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演劇・ミュージカル
ブロードウェイ・ミュージカル「ヘアスプレー」         (up 2007/2/6)
ブロードウェイ・ミュージカル「ヘアスプレー」

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楽しすぎて涙が出ちゃう! そんな至福体験をしたいなら『ヘアスプレー』においであれ。インディーズ・ムービーの奇才ジョン・ウォーターズによる原作映画に、フューシャ&パープルな色調と60sポップな楽曲を上乗せして完成した本作は、主人公の体型もさることながら…、まさにジャンボサイズな娯楽作。9・11以降「劇場にいるときぐらいは現実を忘れたい!」という思いから次々に幕を開けたミュージカル・コメディのなかでも、とびっきり楽しい出来映えで、頭のてっぺんから足の先まで理屈抜きにハッピーになれるエンターテイメントなのだ。ただしトニー賞8冠達成の作品が、単なるノーテンキ娯楽作であるはずもなく、バブルガム色の表皮の裏にはきちんと普遍的なテーマが隠されているのだ。


≪ポイントその1 デブであろうが有色人種であろうが、何か文句あるか!≫

作品の主人公トレイシーは、米国英語でPC的に言うと“HORIZONTALLYCHALLENGED=水平方向に難あり”な女の子。つまりはデブってことなんだけど、今アメリカでは太っちょな人に対する差別用語をなくすためにこんな複雑な言葉を使わねばならないのだ。なんだか逆に慇懃無礼におちょくってるようにも思える呼び名だけど、でもそれぐらいアメリカ(特にホワイトカラーな社会)では太ってる人は差別されるってわけ。だけど本作でのトレイシーはそんな差別をものともせず、おしゃれにダンスに恋にと自分の好きなように人生を謳歌し、最終的に特大ハッピーな人生を手にしてしまう。その驀進力たるや、とっても爽快!
また彼女のお母さんエドナも、水平方向にかなり難ありな女性ながら「こんなキュートな人間見たことないでしょ!」と自画自賛にゴージャスドレスを見にまとい、愛と人生を謳歌する。ちなみにこのお母さん役は方法論として男優が女装して演じる役柄(『シカゴ』のミス・サンシャインと同じ方式ですね)であり、ブロードウェイ版では『ラ・カージュ・オ・フォール』の作者としても知られるゲイ役者のハーヴィー・ファイアスティーンが演じていたため、深読みすると「女装していようがゲイであろうが何が悪いの!」という憤怒まじりの叫びにも聞こえてくる。その自分肯定力たるや、かなり痛快!
そしてもちろんここでは、物語の設定となる60年代アメリカで高揚していた黒人たちの公民権運動も登場することになるのだが、そうしたすべての差別は本作では百万馬力の”自己愛パワー”を前に雲散霧消してしまう。その自分肯定パワーたるや、ちょっとでもハミ出た言動をしようものなら周りから白い目で見られかねない…、と自分を抑圧して生きる現代人からするとちょっと羨ましいほどだ。よって作品が終わる頃には「一目なんて気にしないで自分の人生を楽しんじゃえー!」と、幸福至極な心持ちで帰路につけることになるはずだ。


≪ポイントその2 小屋を吹き飛ばすような爆発的ハッピーエナジー≫

ブロードウェイで本作を観たとき何に一番驚いたかって、現地の観客の反応に驚いた。一曲目の『グッドモーニング・ボルティモア』こそワーッという普通温度の拍手で終わったが、次々に繰り出されるハッピー・チューンに客席は徐々にヒートアップしていき、1幕終盤の大ナンバー『ウェルカム・トゥ・ザ・60S』が披露される頃にはもう、劇場全体が巨大な“火の玉”のような雰囲気に。ナンバーが終わるとすべての観客が飛び上がるように立ち上がり、スタンディング・オベーションで舞台に向け大喝采。以後1曲終わるごとにこのフィーバーが繰り返され…、ブロードウェイではかなり多くの作品を観てきたけれど、ガラ公演のようなイベント以外で、こんな白熱したミュージカル体験をしたのは初めてのことだった。だから観劇後の気分としては、ワールドシリーズやスーパーボウルで応援に燃え尽きたときの気分に近い。体が熱に浮かされてる感じが自分でもよく分かるのだ。その意味で、この60年代ポップな世界観は劇場で体感しないと意味がない。そして劇場に行ったおりには、できる限り心をオープンにしてワーキャー舞台に反応しながら観劇することをオススメしたい。そうすれば、小屋全体が1ミリのネガティブさも入り込む余地のないハッピーパワーで満たされるはずだ。
ちなみに本作は今年、そのブロードウェイでの大ヒットに後押しされ、ミュージカル版映画が公開されることが決定している。話題は主人公の母親エドナ役にジョン・トラボルタが扮すること。どんなゴージャスなデブおばちゃん姿を見せてくれるのか…。興味のある人は、既にウェブで公開されているスチール写真をご覧あれ。


文:岩城京子




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