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花組芝居『百鬼夜行抄2』
花組芝居『百鬼夜行抄2』写真

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“ネオかぶき”を掲げ続けて、来年結成20年を迎える劇団「花組芝居」。座長・加納幸和のほか豊富なベテランから、入座したばかりの新人まで、層の厚い男性役者陣で構成される同劇団が今回挑むのは、03年に初演し好評を博した『百鬼夜行抄』の続編、『百鬼夜行抄2』。原作は今市子の同名人気コミックで、平凡だが闇の世界が“見えてしまう”青年・飯嶋律が遭遇する、妖魔との不思議な物語を描く。脚本は歌舞伎と少女マンガとの両方に詳しい、わかぎゑふが担当。前回同様、原作のエピソードにオリジナルの物語を絡めて展開する。お客様を楽しませる、という歌舞伎の精神を忘れず、エンタメ性溢れる多くの舞台を送り続けてきた花組芝居。前回観られなかった人も、花組芝居初体験の人も、この機会にもうひとつの『百鬼』ワールドを体験してみては。


≪the POINT-1【百鬼夜行抄の魔】≫

原作となるのは今市子の『百鬼夜行抄』(朝日ソノラマ刊)。現在まで14巻が出ている人気コミックだ。主人公の飯嶋律は、古い日本家屋に住む平凡な青年だが、亡くなった作家の祖父から妖魔が“見えてしまう”不思議な力を受け継いでいる。
物語は、同様の力を持つ従姉妹の司、一緒に暮らしていて何かを感じつつも少々のことでは動じない律の母や祖母、さらに父の亡骸に棲みついている式神の青嵐や、ひょんなことから律に一方的に仕えることになった文鳥の妖魔・尾白と尾黒など、個性的な登場人物らと共に、時にシリアスに、時にユーモラスに展開してゆく。コミックスは一話完結の連作方式で、作者の豊かな民俗学の知識を基にしながらも、単なる妖怪話にとどまらず、人への想い、縁の糸、家族という宿命が静かな筆致で描かれる。本来、妖怪譚や怪談とは、その土地に暮らす人々が作り上げた信仰のひとつのかたち。だからこそ律の日常にふっと顔をのぞかせる妖魔達の存在は、怖いながらも親しみやすく、また切なく、ごく自然に私達の心に迫るのだろう。ちなみに今回の美麗チラシも初演に引き続き、今市子氏の書き下ろし。ファンならゲットしたい一品だ。


≪the POINT-2【花組芝居の華】≫

87年の旗揚げ以来、“ネオかぶき”を標榜し続けている花組芝居。作・演出を担当し、自ら女形として出演もする座長の加納幸和のほか、映画『間宮兄弟』(森田芳光監督)で、常盤貴子演じる依子先生を焦れさせる犬上先生が印象的だった桂憲一や、劇団☆新感線など多くの外部出演で可憐な女形を披露している植本潤らが所属。ベテラン、中堅はもとより、今年入座した新人や、入座を目指す研修生など、層の厚い劇団員(もちろん全て男性)で構成されている。小劇場ブームを支えた多くの劇団が年齢を重ね、落ち着いてゆくなか、新陳代謝を忘れず常に新しいジャンルに挑戦しようとするその姿勢は、花組芝居ならではのもの。それはいまや高尚な伝統文化というイメージが定着してしまった歌舞伎の元々の語源、「傾き者(かぶきもの)」が奇抜な服装をすること、異端であること、さらにそれら全てを包括する進取の精神を持つ者であったことを思い起こさせる。来年、結成20年めを迎える同劇団だが、それは誰もいない荒野を進むようなものだったのではないか。最高のエンターテインメントを、というビシッと通った背骨も20年ものなのだ。歌舞伎の精神を加えたもうひとつの『百鬼夜行抄』の世界。ぜひ、体験してみてほしい。


≪the POINT-3【加納幸和の色】≫

歌舞伎に関する博識ぶりがつとに知られる座長、加納幸和。だが“ネオかぶき”がこれほどまでに命脈を保ってこれたのは、加納が単なる歌舞伎の真似ごとではなく、その諧謔精神にのっとって、一作一作を丁寧に作り上げてきたことにあるだろう。多国籍の美術や衣装が融合した『南北オペラ』(02年)あり、新派でもおなじみの泉鏡花作『日本橋』(05年)あり、また歌舞伎でいう素踊り(紋付き袴に白扇のみの舞台)に準じた『ザ・隅田川』(06年)あり。そのどれもが、加納独自の視点に貫かれたものだ。だから歌舞伎の小ネタにニヤリとさせられると同時に、時折投げつけられる下ネタに笑い、時に意地悪なほど活写される女のいやらしさにドキリとする。そういえば初演の『百鬼夜行抄』でも、原作ではなかなかの美女に描かれている司が、花組芝居版では…(自粛します)。「座長が好きなことをやらなくてどうするの」という加納の言葉を以前、聞いたことがあるが、一見わがままにも見えるだろうその行為を続けることこそ難しく、また劇団の方向性を維持するうえで最も大切であるのは、加納自身が一番理解しているのだろう。「お化けがゲストで登場するサザエさん」(加納)になるという、花組芝居版『百鬼夜行抄』。ここでしか観られないエンタメの王道を、今回も見せてくれるに違いない。

文:佐藤さくら





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