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演劇・ミュージカル
「熊川哲也 K バレエ カンパニー「白鳥の湖」」    (up 2006/12/12)
熊川哲也 K バレエ カンパニー「白鳥の湖」

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バレエを知らない人でも『白鳥の湖』はなんとなぁく知っている。で、なんとなぁく知っているという理由一点でバレエの観劇デビュー作を”安易にチケットの取れる“『白鳥』で飾ったりすると…、その時点で十中八九バレエ嫌いが一人増えることになる。長いし、暗いし、呪いのように同じメロディが繰り返されるし。「おい、バレエファンは何が面白くてこんなの観てるんだ?」と睡魔と戦いながらもがき苦しむことになる。そんなあなたに教えてあげたい。あなたは二軍三軍の『白鳥』を観てしまったのだと。新米噺家が無謀にも大作落語に臨んで、思い切りしくじった現場を観ただけなのだと。だから今、ホントーに面白い古典版『白鳥』を観たいならK―バレエ・カンパニーの公演にぜひ足を運んでもらいたい。古典全幕物バレエに対する見方ががらりと一変し、目からどばどば鱗が落ちるはずだ。


≪注目ポイントその1 リアリズムなストーリーテリング≫

K−バレエの『白鳥』の何がそんなに面白いのかと聞かれたら、私は即座に「ストーリーテリングが抜群に巧い」と答える。そして、それは近年成功している『白鳥』に共通する特徴でもある。たとえばスマッシュヒットとなったマシュー・ボーン率いるAMPの『スワンレイク』。ここでは母親の愛を受けられず英国王室でひとりぼっちなナイーブ王子が、ある日自殺しようと湖畔に歩み寄ったところ、逞しく凛々しい男の白鳥に助けられ、性差を超えて彼に惚れてしまうという話が紡がれた。そして今春の来日で改めて「面白い」と絶賛されたヌレエフ板の『白鳥』。ここでは王子の深層心理が大胆に暴かれ、夢のなかで理想の女性=オデットに出合いながらも、隣りにいた悪魔=家庭教師のヴォルフガングに惹き付けられ破滅の道を歩んでいくという話であった。で、この熊川版の『白鳥』。あらかじめ断っておけば、熊川版は前述の二つのバージョンに比べると格段にオーソドックスな物語である。というより、プティパ/イワノフの原版とあらすじはほぼ変わらない。ただその紡ぎ方に、役柄の行動線を裏付けるリアリズムを丁寧に滲ませていくのだ。
だからここでは大概同じ女性ダンサーが演じるオデット(白鳥)とオディール(黒鳥)を、別のダンサーが踊ることになる。確かに、2幕で王子と愛を誓い合った白鳥その人が、3幕でいきなり黒鳥に化けて王子を騙しにくるってのは「ちょっと白鳥さん性格悪くない?」っていうか、考えとして腑に落ちない。逆に2幕で白鳥に「好きだー!」と叫びながらも、妖しいセクシーさを放つファム・ファタルの黒鳥さんに「おっ、こっちも…」と王子が目移りしてしまうという熊川版の物語のほうが格段に納得がいく。
この白鳥&黒鳥との三角関係にはじまり、この熊川版の王子はとてもとても人間臭いのだ。たとえば、独身最後の誕生日パーティーで母親に「そろそろお前も身を固めなさい」と言われ、ふっと表情を曇らせるモラトリアムさを見せたり。友達のべンノと王宮から抜け出し白鳥に出合い、夜のあいだのみ人間に戻れるという絶世の美女オデットと一瞬にして恋に落ちてしまったり。熊川が演じるとこの王子の表情が120%手にとるようにこちらに伝わってきて、純粋だからこそ悲劇を招いてしまう愛すべきジークフリート王子が新鮮に立ち現れてくるのだ。


≪注目ポイントその2 吉田都をはじめとする複数キャストのオデット/オディール≫

今年9月に英国ロイヤル・バレエ団からKバレエ・カンパニーへ移籍した吉田都。ロイヤルで10年に渡りトップダンサーであり続けた強靭な技術力と、英国国民に愛され続けた至宝のスター性は彼女ならではのもので、往年のノエラ・ポントワのように凡人が真似しようと思っても真似できるものではない。そんな無二の世界的バレリーナである吉田が、一時から「もう踊らないと思う」と封印していたのが『白鳥』の全幕。だが今回のKバレエ公演では、その禁を解き、再びオデット/オディール役に挑んでくれることとなった。感激! とはいえ体力的にフルマラソン以上に大変だと言われるのが『白鳥』全幕。今年41歳となった吉田が、今後ずっと踊り続けてくれるという保証はないので、演技力&技術力がともに最上の輝きを放つ今こそ彼女のオデット/オディールを目撃しておきたい。ちなみに、彼女が踊る日には研鑽を積む若手二人、輪島拓也と芳賀望が王子として相手を務めることになる。
その他今回の公演では、康村和恵、荒井祐子、松岡梨絵、そしてヴィヴィアナ・デュランテが主役のオデットやオディール役に扮することに。なかでもジュニア・プリンシパルに昇進したばかりの松岡梨絵が初めて、白鳥と黒鳥の両役に日替りで挑むことに注目したい。踊っているとき以外の松岡は楚々として華奢で「可憐」という言葉がぴったりくるような女の子なのに、ひとたび舞台に立つと、堂々としたイタリア女優のようなオーラを醸し出してくるから不思議。芯の強い大柄な女性を演じることのできる日本人女性ダンサーは少ないだけに、Kバレエ生え抜きの新星ダンサーとして、今回の抜擢でも堂々と主役を務めあげ大きく飛躍してもらいたい。


文:岩城京子





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