公演〉シリーズ第2弾となる。


≪the POINT-2【ふたりのカリスマ】≫

先に上演される『バレエ・フォー・ライフ』は、ベジャールの振付を具現化したダンサーであり、また映画『愛と哀しみのボレロ』でも有名なジョルジュ・ドンに捧げた作品。さらに全編にわたって流れるのは、CMや英国発ミュージカル『WE WILL ROCK YOU』で、日本でも近年ますます評価が高まるQUEENの曲だ。そのボーカリストであるフレディ・マーキュリーとジョルジュ・ドンがエイズで亡くなったのは、それぞれ91年と92年。共に享年45歳だった。ベジャールは深い哀しみのなかで不思議な符牒を感じ取り、QUEENの曲を使うことにする。高く響くフレディの歌声は、時折挿入される“天上”の音楽、モーツァルトと交じり合い、やがて空に消えてゆく。強い太陽の光のような生と、それによって生じる濃い影のような死の存在が胸に深く突き刺さる傑作だ。一方、『ベジャールのすべて――愛、それはダンス』は、多くのレパートリーの中から伝説的名作『春の祭典』のほか、「争いをやめて恋をせよ」とダンサーが叫ぶ『ロミオとジュリエット』、『ヘリオガバルス』、『わが夢の都ウイーン』、『バレエ・フォー・ライフ』など、各作品のハイライトと、新しい小品で綴った最新作。こちらは人間を慈しむ視点で選んだとあって、ベジャールのもうひとつの側面が堪能できる。


≪the POINT-3【ベジャールが伝えてくれるもの】≫

この公演の後、12月に『くるみ割り人形』を、そしてベジャールの誕生月である来年1月には『ザ・カブキ』を予定している〈特別公演〉シリーズ。前者はベジャール自身の幼少時における母への思慕を織り込み、後者は歌舞伎の定番『仮名手本忠臣蔵』をベースに、普遍的な「忠誠心」を浮き彫りにしている。『バレエ・フォー〜』しかり、『愛、それは〜』しかり、ベジャール作品の根底に流れるのは、(ベタな言い方だが)人間という存在への追求と、揺るぎない愛情だ。それはベジャールが主宰するバレエ学校、ルードラ・ベジャール・ローザンヌから多くの名ダンサーが生まれていることからもうかがえる。授業はバレエのスキルはもちろん、演劇や歌、なんと剣道までも取り入れているというユニークさ。 ちなみに今クールのドラマ『プリマダム』(黒木瞳主演)で、バレエ講師の土井匠を演じている小林十市(じゅういち)も、ベジャールの元で育ち、活躍していた一人。小林はTVドラマ初出演だが、レッスンシーンを自ら考案したりして楽しんでいるという。「バレエ」だから、「テレビ」や「ロック」はNGか。ベジャールとその遺伝子の前では、答えは否。この来日公演、“バレエ食わず嫌い”の人にこそ、ぜひ足を運んでほしいと思うのだ。

文:佐藤さくら





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