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演劇・ミュージカル 「アンデルセン・プロジェクト」
「アンデルセン・プロジェクト」写真

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舞台床が垂直に立ち上がったり浮遊したりする驚愕技が話題を呼んでいるシルク・ド・ソレイユのラスベガスのショー『KA(カー)』の演出家としても知られるロベール・ルパージュ。そんな鬼才クリエイターによる最新作『アンデルセン・プロジェクト』は、『ニードルズ・アンド・オピウム』『エルシノア』『月の向こう側』につづく一人芝居シリーズの第4弾だ。たった一人の演者が舞台上で、カナダ人作詞家、作詞を依頼したオペラ劇場のディレクター、そして作詞家の住むアパルトマンの下にあるポルノショップで働く掃除夫を演じ分けることに。しかもその3つの人物の片影を重ねていくことで、不思議と童話作家アンデルセンの実像が浮かび上がってくることになるのだ。「木の精ドリアーデ」が命を差し出してまでも行きたがった1867年の華やかなパリ万博と、2006年現在のパリを行き来しつつコラージュされていく幻惑舞台。“ルパージュ・マジック”と呼ばれる、めくるめく超視覚空間が眼前に立ち上がる。



≪攻略ポイント1 世界に先駆け2カ国語で上演≫

昨年はアンデルセンの生誕200周年。それを祝う大規模な祭典が作家の生国デンマークで行われた。その催しのひとつとしてルパージュが創作依頼を受けたのがこの『アンデルセン・プロジェクト』。ここではアンデルセンの明るく楽しい作品群ではなく『木の精ドリアーデ』『影法師』などどこか闇を抱えた作品を引用しつつ、彼の偏屈で神経質で純真な”魂”を浮き彫りにしていくことになる。ちなみにコペンハーゲンでの初演以来、ルパージュ自身が主演を務めるかたちで世界中で上演が繰り返されてきた本作だが、日本公演では世界のどこよりも早く翻訳上演が決行される。つまり字幕を追うのに四苦八苦してるうちに、刻一刻と変わるルパージュ・マジックの演出トリックを「見逃した!」なんて悔しい思いをすることなく、作品の細部まで存分に堪能することができることになるのだ。とはいえルパージュさんが日本語を必死に覚えて演技をしてくれる…、わけではない。「初対面の時から運命的な出会いだと思った」と話すほどルパージュ哲学に共振する日本のアクター/ディレクター・白井晃が、本作で一人芝居に初挑戦することになるのだ。前作『月の向こう側』でもルパージュ本人が演じたものと、名優イヴ・ジャックが演じたものとでは全く陰陽の手触りが違う作品に仕上がっていただけに、今回も白井版と作者版とでは大きく色合いの違う芝居が立ち上がってくるはず。そもそも作家自身も本作については「演じる人のパーソナルな部分が入ってこそ完成する作品」と語っているぐらいなのだ。ルパージュが東京の舞台に立つのは実に13年ぶりという作者版と、双方をぜひ見比べて欲しい。


≪攻略ポイント2 マジカルな映像テクノロジー×アナログで奥深い人間の痛み≫

白井晃も観劇後、しばし茫然として動けなかったという前作『月の向こう側』。そこでは怠けきった脳の視聴覚野を普通の倍速で回転させても処理しきれないぐらいふんだんに、ルパージュ・マジックの”だまし絵的美技”がこれでもかと盛り込まれていた。たとえば象徴的なのは、舞台奥にハメられた丸窓のトランスフォメーション。それは金魚鉢になり、航空機のキャビンウィンドウになり、洗濯機の覗き窓になり、回転する惑星にもなる。また唯一のアナログ小道具であるアイロン台も、手術台からマネキンからジムのバイクマシーンにまで変貌を遂げることになる。さらには舞台全篇において溶明/クロスカット/モンタージュ/フラッシュバックなどの撮影手法を使用した映像クリップが多用されることに。まるでルパージュの複雑怪奇な創造脳をいろんな断片に切り刻んで、それを小出しに見せられているような…、他に比肩するもののない幻惑世界にさらされることになる。 しかしこれらの目を疑うような光の魔術とテクノロジーを堪能し、最終的に振り返って考えてみると、機械的な「インスタレーション・アート」を見たというより、人間の温もりと不器用さが残る「演劇」を見たという気持ちになるから不議。ルパージュ自身「私の作品ははじめはとても混沌としたところから始まりますが、最終的には一番伝えたいことだけが残っていきます。」と語るように、様々な映像のレイヤーを重ね合わせていくことで一つのシンプルな人間の痛みが浮かび上がってくることになるのだ。『月の向こう側』では母を失った双子兄弟の話と米ソの宇宙開発競争の話を重ねることで満たされることのない欠乏感を捉えたように、あるいは『ニードルズ・アンド・オピウム』でジャン・コクトーとマイルス・デイヴィスの肖像を重ねることで不安な孤独感を描いたように、新作『アンデルセン・プロジェクト』でも最新テクノロジーの裏から人間味溢れる普遍的感情を炙り出してくれるに違いない。


文:岩城京子





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