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阿佐ヶ谷スパイダース「イヌの日」
阿佐ヶ谷スパイダース「イヌの日」写真

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作品を重ねるごとに無駄のない強靭な劇構造をものにしていっている長塚圭史。新国立劇場で先月発表された新作『アジアの女』でも、俳句的に簡素な寓話世界を描き、成功を収めたのが記憶に新しい。そんな長塚が腰を落ちつける間もなく次に挑むのは、’00年に初演された自作『イヌの日』の再演。脚本は初演時のものを部分的に改訂するというが、最近の長塚作品ではやや影をひそめていた、軽やかな口語台詞の掛け合いから生まれるグルーヴ感を久々に味わえそう。もちろん6年のインターバルを経て甦る長塚芝居が、どう進化を遂げるのかも楽しみだ。


≪注目ポイント1 監禁話の裏に流れる、歪んだ深い愛≫

小学校時代に好きだった可憐な女の子を、なんでか17年間監禁しちゃう、そんなぶっ飛んだ怪事件がこの物語の導線を担うことになるのだが─。長塚作品の常として、こうした重苦しい題材の裏には痛ましいまでに深い愛の想念が渦巻く。たとえば監禁を実行する張本人・中津(伊達暁)も、別に全くいわれのない理由から少女(剱持たまき)をそうした環境に閉じ込めているわけではなくて。違った角度から感情に光を当ててみれば、彼女への愛が深過ぎるためにその“独占欲”の現れとして監禁に走ったのかもしれないし、少女の可憐さピュアさを“永久保存”したいがために、俗世界から隔離する決意を固めたのかもしれない。すらーっとあらすじを聞くだけだと単なるトチ狂った人間の不穏な監禁話だけど、この裏には実は恐ろしくプラトニックな男の純愛が流れているのかも。なんとなぁく、そう考えちゃうのは深読みすぎるだろうか。


≪注目ポイント2 母親役を新キャラとして投入/脇を固める濃厚客演陣≫

彼の中の何がねじ曲がって監禁に突っ走ることになったのか。彼はいったいどんな環境で育ちそうした衝動を持つようになったのか──。こうした主人公の人格形成的な生い立ちをよりクリアに浮き彫りにするためにも、今回は中津の母親役という新キャラを長塚が改めて加筆。奔放で自由で親というよりも“一人の女”である母・和子を、阿佐スパ初登場となる美保純が女っぷり全開に演じる。ちなみに今回は美保だけでなく、阿佐スパ初出演のメンツが多数。金に釣られて監禁に加担する中津の友人役に内田滋、監禁世界になぜか自ら進んで入り込んでいく男性役に八嶋智人、さらに前述の剱持たまきや、小劇場界で活躍する個性派・大堀こういち、ペンギンプルペイルパイルズでお馴染みの玉置孝匡なども参加盤石のキャストで再演に臨む。


≪注目ポイント3 6年前と同じ役に挑む3人≫

初演と同役に挑むことになるのは、中山祐一朗、松浦和香子、長塚圭史の3人。特に中山と松浦の二人は、剱持扮する少女が「一人だと寂しいから」という理由だけで17年間一緒に監禁されてしまう不遇な被害者。脚本を読んですぐに気付くことだが、彼らの会話はまるで子供時代から時が止まっているかのように幼く、イビツなほど純粋な形で少年少女の精神年齢を保っているのが面白い。ちなみに長塚は今回、彼ら監禁被害者の会話のみ、ほぼ台詞を書き換えなかった。それにより生まれるギャップ。つまり6年前の長塚の筆が描いた監禁の内側世界と、現在の長塚の筆が綴る外側世界。時を経て生まれた筆致の自然な差異を、そのまま内側と外側の言語感覚の違いにあてはめようという試みなのかもしれない。ちなみに個人的な今回の楽しみは、36歳となった中山祐一朗の演技。野田秀樹のごとく永遠の少年キャラを演じられそうな彼が、今この年齢で“精神年齢中2”の男子をどう演じてくれるのか、とてもそそられる。

文:岩城京子





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